第02話 パンテェとフェラクリウス


後始末を終えた後、フェラクリウスはジジイの家で食事を振舞われた。


「ほんとうに、あなた様がいてくださり助かりました。

 村が賊に襲われるのは初めてなもので…。

 これからは対策が必要ですな」


「賊か…。

 この辺りには多いのか?」


「以前はここまで治安が悪いわけではなかったのですが…。

 昨年の凶作の影響でしょう。

 収穫まで、今が一番苦しい時期ですからな」


一年前。長期的な日照りによって作物の収穫が激減した。


飢饉と呼ぶほど大それた影響ではなかったかもしれないが、一部地域で食糧難が発生した。


生活苦から賊へと身を落とす者が増加した事により、治安は急激に悪化した。


「ここより西や、南方は特に酷かったと聞きます。

 この辺りは比較的被害が少なかったので食料を目当てに来たのでしょう」


被害が少なかったとはいうが、それにしてはうら寂れた様子の村だった。


あるのは畑ばかりで若者も少なく、かつてパンティーで富を築いた面影はなかった。


「パンテェはね、もう生産してないんですよ」


ジジイの伴侶には独特のなまりがあった。よその村から嫁いできたのだろう。


「今はね、ここじゃみんな農業をやってますよ。

 昔はね、うちではおかいこさんをやってましたけどね。

 羊を飼ってた家もありましたよ。

 今いないでしょ。もう何十年も前ですからね。

 

 よそからのお客さんもね。

 昔はいたんですよ。

 若い娘がパンテェを脱いで捨てて。

 童貞ドウテェがそれを拾いに来て。

 そうやって観光もね。

 賑わってた頃もあったんですよ。


 パンテェはね、女が織るもんだったんです。

 昔はね。そういう時代だったんですよ。

 今は若者がみんな街に出ていくようになって。

 パンテェを織れる娘もいなくなってね。


 デザインもね、街のデザイナーが作るような

 オサレパンテェじゃないと売れなくなっていって。

 若い娘はテェバックとか、テェフロントとか、

 オープンクロッチはもう履かないんですわ。

 そうやって廃業していったんですよ。


 でもたまにね。やっぱり思い出しますよ。

 日がな一日織ってた訳だから。パンテェを。

 今も倉庫にいけばね。たくさん眠ってますよ。

 未使用のパンテェが。古いパンテェがね。

 だからあなた様のようにパンテェを、履く以外の用途でもね。

 愛用している人を見ると、嬉しいですよ」


ババアの長話をフェラクリウスは黙って頷きながら聞いていた。


老女の言葉が胸に染み入るように感じた。


パンテェを大事にしよう。


フェラクリウスは改めて心に誓った。


同時に、じいさんは何故息子のタンスより先に倉庫を見に行ってくれなかったのかと少しだけもどかしかった。


「…売ってくれないか。

 この村で織った、パンテェを」


「そんな、村を救っていただいた恩人からお金は頂けません」


「それはお互い様だ。

 こちらも食料に苦しむ中、ご馳走頂いた恩がある」


倉庫から出てきたのはとても美しいシルクのセクシーランジェリーだった。


フェラクリウスはやましい気持ちを一切持たず、精一杯の敬意を金額にして購入した。

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