第6節 夏江が行く ー除霊師編ー

@anyun55

第1話 爆乳除霊師・夏江の誕生

 夏江は,電車に乗って伊豆半島へと移動していた。夏江の荷物は,最低限のもので,やや小さなリュックサックだけだった。


 夏江は,ふと,左手の薬指を見た。そこには『メリルの指輪』がなかった。『メリルの指輪』は,おヘソ部分に食い込ませて固定した。どの道,『メリルの指輪』と霊力は切っても切れない関係だと思ったので,自分の子宮に近い場所につけておくほうがいいと思った。もしかしたら,復活するかもしれないからだ。


 だが,いまだに美玲からの念話連絡はない。夏江は,何度もため息をついた。美玲を失ったことへのショックからまだ立ち直っていなかった。


 夏江は独り言を言った。


 夏江『これから,ほんとうに1人でやっていくことになるのね。なんか寂しいわね』


 夏江のこの感傷的な思いも徐々に消えていった。電車の中はほぼ満員で,旅行者のオーラを観察すると,ついつい寂しさも忘れた。


 悪霊に纏わり付かれている旅行者がいると,どんな悪霊なのか探りたくなる。でも,認識するだけにとどめた。余計なお節介はしないことにした。


 夏江は,今ではちょっと意識を変えることで,オーラを見えるようにしたり,見えないようにしたりできる。


 最初こそ,何か不穏な状況があるかもと思って,オーラを見えるようにしていた。でも,オーラを見えないようにしても,『危険』な状況をいち早く察知できそうだ。そこで,今後はオーラを見ないようにする習慣をつけることにした。


 夏江は警察官出身だ。今は警察を退職して,超現象捜査室と顧問契約をしている。週2回の出勤が義務づけられている。でも,この1ヶ月間は,完全に休暇を取ることした。これから迎えるAV女優業に専念するためだ。


 夏江は,自分のことをAV女優としてではなく『爆乳除霊師・夏江』と名乗ることにした。AV女優業など1ヶ月で終了だ。でも,除霊師の仕事は,これから何年も続けるからだ。


 除霊師という名称は,霊能力者という名称よりも,より具体的にイメージできるので,その名称を選んだ。夏江は除霊ができるわけではない。オーラを見ることができるだけだ。でも,その能力があれば,除霊することも可能だろうと甘い考えがあった。


 しかし,『除霊師・夏江』だけではインパクトがないと思い,思い切って『爆乳』という超インパクトのある単語を選んだ。女性の客層から反発を買うことになるが,でも,男性客だけで十分だ。もしエッチな客なら,おっぱいを見せるだけでお金がもらえそうだ。


 ともかくも,今日から夏江はAV女優として仕事するのだが,気持ちの上では,『爆乳除霊師・夏江』なのだ。


 夏江は,そんなあまり重要でもないことに頭を動かしていた。


 電車の中で,仮眠をとった。ふと目覚めると,すでに目的地に着いていた。伊豆半島の東端にある町だ。夏江は慌てて,荷物を持って電車から降りた。その後,タクシーを拾って,最終目的地の孔嬉AV企画(株)の事務所に向かった。



 ー 孔嬉AV企画(株)の事務所 ー


 孔嬉AV企画(株)の会議室で,夏江は担当のAV監督と面談した。そこで,彼は夏江に,自分の持っている夏江の経歴や能力を記載した書類を渡した。


 監督「ここに記載されている内容は間違いないかな?」


 夏江は,渡された書類を見た。そこには次のように書かれていた。


 ===

 警察学校を首席で卒業,特捜課に配属されるも,まもなくして超現象捜査室に転属となる。その後,退職する。


 警察官時代の実績としては,凶悪殺人犯の水香逮捕に貢献する。また,『メリルの指輪』を警察に提出したらしいが,今でも,それが本物なのかどうか不明だ。


 『メリルの指輪』には,霊力のパワーによって,透明な腕の刃を発動させる能力を有する。また,相手との接触によって,強力な精神支配が可能だとうわさされているが,確認されていない。


