異世界チェンジリング

蒼月龍華

第1話 日常と非日常


私の家庭は、ほんの少し…普通とは違う家庭だと思う。

その理由は…



《急に仕事が入った。今日は夜遅くまで帰れないと思う。》


「…『今日は』じゃなくて、『今日も』でしょ。」

自分の携帯に届いた父からのメールを見て思う。


次に私は、兄に電話をかけてみる。

電話のコールが何回も鳴るが、誰も出なかった。


数分後、不在着信に気付いたのか、メールが届く。

そこには父からのメールと同じような内容。今日中には帰れないらしい。


そう、これが私達の日常。


でも、ねえ…二人共、


「今日は、私の誕生日なんだよ。」


去年もそうだった。誕生日パーティをするという約束は破られた。


一人で過ごすには少し広すぎる家。…お母さんが生きていれば、何か違っただろうか。


父も兄も、仕事熱心な人だ。おかげで私は、不自由なく暮らせている。


でも、それは…家族の時間を犠牲にしてまで、欲しいものではない。


自分の誕生日なのに、自分で用意したケーキとごちそうを見て、虚しくなる。食欲なんて無い。テーブルに並べたそれらを、冷蔵庫へとしまう。


結局、父も兄も…私に興味ないんだろう。と、ネガティブな思考が湧いてくる。



家にいたくない。




散歩へ出掛けようと準備をする。もう夜だが、そんなの関係ない。


玄関の扉を出て、鍵をかける。あの二人は合鍵を持っているから、たとえ帰ってきたとしても平気だ。…まあ、私が散歩へ出掛けてる内に帰ってくることはないだろうが。


向かうのは、私のお気に入りの場所。


山の麓にある、美しい泉だ。




__




「やっぱり、いつ見ても綺麗だなぁ。」


月明かりに照らされた泉。夏には蛍も見ることが出来る。


幼い頃、お母さんに教えてもらった思い出の場所。


好奇心で水面に触れる。水は冷たく、鏡のように自分が映っている。


「……、?」


ほんの一瞬、自分ではない誰かが映った気がした。きっと気の所為…。



チリーン、チリーン


「…何の音?」


何処かで聞いたことのある音がする。でも、分からない。


チリーン、チリーン


…そうだ、風鈴だ。風鈴の音に似ている。



すると突然、泉が眩しいくらいに光り出した。


「うっ…何!?」



目が眩んだ私は、光と共に泉の中へと吸い込まれてしまった。

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