『青い女』(都市伝説、怖い話を集めようpart17より)

 ちょっと前の出来事なんだが、今でも思い出すと震えが止まらないからここに書かせてくれ。

 俺の近所に■■山って結構有名な心霊スポットがあるんだ。いや、有名ってのはちょっと言い過ぎだな。県外の人間は聞いたことがない場所だと思う。標高は●●●メートルで、本格的な登山ってよりはピクニック気分で子供でも登頂できる山だ。

 日中はハイキング中の老人がいたり、どこかの小学校の集団がいたり……心霊スポットって言っても、そこまでみんな本気で信じてるわけじゃないと思う。俺だって、具体的に幽霊を見たとか話は聞いたことがなかったし、過去に大きな事件が起きたって話もなかった。

 だから……あんまり俺も信じてなかったんだ。よくある話だろ。噂に尾ひれがついて、別に何もない場所が心霊スポットになってるって。■■山も……そうだと思ってたんだ


 この前の盆に、地元に帰った時の話だ。そこで、高校時代の仲間と飲もうってことになって、友達の家で集まって夜通し飲み明かしてた。あんまり言っちゃダメなことなんだが、まあ賭麻雀とかポーカーをして遊んでた。

 その時、誰かが言い出したんだ。「次に負けたやつは罰ゲームもしようぜ」って。誰も止めるやつはいなかった。で、もう分かってると思うが、俺が負けたわけだ。それで罰ゲームってのが……■■山に一人で行って、そこにある祠の写真を撮ってこいって。

 今思えば、一人で山に登るなんてめちゃくちゃ危ないと思う。だって、幽霊とかそういうの抜きにして、普通に危険だろ。夜道の山道で足なんか滑らせたら、こっちが幽霊の仲間入りだ。でも……その時は酔ってたってこともあって、俺はその罰ゲームを受け入れた


 そいつの家から■■山の登山口までは徒歩十分程度ってこともあって、すぐに着いた。嘘をつかないように、証拠としてリアルタイムで写真を送れって言われてたから、看板の写真を撮った。

 で、■■山に入った俺は目的地の祠を目指すことにした。確か、深夜の1時くらいだったと思う。この時はそこまで恐怖は感じてなかった。そもそも、幽霊なんて信じてなかったし、貰った懐中電灯がめちゃくちゃ明るかったってこともあって、余裕だと思ってた。

 ちょっと変だなって思ったのは……10分くらい歩いた時だった。何か、懐中電灯の電源が急に消えたんだ。一瞬ビビったけど、すぐにまた付いたから……電池切れが近づいてるかと思って急ぎ始めた。

 それからは特に何も起きずに、祠に辿り着いた。証拠として道中の写真を何回か撮りながら、大体30分くらいは山道を歩いてたと思う。その祠が何の神を祀っているのかは俺にも分からんが、最近供えられたっぽい饅頭が置いてあった。そして、証拠の写真を一枚撮って、その画像をメールであいつらに送った。それがこれだ。



 ※該当スレッドには投稿者が撮影した画像が添付されていたが、現在は削除済みなのか、アップローダーのリンクが切れているのか、閲覧できない。



 1分ぐらい経った後、すぐに返信のメールが来た。

『おい、その写真に写ってる女誰だよ』

 最初、その文面を見た時は意味が分からなかった。俺が撮った写真は祠しか写っていないはず。それなのに、女が写ってるだと? あの時に感じた背筋が冷える感触は今でも覚えてる。

 でも、すぐに恐怖より先に怒りの感情が沸いた。いくら罰ゲームで負けたとはいえ、ちょっと悪ふざけとしては度を越えていると思ったんだ。俺はすぐにあいつらに電話をかけた。


『おい、どういうことだよ。女が写ってるって。そういうのやめろよ』


『は? どういうことだよ』


『だから、女なんて写ってるわけないだろうが。ここがどこだか分かってんのか』


『お前こそ、俺たちをビビらせようとしてんだろ。その祠の前に立ってる女は誰だよ。アミか?』


 その瞬間、電話がプツリと切れた。アンテナを確認すると、さっきまで1本か2本立っていたのに、いつの間にか圏外になっていた。

 正直、この時の俺はかなりビビっていた。祠に写っていた女、急に圏外になった携帯。明らかに、何か異常事態が起こっていることは確かだ。軽くパニックになっていたと思う。

 更に、持っていた懐中電灯の光が急に弱くなった。電池切れ? こんな時に? 兆候はあったけど、タイミングが悪すぎる。

 一瞬で辺りは真っ暗になった。一応、月明かりはあったけど……それでも数メートル先も見えない。慌てて、携帯の画面の光で周囲を照らしたのをよく覚えている。

 その時……10メートルくらい離れた場所に、何か立っている姿が見えた。いや、何かって表現はおかしいな。直感的に、俺はその正体に気付いた。

 あれは……女だ。身長は俺と同じだから、180センチくらい。服は青の……合羽みたいなトレンチコートっぽいものを身に着けてたと思う。明らかに真夏の服装じゃなかった。

 一番不気味だったのは……そいつの着ている青い服が、何か光って見えてたんだ。辺りは真っ暗なのに、その青い服の色だけは夜の闇の中でも鮮明に見えた。例えるならあれだ。暗闇の中でも光る蛍光シャツってのを子供の頃に買ってもらわなかったか? あれを着てる感じだった。

 この時の俺はもう完全にビビってた。腰を抜かす一歩手前っていうか、立っているのがやっとってくらい震えてた。

 そんな時に……急に、懐中電灯の光がまた付きだしたんだ。ピカッて。その光で、目の前に立ってるそいつの顔が見えた。


 ずっと、こっちをニヤニヤ笑ってたんだよ。でも、顔がめちゃくちゃ歪んでて、どう見ても人間じゃなかった。しかも、顔には幼虫とか蛆みたいな……虫が集ってた。


 その後のことはよく覚えてない。俺は叫びながら、多分発狂寸前になってたと思う。無我夢中でそいつから逃げるために、走った。

 気付いたら、登山口に着いてた。数十分も山道を走ってたってこともあって、さすがに体力が尽きかけてた。逃げ切れたか? と思って後ろに振り向いたんだ。

 数十メートルくらい離れた場所に……青い光が浮かんでた。

 また叫びながら、俺は友人の家に寺に駆けこむように走って帰った。


 何とか無事に家に帰った俺の様子が只事じゃないことをあいつらも察したのか、さっきまでちょっと喧嘩口調だったのが嘘みたいに心配してくれた。「何かあったのか」「おい大丈夫か」って。それから一時間ぐらい経って、ようやく俺も落ち着いてきて、■■山で遭遇した青い女の件をあいつらにも話したんだ。

 全員……言葉を失ってた。俺が明らかに普通じゃないってのは分かってたし、あいつらも写真に写る青い女を見てたから、俺ほどじゃないにしても、かなりビビってたんだと思う。

 で、誰かが言い出したんだ。俺から送られた写真にいた青い女が消えてるって。俺もその写真を確認したけど……青い女はどこにもいなかった。アップした画像はそれだ。

 俺や友人たちが見た青い女は何だったのか、あの女の正体は何だったのか。それは今も分からない。色々と調べてみたんだけど、青い女に関する情報は何も出てこなかった。もしかして、お祓いとかにいった方がいいのかな? もし詳しい方がいたら、教えてもらいたいです。

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