『メリルの指輪』は研究対象になるため,もし,夏江が持っているのなら,いくらでも代償を支払ってでも,すみやかに入手すること。


 ===


 その文章は,さほど詳しいものではなかったが,それなりに重要な要点を押さえていた。


 監督「その内容で,補足したいことはないかな?もし,なければ,『メリルの指輪』をわたしに提供してもらいたい。もし,素直に提供してくれるなら,AV撮影で,いろいろと便宜を図ろう」


 夏江は,AV監督といっても,結局は獣魔族出身の監督だと思った。獣魔族のメリットになることを最優先に考えている。彼は獣魔族の中でも,かなりの強者であることは彼のオーラを見ればすぐにわかった。


 夏江は,いくら金を積まれても,メリルの指輪を渡す気はない。それに,指輪にはメリルがいないことがわかっているので,すでに『メリルの指輪』ではない。


 夏江「ひとつ訂正があります。『メリルの指輪』は,警察に提供しました。それに,どうやら,その指輪には,もうメリルは存在していないようです。どこかに隠れているのかもしれません」


 この言葉を聞いた監督は苦い顔をした。


 監督「それはほんとうのことなのか?」

 夏江「はい,ほんとうです。ウソではありません。ここでウソをついても,わたしに何のメリットもありませんから」

 監督「・・・」


 監督は,どうしたらいいか考えた。そして,ひとりの部下を呼んだ。映像マンだ。つまり,映像を担当するスタッフだ。


 監督は,夏江に映像マンを紹介したあと,特別な魔法の術式を受けてもらうことを説明した。


 監督「『メリルの指輪』が入手できなくなった以上,あなたの価値は大幅に下がる。1ヶ月だけでの撮影期間というメリットを享受することはできない。少なくとも,3ヶ月,場合によっては,それ以上の撮影期間になる。あなたに拒否権はない。もし,拒否するなら,この場で死んでもらう」

 夏江「・・・」


 夏江は,ムカブルから説明を受けた話と大幅に食い違っていると文句を言いたかった。でも,文句を言えるはずもない。いくら霊能力を身につけたとはいえ,美澪から霊力や魔法の一部を伝授されたとはいえ,監督や映像マンから比べれば弱者だ。


 監督「それでも,あなたの希望は少しは叶えてあげよう。今回のAV撮影が終わると,あなたはどんな仕事をする予定ですか?その仕事と関係のあるようなストーリー作りをしてあげよう」

 夏江「・・・」


 夏江は,そんなどうでもいい配慮など無意味だと思った。でも,せっかく,そこまで言ってくれるので,正直に言うことにした。


 夏江「わたしは,警視庁側と顧問契約をしています。逮捕された連中のウソを見抜くという仕事をする予定です。それ以外に,まだ経験はないのですが,呪詛などで呪われた人たちを自由にしてあげるような仕事をしたいと思います」

 監督「・・・,呪詛か,,,」


 監督はちょっと考えている風だった。


 夏江は言葉を続けた。


 夏江「見ての通り,わたし,こんな爆乳になってしまいました。乳首も化け物のように大きくなっています。それで,この肉体的特徴を生かして『爆乳除霊師・夏江』というキャッチフレーズで仕事を受けることを考えていました」


 監督は,撮影マンに夏江に『隠蔽映像魔法陣』を植え付けるように指示した。それを受けて,映像マンは,夏江の頭部に手を当てて,3重の『隠蔽映像魔法陣』を夏江の頭部の中に刻み込むように植え付けた。


 それが終わると,彼は,自分のしている指輪を夏江に渡した。


 映像マン「この指輪をしなさい。そこには,記録魔法石が貯蔵されている。映像魔法陣が記録した映像が保管される。1か月は有効だ」

 夏江「・・・」


 監督は,しばらく外部と電話のやりとりをしていた。しばらく経ってから電話を切った。


 監督「夏江とか言ったかな?あなたのその爆乳や大きな乳首など,われわれにとっては,魅力のある体ではない。せいぜい,両方のおっぱいを合わせても10kg前後の重さしかないのだろう?」

 

