第05話 成り立ち


フェラクリウスという男について語っておきたい。


彼は遥か北にある雪国の生まれだった。


育った極寒の村は人口が少なく、同年代の仲間は男ばかりであった。


色恋沙汰に縁のなかったフェラクリウスは雪で女性を象り、それによって自らの猛りを鎮めた。


誰にも気付かれる事無く、ただただ没頭した。


仲間たちが村を出て童貞を捨てる中、フェラクリウスはひたすら雪で女性を象った。


その雪像は、初めはひどい出来だった。


子供の作った雪だるまの方がまだ劣情をそそられるような粗末な偶人ぐうじんだったが、彼はそれをひたすら反復した。


十余年。


雪像のクオリティはちっとも成長しなかったが、一日たりとも欠かさず続けた全身運動は身の丈二メートルを超えた彼の肉体を逞しく仕上げた。


発想力を無限に展開し日々姿勢体位を研究し続けた結果、鋼のように硬質で葦のようにしなやかな筋肉を作り上げた。


こうして彼は人間を超越した。


そんなことが出来るのか。


誰もがそう疑問を持つだろう。



―出来るのだ。



性欲とは「命を繋げるエネルギー」である。


その活力は何よりも強く、山を移し岩をも通す。


むしろ人は種の存続のためならば、人間の枠の一つや二つ破ってのけるべきである。


三十歳を過ぎた頃、とうとう彼は雪像では童貞を捨てられない事を悟る。


それからの彼はより実戦に近い体位を想定し雪像との“スパーリング”を続けた。


「そろそろか…」


二年間。


納得のいく形に仕上がった。


理想的な交友関係を築ける異性を探しに、フェラクリウスは三十余年のあいだ出た事の無い外の世界へと足を踏み出したのだ。


そして旅を続けて早二年。


ついに、いま。


ケツぷりんぷりんのお姉ちゃんを相手に童貞を捨てる時が来たのだ―。

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