第18話 想像以上
「ずっと見ていたけれど、なかなかの余興だった」
笑いながら言うのはアーネストの兄、エディアルト様だ。
「酷いな兄様。高みの見物なんて」
不機嫌そうにアーネストは顔を顰めるも、気にした素振りはない。
「途中で口出ししようかと思ったが、弟とその婚約者が頑張っていたからな。初めての共同作業に水を差すのも悪いと思って、黙っていた。無事に追い返せたし良かったよ。後の処理はこちらで行うからな」
(最後の一押しは花の女神様ですけどね)
結局私達の言葉はオニキスに届かなかった。
忸怩たる思いだけが残る。
「最後は花の女神様が力を貸してくれたので、僕達の力ではないから複雑です。僕達はオニキスを打ち負かす事が出来なかったので」
自分達の力不足に悔しさが滲む。
「言葉は通じても理解する頭が足りない者だった、それだけだ。そう気にすることはない」
辛辣な言葉を吐き捨てるエディアルト様。
その隣には先程まで居なかった人物が立っていた。
「陛下」
エディアルト様の隣にはいつの間にか、我が国の陛下もいらっしゃっていた。
急いで礼を取ろうとするも、無用とばかりに制されてしまう。
「堅苦しいのは今日はいらない。それにしてもあれだけの事を平然と言ってのけられるとは、ある意味大物だったな。だが、この国の女神様が決めたことを撤回させようとしたことは見過ごせない。ヴィオラ嬢、ここから先は国同士のやり取りとさせて貰う。これ以上あの者と関わることはさせないから、安心してくれ」
頼もしい言葉を頂けて安心する、張り詰めていた糸が切れたように、体から力が抜けた。
(もう関わらなくていいなんて、よかったわ)
見ればパメラもライフォンに体を寄せて安堵している。
「良かった……」
その甘やかな二人を羨ましく思っていると――
「ヴィオラ」
アーネストが私の肩に手を添える。
「不安にさせて、きちんと守れなくて本当にごめん。いざとなったらオニキスを切り捨てようかとは思ったのだけれど」
いやいやいや、そんな事をしたら戦になるわ。
「気持ちだけで嬉しいわ。それに、もう考えなくてもいいのだから、この話題は終わりにしましょう。呼んでもない人の為にこれ以上時間を使いたくないの」
折角ゆっくりと話せるようになったのだから、オニキスの話はもういいだろう。
「そうだね」
アーネストも頷いてくれたので、お父様に視線を移す。
「すっかり忘れられたのかと思ったよ」
咳ばらいをした後に、お父様は祝いの席を設けてあるので、そちらに移動をして欲しいと話す。
案内の者達に促され、エディアルト様や陛下、お父様が会場へと向かう。
私達は少しその場に留まっていると、ライフォンとパメラがこちらに駆け寄ってきた。
「アーネスト様、申し訳ありません。ヴィオラ様をこちらへと連れて来てしまい、オニキス様と接触させてしまうなんて」
「ライフォン様は悪くありません、私も後押ししましたので」
ライフォンは頭を下げ、それを見たパメラがライフォンを庇う。
「私からもお願い。私が早くあなたに会いたいからと、強引にライフォンに頼んだからなの」
「うぐっ」
私からも援護射撃を行う。
会いたいと言ったからか、アーネストは変な呻き声を上げた。
「まぁ、ヴィオラの性格を考えれば仕方ないよね。特に何か罰を与えたいわけではないから、もういいよ」
アーネストは気恥ずかしそうに頬を赤らめ、若干目を逸らしてそう呟く。
「仮にライフォン様に罰を与えるなんてしていたら、いくらお姉様の婚約者でも私が許しませんでしたわ。お姉様は結構頑固なのですから、こうと決めた事は中々撤回してくれませんの。そんなお姉様を止めるなんて無理ですわ」
「大事な友人だもの、致し方ない理由って信じてるよ。それに花の女神様に認めらえた同士だし、助け合っていかないと」
「そうね、義兄弟になるものね」
「王子様が義兄になるのも、花の乙女の配偶者になれるなんてのも、昔からしたら想像も出来ませんでしたね」
ライフォンは微笑む。
(そうね、本当に人生って予測もつかないものね)
昔の約束をしっかりと覚えていて、こうして再び婚約してくれた隣国の王子アーネスト。
およそ花の乙女の配偶者に相応しくないと言われながら、見事パメラのパートナーとなったライフォン。
今まで苦手だなぁと思いながら、こうして心開けば温かく受け入れてくれる、パメラと両親。
そして人の心の機微に疎く、はた迷惑な祝いを寄こしてくれた花の女神様。
(敵になったら嫌だけど、味方としてなら頼もしい人達ばかりだわ)
「本当に想像していない事ばかりだわ」
私は大きくなった体を見下ろし、今だぎこちない動きでアーネストに視線を移す。
学園で会ったアルとは、髪や目の色が違うけど、優しく見守ってくれる表情は一緒だわ。
(本当の事を言えなかったのは、随分もどかしかったでしょうね)
幼い日に勢いで誓いをしようとして失敗したので、二度目は絶対に起こさないようにと、我慢してくれていたのだと思う。
それくらい強く想ってくれている事実が嬉しい。
(そうじゃなきゃこんなに満面の笑顔で私の視線を受け止めてくれるわけないわ)
そんな愛情を感じて、思わず笑みを溢してしまう。
「ではそろそろ行きましょう。あまり陛下たちを待たせるわけにはいかないものね」
大人たちの話し合いも終わっただろう。
どのようにカミディオン国に対し、話をしていくのか。
後で教えてもらえるだろうから、敢えて話題に出すことはもうしない。
だって無粋だもの。
(それにしても花の女神様はどれくらい懲らしめているのかしら?)
今のところ応答がないので、きっとオニキスの事で忙しいのだろう。
どこまで連れて行かれたのやら。
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