11話 孤児院訪問


「こらー!尻尾掴むなー!スカート捲るなー!!耳を触るなー!!!」


 変態の馬車に揺られてやってきた孤児院。そこで俺を待っていたのは四方八方から伸びてくる手、手、手。それはもう躱すこともできないほどの大量の手が俺の尻尾やスカートに殺到していた。

 俺は早くシスターに会いたいというのに子ども達の手に邪魔されて動くことすらままならない。


「みんなちょっと離れて!私は早くシスターに会いたいの!あ、ちょっとスカート下ろそうとするな!捲るまでは百歩譲って許すけど下ろすのは許さないぞ!」


 ついにはどさくさに紛れてスカートを下ろそうとしてくる輩まで現れ始めたか!流石にそれはいくら前世が男の俺でも許さないよ!

 これからシスターに会うというのにパンツ一丁になるわけにはいかないんだ!スカートを守るためなら身体強化魔法を使うことだってためらわないぞ!!


 あー、もう切りが無い!こうなったらもうあれを使うしかないか。本当はなるべく使わないようにしていた必殺技なんだけど仕方がないね。


 大きく息を吸って叫ぶ。


「アーシャ助けて!!」


 これぞ俺の持つ秘奥義『アーシャ召喚』

 いでよアーシャ!我の願いを叶えたまえ!!


「うーん、ちょっと私には荷が重いかな。頑張ってルーちゃん!」

「え!?」


 秘奥義が発動しない……だと……?

 何故だ!?ええいこうなったらもう一つの必殺技を使うしかない!


「お嬢!ペットのピンチだよ!助けて!!」

「自分でなんとかしなさい。いつも『私は最強のペットだから大丈夫』とか言ってるじゃない。ルナなら大丈夫よ」

「薄情者ー!!」


 秘奥義『アーシャ召喚』に失敗した俺は、次に秘技『お嬢召喚』を使った。しかし返ってきたのは無駄にクオリティーの高い俺のものまねだけだった。


 うぐぐ…まさか必殺技が二つとも封じられるなんて…一体どうすればいいんだ!!


 今尚俺と孤児院の子ども達との血で血を洗うような凄まじい争いは続いている。来る手を払い除け払い除けなんとか善戦しているけど、劣勢なのは変わらない。というかいつの間にやら男子だけじゃなくて女子まで混ざり始めているから手が足りん!!


 どうにか打開策を考えなくては……

 よし。作戦を考えてみよう。


 作戦1

 身体強化魔法を使って子供達をぶっ飛ばす。

 倫理的にも俺の心情的にもアウト。次!


 作戦2

 気絶を装い、救助されるのを待つ。

 一見完璧な作戦に思えるけれど、気絶を装ってる間に衣服を剥ぎ取られる可能性あり。結果的に全裸でシスターの前に行くことになりそうだから却下。次!


 作戦3

 子守唄を歌って全員を寝かしつける。

 子守唄なんて歌えないし、現実的に考えてそんなことできるわけないでしょうがバッキャロー!だから駄目。


 良い作戦が一つもないじゃないか!

 この天才の頭脳を持ってしても今の状況を覆す方法は無いっていうのか…

 俺の体力の限界ももうすぐそこにまで迫ってきている。万事休す…か。


「皆さ〜ん。ルナを困らせてはいけませんよ」


 もうこの際スカートを諦める他無いと覚悟を決めた俺であったが、神様はまだ俺を見捨てていなかったみたいだ。

 少し離れたところから俺が今最も会いたい人の声が聞こえてきた。声の元を辿ればこの状況において俺を助けられる唯一の人の姿があった。銀髪巨乳の超美人、シスターアリスがここに降臨した。


「シスター!!会いたかったよ〜」


 その姿を認めた瞬間、俺の身体は動き始めていた。子供達がシスターの声に怯んだ隙に子供達の間を縫うように走り抜けていく。そして昨日ソフィにやられたようなダイビングハグをシスターに繰り出す。


「ふふふ。まだ前に会ってから一ヶ月も経っていませんよ。相変わらずルナは寂しがりやですね」


 シスターの胸に飛び込んだ俺の身体は優しく受け止められ、ついでに頭を撫でてもらえた。これだよこれ。俺が求めていたのはこの温もりだ。


「シスターみんな酷いんだよ。スカート捲ってきたり尻尾つかんできたりするんだから」


 とりあえずさっきされていたイジワルをシスターにチクっとこ。イジワルするような悪い子達はシスターに怒られちゃえばいいんだよ。

 逆にあの騒ぎの中でもソフィと一緒に遊んでいた女の子達は後で頭を撫でてあげよう。


「それはだめですね。次までにしっかりと言い聞かせておきます」

「ありがとシスター」

「いえいえ。叱るべきところはしっかりと叱るのが教育ですからね」

 

