『【怪談】■■山って知ってる?』(怪情報チャンネルより)

『はいどうも、こんばんはー。今日も配信やっていくよー』


「まってた」

「こんばんは~」



(十分後)



『よし、じゃあ、そろそろ話そうかな。タイトルにもあった通り、今日の題材はこれ、■■山。みんな、この山の名前は聞いたことある?』


「知らないです」

「どこそこ」

「聞いたことないなぁ」


『あーやっぱり知らないよね。うんうん。じゃあ簡単に概要から説明するね』


「お願いします」

「オナシャス」


『調べたら出てくると思うんだけど、■■山ってのは●●県にある山なんだよね。んで、多分何回か配信見てくれた人なら知ってると思うけど、その●●県って俺の地元のわけよ』


「ふむふむ」

「へぇ」


『それで、これもちょっとホラーに詳しい人なら知ってると思うけど……●●県って実は結構曰くつきの場所なんだよね。そもそも■■地方自体が結構その手の怪談が多い場所なんだけど、その中でも●●県は特に目立つっていうか、立地的に何かあるんじゃないかってくらい変な噂多いんだ。結構ヤバい事件も定期的に起こってるし……若い人は知らないと思うけど■■■■事件とか、最近も小さい子が殺されたってニュースでやってたでしょ?』


「本当だ」

「こわE」


『で、まあ俺の地元ってこともあって、結構怖い話を知り合いから聞いたりするんだよね。というか、フフッ、俺も●●県の怪談はシリーズ化できるくらい話してるし、この下りも何回目だよってくらいやってるけど』


「(笑)」

「草」


「よし。じゃあ恒例行事は終わりにして、本題に入ろっか。さっきも言ったけど■■山は本当に俺の地元にあった山で、実家から徒歩で一時間くらいの距離にあるんだ。標高は……そんなに高くなかったかな。●●●メートルくらい? 富士山とかと比べると、全然小さい山だよね」


「小さいね」

「自分と地元一緒です! ■■山も知ってます!」


『おっ、知ってる人いるね~! もしかしたら同級生だったかも? それで、■■山ってのは結構、地元の人にもパワースポットとか心霊スポットとして知れ渡ってる山だったんだよ。でも……多分、本気にしてる人は俺の周りではあんまりいなかったかなぁ。別に全国レベルで有名な場所ってわけでもないし、さっきも言った通り、山自体がちっちゃいから、よく年配の人とかキッズもいたし、人通りは結構あったと思う』


「あんまり心霊スポットっぽくないね」


『そうそう、噂だけが先行してるって感じかな。どんな幽霊が出るとかも聞かなかったし、歴史的に見ても過去に何か凄惨な事件が起きたってわけでもなかったから、まあ心霊スポットの中でも大したことないって感じだと思う。でも……その山でついに、不思議な体験をしたって人が知り合いに現れたんだよね』


「おぉ」

「どんな話?」


『その人の名前は……いつも通りAさんってことにしておこうかな。Aさんはそのまま地元で働いてる人で、もう結婚して、今年で四歳くらいになる子どもがいるんだよ。この子はBちゃんってことにしておこうか。で、去年の夏休みに、家族水入らずで■■山にハイキングに行ったんだよね。当然、昼間だから、そこそこ人もいたみたい』


「まだ怖くない」

「よくある話だ」


『Bちゃんは虫が好きみたいで、アミとかごを持って虫取りをしてたんだよね。でも……この年頃の子にはあるあるの話らしいんだけど、Aさん夫妻が少し目を離してる間に、お子さんがいつの間にかふっと消えたようにいなくなっちゃったらしいんだよ。ほんの十秒か二十秒くらいの間に』


「え」

「神隠しってやつ?」


『そう、まさに神隠しなんだよね。でも、神隠しってよくよく考えると、どこにでも起きる現象っぽくない? ほら、みんなも経験あるでしょ。子どもの頃に、自分でも分からないうちにいつの間にかデパートで親とはぐれて迷子になったことって。これも一種の神隠しかもしれない。まあとにかく、それだけ小さい子ってすぐどっか行っちゃうんだよね』


「あったなー」


『実は俺もとんでもないところで迷子になったことあるんだよね。昔、家族と海外旅行に行った時に……グアムかハワイのデパートで一人迷子になったんだよ!』


「やばw」

「マジか」


『いやーあの時は今考えるとマジでヤバい状況だったと思う。確か、小学校二、三年くらいだったかな。昔すぎて覚えてないけど、どうやったのか迷子センターに辿りついて、外国人の店員さんに店内放送してもらったのよ。マイクを差し出されて「これで親を呼べ」って顔されたのだけはよく覚えてるわ』


