第2話 社会を変える動きの実例

 本稿では大検(高認)と通信制高校の躍進を中心として論じていくが、これからも、今まだ問題となっていないことが社会問題となり、人々の認識が大きく変わっていくことはあちこちで起っていくであろう。

 いや、実際、起きているではないか。


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 いわゆる「サラ金」はどうか?

 かつてのような乱暴な取立は不可能となり、利息制限法を超えた過払利息は返還請求をすれば返還されるようになった。判例も確立した。


 では、それを後押ししたのは何か?


 パソコン、それも表計算ソフトの普及である。

 電卓では手間な計算も、表計算にかかれば数値さえ打込めばあっという間に過払金も利息も計算されてしまう。それをもとに、ワープロ機能を使って雛形通りに訴状を書けばよい。

 雛形なんか、ネット上にいくらもある。

 その結果、単なる借金の減額どころか、むしろ過払と称して多額のお金が返ってきたという事例があちこちで発生した。

 法律事務所においても、着手金はいらないしむしろ交通費も出すから、そういう借金のある人は、なにはともあれ事務所まで来てね、と。

 そんなスタンスをとるところさえある。


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 生活保護にしてもそうである。

 行政からタダで金をもらうのは「恥」という意識は今なお根強くある。

 生活保護受給者に対する社会の目が今なお厳しいのは、言うまでもない。

 だが一方で、それは今まで以上に権利として認識され、悲壮感もなくなりつつある。もちろん、仕事もしないで月初めに保護の金が入ったとたんに気持ちが大きくなって、朝から大酒を飲んで・・・、という人も少なからずいる。

 だが、生活保護をベースとして、できる範囲で仕事をしつつ苦しい中やりくりしている人も数多くいる。


 生活保護者は仕事をしてはいけない、などということはない。

 市町村の然るべき事務所に申告することを条件に、働くことも可能である。

 というよりむしろ、生活保護を受けつつ働くことはむしろ奨励されている。

 単に奨励されているだけではない。働いて得た金額はそのまま保護費から削られるわけではなく、一定の「褒賞」的な扱いもなされていて、仕事をすればそれだけ生活が楽になるシステムも充実しつつある。

 もちろん、その制度が現段階で十分であるなどと言うつもりはないが。


 いずれにせよ、これまでの「生活保護者像」は大きく形を変えつつあるし、世の中の認識もそれに応じて現に変化してきている。

 昨今話題になることのある「ベーシックインカム」の制度にしても、「年金問題」も絡め、その流れの中で出てきたものである。

 低所得者が「生活保護」名目で金をもらうことの価値判断が云々の議論は、私たちみんながどのように仕事をし、どのような形でお金をもらって生活していくべきかという議論へと変わってきつつある。


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 さて、このような変化に一番振り回されるのは、たいてい、社会的には「弱者」と呼ばれる側である。

 そのことは、時代が変わっても形を変えて繰り返されている。


 もっとも「弱者」故の立ち回り方や戦い方は、ちゃんとある。

 そのために必要なものは何か?


 的確な情報をもとにビジョンを明確にし、それに向けて行動していく一連の能力。これはどんな社会問題であっても、当事者にとって最も必要なものである。

 そこには、社会問題として取組むべき余地は常にあるし、また、ビジネスチャンスさえもある。

 真鍋氏や私の取組は、幸か不幸か大きなビジネスチャンスには恵まれなかった。

 しかしこの流れの中、きちんとしたビジネスモデルを確立した人たちもいる。

 社会が変わっていけば、それで救われる人もたくさん出てくる。

 その流れこそが、社会全体を発展させ、より住みよい社会へとしていく原動力となるのである。


 やれ「全人教育」だの「愛情」だの、そんな仲間ごっこのためにするような空疎な美辞麗句など、何の解決策ももたらさない。

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