ヴリコードの街

ハナの住む街

「そうなの?」

「はい。それなりに大きな街なので色んな人がいますし。観光地でもあるので見る所も幾つもありますよ」

「どんな?」


 今度は完全にこっちを向きながら歩く。


「まずなんといっても煉瓦の道ですね」


 躓かないだろうし、いいや。気にしないでおこう。


「ヴリコードの道は煉瓦が敷かれてるんです。町の外の途中の道まで続いてて、それによって往来が増えて大きくなった街なんですけど。大通りなんかは綺麗に成形された装飾煉瓦が使われていて、利便性と景観の両方を兼ね備えてるんです」

「へえ」

「あと、聖オフェリア教会の聖堂と鐘塔ですね。聖堂は壁全部ステンドグラスと言ってもいいくらいの造りで、時間帯によってはこう、聖堂の中が鮮やかな光で溢れてとっても綺麗なんですよ」


 じーちゃんに、あまり行くなと言われてたけど。


「鐘塔の鐘も胸に響く音色で。特殊で手間をかけたものだから、整備にも結構お金がかかるとか。製造技術も喪われたものがあるらしくて、もう同じものは造れないんだそうですよ」


 鐘の音は教会に行かなくても聴こえるから、良く耳を澄ましてた。


「面白そう……」

「他にも広場とか市場とか……どこも活気があって、楽しい街ですよ」

「楽しい……」


 イグル様の瞳がきらきらと。


「イグル様の住んで……あ、失礼しました」


 イグル様の住んでる所は精霊様の御座す場所だよ。軽く聞くもんじゃないよ。


「ぼく? んー、このあたりと違ってみんな元気かなあ」


 え、教えてくれるんですか。元気?


「でも家はつまんないから、いつもあの湖に行ってた」

「イグル様と会った、あの?」

「そう。あそこならウィルジーが見えるし、泳げるし」

「泳ぐの、お好きなんですか?」

「好き。水の中は自由になれる感じがして、好き」


 イグル様は眼を細める。


「水のフィス達はあそこにはいないから、泳ぎ放題」

「はあー」

「ハナは何が好き?」


 私?


「えーと、食べることと体を動かすことと寝ることですね」


 …………。

 自分で言ったけどなにこの返答。


「えっと、ちょっと待って下さい。もう少し考えます」


 こんなふわっとしてない奴を。


「……木登り好きだったんですよね、昔。仲間内で木登り競争して一番になったことあります」


 なんか違う!


「ぼくもよく登る」

「んんー! ……みんなといると楽しかったので、もうなんか全部好きですかねえ?」


 結局とても大枠になってしまった。


「そっかあみんなかあ……ぼくは?」


 ずいっと、イグル様の顔が近くなった。


「んえ?」

「ハナは、ぼくのことも好き?」

「はん?! ぅわっ!」


 急に何を言うんですかそんなまっすぐな眼で! 転けそうになりましたよ?!


「え? いえ……と、え?」


 ええー……そもそも精霊様にそういう考えを持ってないというか、遠くの存在だし……。


「……別になんでもない?」


 悲しそうな顔しないで! そういうの弱いんですよ!


「なんでもない訳では……ほら、あの、ほら! まだ出会って日も浅いですし、あんまりお互いを知らないじゃないですか!」

「……」


 なんでちょっとむくれるの。


「えー…………助けて頂きましたし、ご恩……」


 よりむくれた。


「いえ、あのはい。好きな方です、はい」


 もういいそれで。精霊様じゃなくてイグル様として聞いてるんだろうし。それならこの答えも間違ってない。

 ああ、むくれ顔が一気に笑顔に。


「ぼくもハナ好きだよ」

「……あ、はい」


 満足したのか、イグル様は顔を引っ込めた。

 え、なんだったの?



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