1+2 壊れるボタンと押す仕事

サーキュレーター

注意事項

「参加者の皆さん!こんにちはー!」


司会者らしい男が、突然、ハイテンションで叫びだした。


「まず初めに言わせて下さい!」


参加者の視線が集まる。


「これから、ここで始まるイベントは、フィクション!そうです、フィクションだと思ってください」


と、少し間を取る司会者。

何を言い出すのか?という視線に構わず、続ける。


「これから行う全ては、この施設内にいる時だけ、特別に許容されることだと、認識してください」


また少し間を取った後、

司会者は何かを取り出した。


ビール瓶だ。


約30人の男女が集められたこの場所は、

先日、計画が中止されたばかりの『大型医療施設』だった。


国内外の富裕層をターゲットにした医療ツーリズム目的の複合型病院。


最新鋭の医療機器はもちろん、宿泊施設、学校、さらにはショッピングモールまでもが併設されるという大掛かりな計画であった。


しかし、その大掛かりな計画は、何故か……、


ある日の記者会見、突然、あっけなく、中止が発表された。

理由は欠陥工事の発覚。


有名な企業グループの余りに不自然な大失態。


開くことの無かった巨大な施設で、何かが始まろうとしていた。


ニコニコ笑顔の司会者の元へ、若い男が一人、席を立って近づく。

「いいねぇ!おっさん、そのビール俺にくれよ」


背は大きく、威圧感のある格好の男、首筋にはタトゥーもある。

その男がニヤニヤと笑いながら、司会者に絡みだす。

「ここに来る前、一杯ひっかけて来たんだけどさ、飲み足りないんだ」

よたよたと近づく。


「おっさんよぉーー!その髪型、どこで流行ってんのーー?」


ポマードでかっちり固めた髪型をいじる声

「主に港区で流行っていますよー」


「そんなわけねぇだろうが!そのダセェ髪型がよぉ!流行るかっての!!……というか、さぁーー!!……まずは、名乗れよなぁ!おっさん!礼儀だろうがよぉーー!」


若い男が調子に乗って司会者に詰め寄る。


「これは失礼、私は司会を務める……美田耕太です」


司会者は名乗りながらビール瓶を高く掲げた後、


パーーン!!


若い男の頭に叩きつけた。


まるで爆ぜたかの様にガラスの破片が飛び散った。


「痛ぇっ!!」


若い男は驚き、叫んだが、すぐに気が付いた。

そして、頭を手で押さえながら言った。


「……これ、本物じゃねぇな」


アクション映画の撮影で使われる、松脂で作られているビール瓶。

ケガにならない様に硬さは無く、脆い、その分、派手に割れるので撮影に便利。


「今からゲームの説明をするんだからよぉ!ちょっと黙っていろ!!」


美田の迫力に気圧される若い男。

なぜなら、美田が、いつの間にか、警棒を握っていたからだった。


ダンッ


威嚇のため、警棒で近くにあったテーブルを叩いた。


「くそっ……」


恐ろしいケンカの様であるが、

不自然な雰囲気もある。


もしかしたら悪趣味なドッキリ番組なのか?

企画のクオリティも品格も低レベルな時代遅れの撮影なのか?


「これ……?テレビの撮影?」

と、一人が小さく声をもらした。


それをきっかけに、

『一般人が参加するテレビか何かの企画なのだろうか?』

と、何人かが考え始めた。



美田が、その声のした方向をにらむ。

その顔は、わざとらしいほど不機嫌だった。


そのため、それ以上、誰も何も言わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る