第7話 ボクはね......。

「今日は助かった。ありがとう」

「このくらいなんてないよ」


 隣を歩く愛莉あいりが言った。

 俺は大量の荷物を持って家路いえじいている。

 手に持つエコバックには安くなった惣菜そうざいに、ちょっとしたなまもの、そして氷等々が入っている。

 これほどの食材を安く手に入るとは本当に助かった。


 食材もそうだが、特によかったのは食用油。

 油は特に切らしているわけでは無い。だけど最近何かと高いから「おひとり様一個まで」を二つゲットすることにした。

 保存できるものは買い込んでも問題ないだろう、ということから缶詰類にカップるい類もゲット。

 買い込む俺の様子を見て愛莉が呆れ「それを主食にしちゃだめだからね」と注意してきたが、あくまでこれらは保存食。

 俺は普通に食事を作る。


「ニマニマしてそんなに嬉しかったの? 」

「一人暮らしをしている身としては勲章くんしょうものだ」

「何か主夫しゅふみたい」


 今度何かおごろうかと考えつつ歩いていると隣からくすっと笑う声が聞こえてくる。しかし不快感は感じない。

 こちらをバカにしたような笑い方ではなく、感心したという感じ。


「本当に家が近いんだな。俺のマンションと」

「みたいだね」


 学校の教室で愛莉にお手伝いを頼んだ俺はスーパーに直行することにした。

 正門を出て「いざいかん」と足を進めようとしたら愛莉の家を知らない事に気が付いた。

 恥ずかしさを我慢して頼んだのはいいが、帰る方向がズレたら助けてもらえるのも助けてもらえない。

 彼女に、不審ふしん者に思われない程度に、話を切り出し家を聞くとすんなり教えてもらえ、俺が住んでいるマンションに近いことが判明した。


「でもまさかレンが一人暮らしだったとはね」

「……不思議でもないだろ。一人暮らしやつ多いし」


 俺達が通う高校は県内有数の進学校だ。それに加えて部活動もさかんである。

 県外からスポーツ推薦すいせんで入る人も多いせいか、高校生から俺のように一人暮らしをする人は多くいるみたいで。


「確かにそうだけどレンみたいに部活動をしていない人で一人暮らしは珍しいんじゃない? 」


 ん~、と指をあごに手を当てながらそう言った。


 そう言われるとそうかもしれない。

 俺の情報のほとんどはトモ頼りなのだが、彼から俺みたいな例を聞いたことがない。


 トモと遠藤さんは一人暮らし......、いや二人暮らし。

 俺の一人暮らしと似た話として二人の事が出ないということは、愛莉には言わない方が良いだろう。

 邪推じゃすいされたとしても想像される通りの二人なのだが、「高校生の二人暮らし」ということだけで変な尾ひれがついたらいけないし。


「確かに聞いたことがない」

「でしょ? 」


 愛莉は少し前に出て体をひねり「にぱぁ」と明るい笑顔を咲かせた。

 しかし同時に感じる違和感。

 そう昨日の違和感。

 聞かない方が良いと思いつつも、感じ取った違和感はぬぐえない。

 

「スーパーってすごいんだね」

「普通の時間帯はそうでもないんだが、まぁ時間帯が時間帯だしな」

「夕方の争奪戦の噂は聞いていたけどまさかあそこまでとは。元陸上部のボクでも少し引いたよ」

「そう……、? 元? 」

「うん。元」


 愛莉は確か陸上部のはずだ。

 しかし彼女は今、「元」と言った。

 一体どういう……。


「ボクが今日部活に行かず遅くまで学校に残っていたのは退部届を出すためだったんだよ」

「……と言うことは今日めた? 」


 俺が聞くと大きく頷く愛莉。

 両手を後ろに組みわざと大きく歩幅を取って歩いているようだ。

 愛莉が俺の隣をゆっくりと通り過ぎる。

 そして彼女の両手とこん色のブレザーに包まれた背中が目に映る。


 ピタッと立ち止まると愛莉はクルリと回り俺の方をみた。

 黒い瞳がのぞき込んでくる。

 赤い夕焼けを背にし少し悲し気な顔をしながら口を開く。


「あのね。昨日助けられたから、さ。レンには話しておこうと思ったんだ」


 反射的に「何を? 」と聞きかけて言葉を飲み込む。

 俺も足を止め、彼女の話に耳を傾けると悲し気な声が耳に届いた。


「……ボクは、もう…………走れない、んだ」


 詰まりながらも出てきた言葉は、俺には重すぎる言葉だった。


 ———

 後書き


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