 夏江は,その言葉に訂正を加えた。


 夏江「12kgはあるはずです!」

 監督「フフフ,ほんとうにそうかな?そこで裸になって見せなさい」


 夏江は,やっと自分の裸を見せる機会を得たと思った。これから,さらに犯されてしまうのだろうか? そうなったとしても,すでに気持ちの整理はできている。


 夏江の片方で6kg,両方で12kgにもなるQカップのおっぱいが露わになった。乳首も長さや太さも12cmにもなった。その乳首から母乳がジワジワと溢れ出ていた。


 それを見た監督は,ニヤニヤするどころか,逆に苦虫を噛みつぶした顔をした。


 監督「12kgか,,,母乳が出たところで魅力はまったくないな。不合格だ。この撮影施設を使って撮影するほどの価値はない」


 夏江は,価値がないと言われてカチンと来た。夏江は,自分ではかなりの美人だと思っているし,この爆乳だ。一発100万円支払っても夏江を抱きたい連中は山ほどいると自負していた。でも,反論は避けた。


 監督は,母乳が溢れでるので,映像マンにその母乳を吸ってあげるように指示した。夏江はなされるがままにされた。この場で,夏江はいっさいの抵抗は無意味だと知っている。


 監督「でも,その巨乳,回復魔法によるものだな?夏江は回復魔法が使えるのか?」


 夏江は,いずれバレると思ったので,正直に言うことにした。もしかしたら,獣魔族の仲間にだってなれるかもしれないからだ。


 夏江「はい,以前,メリルの指輪を持っていたときに,その能力を分けてもらいました」

 監督「ほぉーー,それはすごいな。夏江は魔法士なのか?」


 夏江は,自分の左手を示して言った。


 夏江「この左手に回復魔法陣を植え付けてもらいました。メリルの指輪からのプレゼントのようなものです。それ以外に,少しだけなら霊力も使えます」

 監督「ほほぉ,なるほどな。それはラッキーだったね」


 監督にとっては,夏江が魔法や霊力がちょっと使えることなどどうでもいいことだ。彼は,隠蔽映像魔法陣の機能について説明した。


 監督「それはそうと,あなたに植え付けた隠蔽映像魔法陣は,あなたがこれから経験することをすべて映像記録する。それがあれば,わざわざ専門のカメラマンがあなたに傍で撮影する必要がなくなる。もっとも,画質はかなり落ちる。でも,今のあなたに高画質で撮影する価値はない」


 夏江は,反論する代わりに,監督が求める価値の水準を聞いた。


 夏江「その価値って,なんですか?」

 監督「新魔大陸では,すでに多くのエロビデオが出回っている。巨乳・爆乳シリーズでは,最低でも,片方だけで20kg以上もの爆乳が最低条件だ。それに,あなたは確かに美人かもしれないが,かわいらしさがまったくない。もっと,気弱で弱々しくないと,このAV界では生きていけない。気弱で弱々しい女性が,男どもに犯されて性奴隷となっていく過程をスケベな連中が金を払って見るんだ」

 夏江「・・・」


 監督は言葉を続けた。


 監督「あなたの場合,その可愛らしいさがまったくないので,片方で20kgの爆乳になったところで,通常のエロビデオでは金を払って見る人はほとんどいないだろう。だから,そうだな,,,」


 監督は少し考えてから言葉を繋げた。 


 監督「肉体を切り刻む,破壊する,もしくは四肢切断のような映像なら,まだ価値が出るかもしれん」

 

 おっぱいやお尻を切り刻むのならまだわかるものの,四肢切断となると,さすがに夏江は抵抗した。


 夏江「四肢切断って,それって死んでしまうんじゃないですか?」

 監督「ほんとに四肢切断する訳では無い。半分程度切断すれば,あとは映像修正でカバーすればいい」

 夏江「・・・」


 夏江は,これ以上質問するのは止めにした。すべては片方で20kgの超爆乳になってからのことだ。


 監督「さて,あなたは,これから,『爆乳除霊師・夏江』として,仕事を受けてもらう。仕事は,こちらで準備する。ちょうど除霊師を大々的に募集しているところがあった。そこの仕事を受けてもらう。後は,相手に合わせて行動しなさい。自分の身が殺される以外は,相手を傷つけてはいけない。それに,犯される状況になったら,少しは反抗してもいいが,流れにまかせて犯されなさい。もちろん,相手を傷つけるのは禁止だ。おっぱい,お尻,膣への虐待・破壊行動はなんら殺されるという行動にはあたらないから,自分で治療しなさい」


