第8話 アビリジア


 白のシャツに黒のパンツでいいだろ。主役はアイリーンだからな。今日はアイリーンと一日デートだ。デートなんて久しぶりすぎるし、この街のこともまだあまり知らないからアイリーンに聞きながらだな。

「おまたせ」

「俺も今来たとこだから」

 決まりきったセリフだ。

「どこから行こうにもこの街のことをあまり知らなくてさ、エスコートできなくてごめんね」

「いいわよ!私が誘ったんだもの!まずは映画でも見に行きましょう」

「映画があるの?ぜひ行こう!」

 映画館は普通な感じだが、ホログラムで立体化された俳優や女優、背景など感動した。映像の風を感じたり爆風や雨の感じなど終始ビックリしていた。

「近くに良い喫茶店があるの」

 映画の話に花を咲かせ、いつもなら聞き役に徹するのだが感動したことを伝えたかった。


 有名なレストランでランチを食べ、散歩がてら街を案内してもらう。


 芝生に寝転んで空を見る。

「ユーヤって子供みたいなところがあるのね」

「ははっ!こんなに楽しいデートは初めてだよ」

「女泣かせなのねー」

 しまった、他の女の話はタブーなのに。

「まぁ許してあげるわ、私も猫かぶってたしね」

 フフッと笑うあどけない顔を妖艶な女の顔にする。

「まだ一日たってないもの。いつもの酒場じゃなくてちゃんとしたディナーに行きましょう」

「あぁ。でも、まだここでこうしていたいかな」

 アイリーンとの顔が近づきキスをする。



 ディナーが終わり、アイリーンが選んだ店はお洒落な雰囲気のバーだ。

「乾杯」

 いつものような雰囲気ではなく、大人な感じだ。

 アルコールが回ってきたのか饒舌になるアイリーンの聞き役に徹し、アイリーンの足が覚束なくなる程度で店を出る。

「もう、こんなに酔ってもガードが硬いんだから」

「俺は無責任なことはしたくないんだよ。まだ此処に来て数日だからね」

 軽くキスをしてハウスの前で別れる。


 はぁ、なんとなく夜風に吹かれて酔いを覚ます。

『キャァァァァ』

 本当に台無しだな。

 走ってその場に駆けつけると男が女に馬乗りになっていた。

 剣を取り出し首につける。

「女泣かせは別の手を使うんだな」

「こ、」

「殺せないと思うか?」

 首筋に赤い切り傷ができる。

「わ、わかった。離れるよ」

 男は立ち上がり、女は俺の後ろに隠れる。

「悪いのはその女だ!その気にさせといて金だけ払わせるなんて」

「そんなつまらない事で俺の気分を台無しにするな」

 男の言い分も分からないわけではないが、それを肯定もしない。

「さっさと帰れ、これ以上気分を害すな」

「わ、わかった。おい!お前は覚えとけよ!」

 女に向かって叫んだ男は路地裏から出て行った。

「さて、お嬢さんもさっさと帰りな」

「待って!お礼をしたいの!」

 そんな気分じゃない。

「別に要らない、じゃあね」

 10

 昨日は少しだけ飲みすぎたかな?

 水を魔法で出してコップに移すとそれを一口飲む。

 ラフな格好に着替えて降りて行く。いつもの朝飯を食べに、女将に言ってカウンターに座る。

「昨日はどうも」

「あぁ、どうも」

 下に降りてから目線が俺に来てたからよくわかる。昨日助けた女だ。

「助けてもらってお礼もいらないなんて逆に失礼じゃないかしら?」

「たまたま偶然あの場所で気に入らなかったから助けただけのこと。気にするな」

「まぁ、助けたことを肯定なさるなら尚のことですわね」

 はぁ。言葉の文をとって言いくるめてくる気か。

「なにをしてくれるんだ?」

「なんでも、これでも情報屋だからね」

 女はクセのあるグレーの前髪をかき分け妖艶な瞳で俺を見つめ笑う。


「わかった、頼みたい事は昔の話だ。何故、この地は滅びたのかを」

「わかったわ、それでいいのね」

 女は椅子から立つと、

「私はアビリジア」

「俺はユーヤだ」

「またね、ユーヤ」

 そう言うと宿を出て行った。


 これで少しだけ前に進めそうだな。


 『雷獣』が来たのはその後だ。

 今は少しでもこちらの生活に慣れるべきだ。

「よぉ、おはよーさん。これがユーヤの取り分だ」

「一昨日のオークションのか?」

 カウンターに置かれた袋はだいぶ重そうだ。

「手数料引かれてもだいぶ儲けたぞ」

「ありがとう」

 アイテムボックスに入れる。

「中を確認しないのか?」

「そんな野暮な事するはずないだろ?」

 アイテムボックスにいれれば盗られることもないしな。

「タラシだな」

「どうも」

 ダダンとの会話も終わり、みんなで次のことを話す。


「魔の森でいいんじゃないか?」

「少し休もうよ」

「体が鈍る」

「じゃあ平原で狩りは?」

 これ以上稼いでも今の俺じゃ使い道がないな。

「俺は一旦休むことにするよ」

「ほら!ユーヤもそういってるし」

「ユーヤはユーヤだ」

「『雷獣』としては少しは動かないとな」

 ダダンも苦労するな。


 ダダン達『雷獣』は平原での狩りで決まった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る