「すげえ体験だ」

「よく無事だったね」


『うんうん……って、だいぶ話逸れちゃったな。どこまで話したっけ……あぁ、Bちゃんが行方不明になったところだったっけ。それで、Aさん夫妻も必死になって探したんだよ。数時間ぐらいそこら中を歩き回って、途中ですれ違った登山客にも小さい子どもを見ませんでしたかって聞きまわって……でも、それでも一向に見つかる気配がなくて、これはいよいよ警察に行った方がいいのかもって考え始めたその時……無事に、Bちゃんが見つかったんだよね』


「よかった」

「どこにいたの?」


『それがさ。姿が消えた場所のすぐ近くの木の下にいたらしいんだよ。変な話でしょ? そこら辺も絶対探してたはずなのに、急に姿を現すなんて。でも、問題はここから。Aさん夫妻も不思議に思ったのか、Bちゃんに聞いたんだよ。今までどこ行ってたのって。そしたら……その子、ちょっと変なこと言ったんだよね』


「なになに?」


『青い服を着たお姉さんに遊んでもらってたって』


「え」

「なにそれ」

「こわ」


『Aさん夫妻も不思議に思ったのか、そのお姉さんはどこに行ったのって聞いたのよ。でも「わからない。どっかに行っちゃった」って繰り返すだけで……結局、何があったのかは分からずじまいってわけ。そんな時、AさんはBちゃんが持ってる虫かごの中身がいっぱいになっていることに気付いたんだよ。まあいなくなってから何時間も経ってたから、その間に虫取りをしてたんだと最初は思ったらしいんだけど……問題はその中にいた虫なんだよね』


「おや…?」

「何がいたの?」


『でっかい芋虫。それも、一匹や二匹じゃなくて数十匹以上。それが虫かごの中で蠢いてたらしい。Bちゃんにそのことを聞いたら、お姉さんに貰ったんだって。これで、この話はおしまい』


「うげ」

「気持ちわる」

「Bちゃんはそのあと大丈夫だったの?」


『ちょっと気味が悪い話だよねー……うん。その後は特に何もなくて、Aさん夫妻もBちゃんも無事だよ。でも、虫かごの中の芋虫はすぐに山で捨てたみたいだけど。さて、これで一応話自体は終わりなんだけど……実はこの話、前日譚があります』


「え」

「どゆこと?」

「まだあんの?」


「いや、これは俺も最近初めて知ったっていうか、Aさんからこの■■山のことを聞いて他に何か似たような話がないか調べてた時なんだけどさ……この青い服を着てた女が登場する怪談話が実は過去に存在したんだよね」


「ヒエッ」

「マジで…」


『ってなわけで、次はそのお話。これは十年近く前にオカ板にあったスレに実際に書き込まれてた投稿で――』



(その後、配信者による「青い女」の語りが始まるため、中略)



『これが、■■山に伝わるもう一つのお話。どう? Aさん家族の話と組み合わせると、ちょっとやばくない?』


「えぇ…」

「本気で怖くなってきた」

「先にその青い女の話を知っていたAさんの作り話なんじゃ?」


『いや、それはないと思う。リアルの知り合いってこと抜きにしても、この青い女の話って■■山で検索しても普通は出てこないんだよね。結構下の方までスクロールして、やっと出てくるっていうか……そいつはあんまりホラーには興味ないし、作り話ってのは考えにくいと思う』


「じゃあ青い女の正体ってなんだろ」

「なんで虫をBちゃんにあげたんだ…」


『一番気になるのはそこだよね~。もし、この青い女ってのが同一人物、いや同一怪異なら、何も危害を加えないタイプなのかも』


「ただイモムシをあげたかったウーマン」

「最初の人も逃げなければ虫貰ってた可能性ありますねw」


『フフッ。それはありえるかも。ってことで、今日の配信はそろそろ終わろうかな。みんな、怖がってもらえたかな?』


「ちょっと怖かった」

「話繋がるのはビビるわ~」


『あ、スパチャありがとー。うん、そうなんだよね。もしかしたら、まだ過去に青い女に関する報告がどっかにあるかも。こっちも今、地元の知り合いに■■山について知ってる人がいるか探してる最中でさ。また何か続報あったら動画か配信で話すね』


「期待してます」

「wktk」


『ってなわけで、今日はここまで。みんなお疲れー。また明日も配信するからよろしくねー』


「おつー」

「乙」

「お疲れ様ですー」

「面白かった」

「また明日ーー」


(ここで、配信が終了する)

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