 シスターは基本的にいつでも優しい人だけど、怒るときはしっかり怒る人だ。俺も何度かシスターに怒られたことがあるから身をもって知っている。

 俺にイジワルした男子と便乗した女子は俺達が帰ったあとにでも怒られるがいいわ!伯爵家のペットにイジワルするのは悪いことだと思い知るんだな。


 それはそうと…


「シスター、マミーとのお話はもういいの?」


 俺が孤児院の子ども達にもみくちゃにされていた間、シスターがすぐに助けに来てくれなかったのには理由がある。マミーの用事関連で席を外していたからだ。

 マミーは孤児院に着くなりすぐにシスターを連れて奥の部屋に行ってしまった。それはもう俺がシスターに抱きつく暇がないほどの早さでスタスタ歩いて行っちゃうもんだから、俺の一度目のダイビングハグは不発に終わってしまったくらいだ。

 しかし今はここにいる。マミーはまだ帰ってきていないというのに。


「はい。私が必要なお話はもう終わったので戻ってルナやアーシャの相手をしてあげてほしいとレティシア様に言われたのです。あとはシスタービアンカと話を詰めるみたいですよ」


 なるほど。だからマミーは帰ってこないのにシスターだけ帰ってきたのか。それでマミーの相手はシスタービアンカがしている…と。


 ん?シスタービアンカ?


「え?おばばまだ生きてんの?」

「まだまだ元気ですよ?」


 これは結構衝撃の事実かも知れない。この前来たときに『あんたが次来るときにはあたしゃポックリ逝ってるかもしれないねぇ』とか言って勝手にフラグを立ててたからもういないものだとばかり思ってた。


「そっか。おばばもいるんだ。なら後で挨拶しておかなくちゃね」

「ええ。それがいいです。あの方は子供達を平等に愛していますから。ルナに会えればとても喜ぶはずですよ」


 んもう仕方ないなぁ。どこに行っても伯爵家のペットは人気が絶えないんだから。おばばにも仕方ないからナデナデさせてあげようかな。


「あ、そうですルナ」


 おばばの顔を想像して考えていると、シスターがポンと手を叩いて俺に目線を合わせてきた。


 え?なになに?もしかして…告白!?

 シスター、こんな皆のいるど真ん中で愛の告白をしちゃうの?なかなか大胆だね!どんと来いだよ!!


 俺の心の準備が出来たと同時にシスターは口を開いた。

 

「あとで子供達に五英雄のお話の読み聞かせをしてあげてくれませんか?どうやらルナの読み聞かせは人気があるみたいなんです」


 あぇ?耳がおかしくなっちゃったのかな?全然告白が聞こえてこないぞ。

 …いや、もしかしたらなにか遠回しの告白なのかもしれない。月が綺麗ですねってだけでも告白になるって聞いたことがあるし、シスターなりの告白なのかも。


 この言葉の真意を読み解かなくては!!


 う~ん。考えろ。考えるんだルナ。

 読み聞かせ……告白……人気………ん〜……分からん。でも取り敢えずシスターからの告白はOK以外にありえないからOKしておこう。


「いいよ!世界一幸せにしてあげる!!」

「本当ですか?最近は私やシスタービアンカの読み聞かせじゃ満足してくれない子がいて困っていたんです。ルナも気合十分みたいですし、お願いしますね」

「うん。任しといて!」

 

 ふっふっふ。ようやくシスターも自分の気持ちを表に出してくれたぞ!ここまで長かったよ本当に。ついに俺はシスターと結婚できるのだ!!


「ねえ、アーシャ。ルナは読み聞かせをするのが好きなのかしら?なんかすごく喜んでいるのだけど…」

「そうですね…あれは多分シスターアリスに告白されたと思って喜んでいるだけですよ」

「え?どういうこと…?私にはただ読み聞かせを頼まれただけに聞こえたのだけど…」

「はい。私にもそう聞こえましたけど、多分ルーちゃんの頭の中ではあの言葉が勝手に愛の告白に変換されているんだと思います。そうじゃなければあのタイミングで『世界一幸せにしてあげる』なんて言葉は出てこないと思うので」

「はぁ…本当に私は何故あのお馬鹿なペットを拾ってしまったのかしら。それにアーシャもルナのこと理解し過ぎじゃない?少し怖いわよ」

「私はルーちゃんの親友ですから!!」


 う~ん、結婚式はどこで挙げようかな?





新しい登場人物

アリス(シスター)27歳 人族

ルナとアーシャが育った孤児院の銀髪碧眼巨乳シスター。

とても優しい性格をしているが、怒るときはしっかり怒る厳しい一面も持ち合わせている。

ルナの初恋の人(シスだった頃は含めない)。

子供が大好き。

一ヶ月前までは独身だったため、独身だとルナに思われているが実際のところは……








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