5.義姉のおもちゃ/意識するという事.M
MIYABI View
夜が明けて日曜日の朝、1ヶ月ぶりの自分のベッドでの睡眠はなんだか感触が違うのと、匂いが気になってあまり眠れなかった。
多分あの匂いは男の時の匂いなんだろう、もしかしてあれが加齢臭というものなんだろうか、だとしたら中々にショックだ。
―――いやしかし、今は15才の女の子な訳でもう加齢臭とはオサラバな訳か。
まずは枕カバーとシーツを念入りに洗い直し、匂いを消してしまいたい。
前まで気にならなかった匂いが気になるようになるなんて、やっぱり身体そのものが別のものに変わっているという事を実感するなあ。好みも女の子っぽくなるっていう話だし、異性を好きになるようになる、とも。
異性、異性か、今身近にいるのは敏夫君くらいだけど学校に行くようになったら好きな男の人なんかも出来るようになるのだろうか、正直想像したくないなあ。
感覚的には元の自分の半分以下の年の子達なんだよね、15才の女の子からすれば丁度良いんだろうけど、どうなる事やら。
―――
朝ご飯を食べ終えて片付けているとインターホンが鳴り、敏夫君が対応してくれた。
ちょっと早いけど綾ちゃんが来たのかな?綾ちゃんというのは敏夫君の姉で私から見ても義理の姉に当たるお姉ちゃん。
「まさ兄ちゃんおはようござ―――」
そう言って固まった後にとても驚きつつ可愛いと言ってくれた。
「綾ちゃん久しぶり、ああ、今はお姉ちゃんと呼ぶべきかな」
敏夫君には断られたけど綾ちゃんには"お姉ちゃん"と呼んでみた、すんなり受け入れてくれたみたいで安心した。
ちょっとテンションがおかしいような気がするけどこんな子だったっけ。
綾ちゃん、いやお姉ちゃんが触ってもいいか聞いてきたのでいいよと答えたんだけど、これは失敗だったかも知れない。沢山触られて、沢山撫でられた。
そして不思議な事に女の人にこれだけ触られているのに全く興奮しなかった。
男の時ならこんな若い女の子に触ったり撫でられたりすればそれなりに興奮したものだと思うのだが、それが全くだったのは予想外だった、あらためて男ではなく女の子なんだなと実感した。
もしかして敏夫君に同じ様にされたら興奮したり落ち着かなくなったりするのだろうか……いや多分ないだろうけど試す勇気はないかな、だって男に触られるって考えたくもないしね。
敏夫君が助け舟を出してくれて撫で回しから逃れる事が出来た、敏夫君には感謝しよう。
食器なんかの片付けが終わって次に待っていたのはお姉ちゃんが持ってきた女性用の服だった。
既に女性下着を身に着け慣れているとは言え、可愛い服を着させられる事には抵抗があったけど、問題はそれ以前の、服を脱がされた状態でまじまじと見られる事だった。
「うわー、本当に肌白くてキレー、お尻小さくて身体のラインも細いし、あ、でも出るとこしっかり出てて羨ましい」
自分の身体が他人に見られてどういう風に映るのかを言われるのは男の時には体験していないのでどう対応していいか分からなくてすごく恥ずかしい。
それにハグなんかもしてくるし、子供扱いもされるしで着替える前からすごく疲れた、完全におもちゃ扱いだよこれは。
そしてやっと服を着させられて落ち着く事が出来た、敏夫君に似合ってるか感想を求めてみる。
「う、うん、凄く可愛い」
想像していなかった真っ直ぐな可愛いという感想、さきほどお姉ちゃんから感じた恥ずかしさとはまた別の恥ずかしさが私を襲う、同時に嬉しさなんかも湧き出てきて、初めての感情に戸惑いを覚えていた。
そうか可愛いのか、しかしこれを喜んで良いのやら。
買い物に何故か敏夫君が来ない様子があったので、お姉ちゃんと2人きりになりたくなくて敏夫君に一緒に来るようお願いしてみたら一緒に来てくれるみたいで安心した、困った時は頼むよ敏夫君。
―――
流石にまだ女性服売り場に入る勇気は持てないので抵抗していたが無駄だった。
引きずられる私を敏夫君は手を降って見送っている、裏切りもの~、と思っていたらお姉ちゃんに呼ばれて渋々着いてきてくれた。
バストサイズはE60という事なので結構大きいと思う、男の時なら喜んでいたかも知れないけど今は結構邪魔に感じる、男を引き付けたい訳でもないし、身長は150センチという事でかなり小さいような気がする、思っていたより小さい、下手をすれば小学生と同じくらいじゃないかな。
服を選ぶ段になって、お姉ちゃんと店員さんの目が怖い、着せ替え人形のようにされるような気がする。
購入は私のカードを使えばいいよと前もって言っておいたけど、かなりの量を購入していた。
渡された服に着替えて、敏夫君達に見せるという流れが確立していたけど、どれ着ても似合う、可愛いと褒めてくれるので私は恥ずかしさが増していき、思わずカーテンの裏に隠れてしまったりもした。