 夏江「もし自分の回復魔法でも治療できなかったら,どうしましょう?」

 監督「その時ときは,映像マンに電話連絡でもしなさい。すぐにではないが,できるだけ現場に向かわせるようにしよう」

 夏江「犯される時,命の危険があったら?」

 監督「正当防衛的な行為は許可する。その結果,相手を殺してしまってもしかたない。自分の身は自分で守るのはどんな状況であれ当たり前のことだ」

 夏江「例えば,ナンパされた場合,どう行動するのが正解ですか?」

 監督「正解などない。イヤなら断ればいい。でも,あなたはAV女女優だ。できるだけ犯されるように誘導しなさい。常に,自分の周囲にカメラが廻っているという意識を持って,男性どもに情欲をそそるような行動を常に心がけなさい。AV女優として,どのような行動がベストなのか,自分で考えて行動しなさい。自分がAV監督のつもりで行動することを心がけなさい。ただし,相手は,『隠蔽映像魔法陣』によって録画されているなど,まったく思っていないから,その点も留意して行動しなさい」


 夏江「あの,,,AVで録画される期間って,いったいいつまでですか?最初の約束では3ヶ月,超絶ハード系では1ヶ月という約束だったのですけど?」

 監督「それは,『メリルの指輪』をわれわが入手するという前提です。それが手に入らない以上,当初の約束は無効になる。その代わり,あなたには,自分の希望の仕事ができる。『爆乳除霊師・夏江』として活動だってできる。1ヶ月に1回は,この事務所に戻りなさい。あなたに植え付けた魔法陣の再設定などをする必要がある。

 もし,あなたのおっぱいが片方で20kg以上になれば,高精細のカメラワークで映像を撮ることになる。その時になれば,晴れてこのスタジオ内での撮影となり,1ヶ月間の撮影期間で済む。その後は自由の身だ」


 その説明を受けて,今の状況が少し理解できた。


 夏江「つまり,おっぱいが片方で20kg,両方で40kgに満たないうちは,AV女優としても見習い期間という感じなのですね?」

 監督「そう理解していいでしょう。回復魔法をかければおっぱいは大きくなるはずだ。せいぜい,見習い期間のうちに,おっぱいを虐待してもらいなさい。フフフ」


 夏江は,自分のおっぱいをまじまじと見た。これから何度おっぱいを傷つけてもらうことになるのだろうか? 夏江は逃亡した場合,どうなるのか聞いてみた。


 夏江「もし,わたしが,与えられた仕事をしないで逃げたとしたら,どうなるのですか?」

 監督「かまいません。逃げたければ逃げてください。わざわざあなたを追うことはしません。でも,警視庁の仕事も,『爆乳除霊師・夏江』として仕事することもできなくなるでしょう。あなたの居所が判明すれば,われわれの組織の暗殺部隊があなたを殺しにいくだけです。あなたが,これからいくら霊力や魔法の扱いが上手くなったところで,われわれ暗殺部隊に抵抗できるとは思えません。逃げるのはお勧めしません」

 夏江「暗殺部隊?」

 監督「はい,そうです。たとえ強敵が相手でも,相打ち覚悟で自爆も辞さない連中です。それに,彼らは最近開発された隠蔽魔法を修得しています。相手に察知されずに近づくことが可能です。つまり,見えない敵を相手にするようなものです」

 夏江「・・・」


 夏江は逃亡という考えを捨てた。次に,彼女は一番関心のある質問をした。


 夏江「もし,わたしがあなたがた獣魔族の組織の一員になりたいと言ったら,受け入れてもらえますか?」

 監督「そうですね,,,貢献度と『強者』としてのレベルの問題でしょうか。今のあなたが,それなりにAV女優として貢献すること。それだけでなく,強者となることが条件です。霊力や魔力で強者になることは,今のあなたの状況ではかなり難しいと思います。透明の霊力の刃など,われわれ獣魔族にとっては,なんら脅威にはなりません。それなら,いっそのこと,除霊師としての『強者』になって,それをわたしどもに示してください。希少価値が生まれるかもしれません。それによって,あなたを推薦することも可能でしょう」

