第12話 愛しい相手
改めてアルをみつめるが、オニキス様はまるで違うと思った。
(記憶を曖昧にされたとはいえ、しっかりと見ると同じ金髪と青い目でも全然違うものね。傷つきそうだし、オニキス様と間違えそうだったなんて、言えないわ)
初恋の相手という事で、アルの顔は好みだ。
柔らかな眼差しと微笑む口元。
それに学園では身を挺して守ってくれたのもあるので好感度も高い。
(最初はちょっとびっくりしたけど、私を守るために必死だったのよね。きっと)
自分の身分を隠しつつ、私を守るためにライフォンに協力を仰いだらしい。
「共に花の乙女を守る同士だもの、自然と仲良くなれたよ」
二人とも穏やかだし、何となく似ている。
そういう所で馬が合ったのだろうか。
仲が悪いよりはいい事だわ。
「そろそろ行こうか?」
私はこくりと頷いた。
皆、私が落ち着くのを急かすことなく待っていてくれたのは有難い。
きっとアルに会って記憶が戻る事を皆は、知っていたのだろう。
だから私が落ち着くまで促すことなく待っていてくれたに違いない。
色々な事を知ることが出来たので不安もなくなり、私は胸を張って歩き出す。
絶対に幸せになれると不思議な確信も持てた。
「待ってヴィオラ」
アルが追いかけてきて腕を出してくる。
「ずっと触れられなかったからね、それに子供姿の君とはもうすぐお別れになってしまう。記念にね」
私はアルの腕に恐る恐る手を置いた。
弾かれたりはしないけど、兄妹のような身長差と体格差にやや不満がある。
「お似合いですわ、お姉様」
パメラがそんな事をいいつつ目をキラキラさせている。
「ようやく二人のその姿が見られた。早く見たくてうずうずしていたよ」
隣にいるライフォンもそう言って微笑んでいる。
「ようやくヴィオラの成長した姿が見られる。どれ程待ち望んだか」
普段怖い表情をしているお父様も、目元に涙を滲ませているわ。
「ヴィオラちゃんの可愛い姿を早く見たいわ」
おっとりとしたお母様もそんな事を言ってくれる。
普段は私が避けている為にあまり会う事がないけれど、今日はお祝いだし仕方ない。
「そうだわ、記念に三人でお揃いのドレスを作りましょ。フリフリのレースにお花もふんだんに盛り込んで」
「お母様そう言うのはパメラとだけにしてください」
可愛いものが好きなお母様と私では趣味が違い過ぎて、疲れてしまうのだ。
好意は嬉しいけれど、私には似合わない。
パメラの方が似合うのだからそちらに贈ってもらっていいわ。
「そんなぁ、ようやくあなたに沢山のドレスを贈れると思ったのにぃ」
「ようやく?」
「えぇ。本当はもっとあなたにドレスや装飾品を贈りたかったのだけれど、成長してからいっぱい贈ろうと皆で決めたのよ。これからは今までの分の贈り物をいっぱいさせて頂戴」
「そんな決まりがあったのですか?」
パメラよりもドレスや装飾品が少なかったのは理由があったのか。
「婚約者になるアーネスト様が贈れないのに、私達が贈り過ぎるのも良くないわよねって話し合ったの。でも今後は誰に憚ることなく、ヴィオラを飾り立てる事が出来るわ。アラカルト家の跡継ぎとして、そして花の乙女として」
ニコニコなお母様だが、アルは気まずそうな顔をしている。
「僕が贈れないのに、侯爵様達だけ贈るのが羨ましかったんだ。だから皆気を遣ってくれて、そういう事になったんだよ。これからは僕もいっぱい君に贈り物をさせてもらうし、ライフォン様のように愛を囁かせてもらう。今までの空白の時間を埋めたいんだ」
嫉妬と、そして私への好意溢れる言葉に頬が赤くなる。
ヤキモチで少し口を尖らせ、恥ずかしさから頬を染めるアルは、見た目よりも幼く見える。
見た目では私の方が小さいけれど、アルのそんな一面を見れて嬉しい。
「ありがとう、アル様……」
プレゼントがもらえるのが嬉しいのではない。皆が私の事を思ってくれていると実感できるのが嬉しいのだ。
「私もね、あなたに会えたらいっぱいしたいと思った事があるの。手紙のやり取りをしたり、誕生日にプレゼントを贈ったり、それと」
パメラとライフォンのようにイチャイチャしたい。
そこまではさすがに言えなくて俯いてしまう。
それでもアルは私の言葉に嬉しかったようで、声が弾んでいる。
「僕もいっぱい君と話したいし、デートしたいし、こうして手を繋いでいたいよ。ヴィオラ、愛してる」
まだ花の女神様の前ではないというのに、愛の告白をされてますます顔を上げられないわ。
でもその言葉が嬉しくてアルの腕に添えてある手に力がこもってしまう。
「アーネスト様。さすがにまだ早いですよ」
咳払いと共にお父様が牽制の言葉を口にする。
パメラとライフォンの付き合いにも厳しいので、きっとアルにも同じようにするだろう。
「そうですね、後の話は花の女神様の前で誓ってからにします。今後は僕もアラカルト家で一緒に過ごしますから、いつでも話す機会はありますし」
「そうなの?!」
恥ずかしさも忘れる衝撃な言葉に思わず顔を上げてしまった。
「将来君を支えられるよう、アラカルト領やこの国について学ばなければいけないからね。君のお母様やパメラ嬢には許可を得ているよ」
その二人に言われればお父様とて折れざるを得ないだろう。
その光景が目に浮かぶとともに、緊張感が増してしまう。
今までまともに男性と話したことがないのに、突然の同居なんて。
私の心臓はもつかしら。ドキドキで破裂しそうだわ。
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