以前の癖で猫背気味になるのでその時はお姉ちゃんや店員さんから背筋を伸ばすように注意される。良いものを着ていてもみっともなく見えてしまうそうなので、気をつけないと。
それにしても上はともかく下はスカートしか履いていないような気がしたので聞いてみたら、若いから、という事らしい、言わんとしてる事は分からなくもないけども、そういうものなんだろうか。
お姉ちゃんも履いてるし納得するしかないね。
―――
お昼は久しぶりにお肉が食べたい気分だったのでステーキ店で牛ヒレ肉を食べる事に。
「いやあ、久しぶりの牛ヒレ肉ちゃんだね、こんなに沢山あって嬉しいなあ」
「良かったね、みやびちゃん、たっくさん食べてね」
「いただきまーす、パクッ、うん!美味しいなあ、これなら全部イケそうだよ、敏夫君」
「良かったですね、安心しました」
「うんうん、牛ヒレ旨い!いくらでも入りそうだよ~幸せだな~」
なんて幸せだったのもつかの間、大問題が、300グラムを食べきるどころか4割弱も残してもう食べられない。
「う……なんで……」
確かに食が細くなったのは実感していたけど、大好物だったものがここまで食べられないなんて、以前なら牛ヒレ肉なら400グラムでもペロリといけたのに、出された食べ物を残すという事も合わせて、本当にショックだった。
「大好物なのにこんなにも残しちゃうなんて…、どうしよう…」
「みやびちゃん、無理しなくていいんだよ」
「俺が残り食べますよ、まだまだ入りますんで」
みかねて敏夫君が食べてくれる事に。
迷惑をかけてしまってすまない、という気持ちとは別に頼もしいという気持ちと、少しの"羨ましい"という嫉妬を感じてしまう、以前の私に出来て、今の私には出来ない事が出来る、という事に。
これが女の子になった、という事の一つなんだろう。
女の子、それを自覚し私の残したステーキとご飯を食べる敏夫君を見ると、ふと、これって"間接キス"なのではないだろうか、と気付く。
それに気付いた私は途端に頬が紅くなり、隠す為に下を向いた。
「異性として見たら、こんな事まで意識するのかあ…」
思わずだけど小声で呟いてしまっていた。
―――
お姉ちゃんと2人で晩ご飯の準備をし、得意の玉子焼きを作って見せた、お姉ちゃんが凄い上手だと褒めてくれて少し嬉しかった。
なんだか、今日一日だけだというのに”お姉ちゃん”と声に出して、心でも思っていて、さらにお姉ちゃんも私の事を妹として完全に扱ってくれていて、段々とお姉ちゃんという言葉に違和感が無くなってきて、凄く"お姉ちゃん"が馴染んできた気がする、これは凄い事なんじゃないかな。
明日からまた暫く会えなくなるのが残念でならないよ。
晩ご飯を美味しそうにパクパクと食べる敏夫君を見て、嬉しさを感じていた、昼のような嫉妬はなく、自分が作ったご飯を美味しそうに食べてくれるという、その行為に。
そして敏夫君は褒めてくれるんだ、これが嬉しくて。
少し前までは自炊しても食べるのは自分だけで、寂しさを感じなかったかと言えばそれは嘘になる、4月の男だった時も同じように食べていたとは思うけど、こんな感情は無かった。
やっぱり昼に自分を女の子として、敏夫君を異性として意識してしまってからの心の変化なんだろうか。
別に恋愛対象が男になったと感じる訳じゃない、かと言って女の子が恋愛対象かと云われるとなんだか違うような気がする。もう女の子になって1ヶ月経ってるし、心が身体というフィルターを通して変化している最中という事なのかな。男を好きになるなんて考えたくもないんだけどね。
―――
風呂上がりは、いやお風呂中の髪の洗い方も含めて本当に大変だった、2日で1回でいいからまだましだけど毎日と云われたら髪を切る事も考えたくらいにはね。
昨日も着ていた大きめのパジャマを着る、これはちょっとした確認で、敏夫君がそういう目で見てきた時に自分がどういう感情になるか、どういう事になるかをみてみたいんだよね。
結果としては、敏夫君が胸元を見る度にちょっとだけドキドキする、という事が分かって、これも昨日とは違う感情だった、昨日は見っともない姿を見せちゃったなあ、なんて思ってた。
今日は緊張感が少しあるドキドキで、嬉しいのか怖いのかそういう感情までは分からなかった。
敏夫君もジッと見るような事はしてこなかったので紳士的だな、と感じたし。
時々見てしまうのは男の性としてしょうがないと分かってるからこれくらいなら頑張ってると思うよ。
大丈夫そうなので暫くはこのパジャマでいいかな。
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