 夏江「除霊師としての『強者』?? なんかわったような気になりました。それも視野に入れてみます」


 夏江にとって,獣魔族の組織には興味はあったものの,それは,あくまでも,もっとより多くの情報を入手するためだ。獣魔族の組織に身も心も捧げるつもりはない。でも,,,夏江がこれから行う行動は,まさに,身も心も捧げるような行動なのだが,,,


 夏江「それ以外に何か方法はないのですか?」

 監督「そうだな,,,」


 監督は,ちょっと考えてから言った。


 監督「獣魔族への貢献だが,別の方法もあるにはある。もっとも,その可能性はかなり低いがな」

 夏江「それはなんですか?」


 監督は,ネットの検索エンジンではひっかからない,特殊なホームページを見せた。


 監督「このホームページに記載されている逃亡者を見つけたら,そこに記載の電話番号に連絡しればいいだけだ。フフフ,簡単だろう?」

 夏江「え? それだけでいいのですか?」

 監督「そうだよ。簡単だろう?でも,彼らは逃亡者で捕まりたくないから,発見されそうになったら必至で抵抗するだろうな。一般人ならすぐに殺されてしまうかもしれん」

 夏江「・・・」


 夏江は,逃亡者が皆,獣魔族の人たちだと分かった。彼らの抵抗とは魔法によって攻撃を受けるということを意味する。今の夏江のレベルでは到底太刀打ちできるはずもない。この献身の方法については諦めることにした。


 ともなくも,今の夏江にとっては,早く片方で20kgになる超爆乳になって,AVの任務を終了させたいと思った。そこで,監督に依頼した。


 夏江「あの,わたし,早くおっぱいを大きくしたいです。この場で,おっぱいを傷つけもらって,回復魔法をかけてもらえませんか?」

 監督「無駄な魔法は使わない。今のあなたには価値はない。それに,もう年齢も25歳なのだろう?もうババアだ。可愛らしさがまったく感じられない。皮膚だって若さに欠ける。獣魔族の男優にしたってババアは抱きたくもないだろう。自分の映像としての価値をしっかりと認識しなさい」

 夏江「あの,,,若さって何歳からですか?」

 監督「人間の年齢でいえば13歳から17歳までだ。18歳以上はもうババアだ」

 夏江「・・・」


 ババアと言われてショックを受けた夏江は,そのショックからまだ覚めないうちに,監督から1枚の紙を渡された。そこには住所と氏名が書かれていた。『爆乳除霊師・夏江』として,最初の仕事を与えた人物だ。


 かくして,夏江は孔喜AV企画(株)の事務所を後にして,最初の仕事先へと出向いた。


 去り際に,監督から,本来のAV女優としての日課的な仕事が与えられた。それは,寝る前に,部屋を全開に明るくして,全裸になって自慰行動をすること。ただし,その日,誰かに犯される,抱かれるという行為があれば,自慰行為は免除されるという内容だ。もちろん,犯されるときも抱かれるときも,掛け布団など,夏江の裸体が隠れるようなものはしてはならず,部屋も明るくすることは当然のことだ。


 電車の中で,夏江はなぜか涙が流れた。何で泣いているのか自分でもわからない。少なくともわかったことは,獣魔族という視点において,霊力や魔力の方面で強者と言えるほどのレベルになるのは困難だと思った。そもそもそれを夏江に教える人物もいない。


 それなら,監督が言ったように,自己開発してきた霊能力をさらに極めるほうがよい。


 夏江『うん,もう泣くのは止めよう。か弱い夏江はもういないわ。除霊師として強者になるべく,頑張って生きていきましょう』


 そう自分に言い聞かせた夏江なのだが,でも,今だけは,泣いてもいいと思った。

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