第7話 世界の最後に引き金を
グラウンドのど真ん中。
いかつい金属の首輪をはめられた男女が、数十メートルの距離を置いて向かい合っている。
手には歪な形をした銃、あのサバイバルゲームに出てきた消滅光線銃が持たされている。
男の方は
女の方は同じクラスの
「はい、生き残りを賭けた真剣勝負! 当たり前だけど勝つのは一人だけ! すなわち敗北は死! シンプルイズベースト!」
まるで審判でもやるような立ち位置でゼンゼンマンがくるくると踊っている。仮面には「DEADorALIVE」の文字が浮かんでいた。
「ルールは相手の息の根を止めるだけ。逃亡したら首輪に仕込まれた爆弾が作動してグラウンドごとドッカンするから気をつけてね。じゃ、レディーゴー! ……あれ? レリゴーだっけ? まあいいや、はっじめー!」
かなり適当な合図が下される。
が、ミツグ達は動こうとしない。動けなかった。銃を持ったまま震えて突っ立っているだけだ。
そのまま時間だけがただただ過ぎていくのを見て、ゼンゼンマンは「しまった」とつぶやき、慌てて「制限時間は今から五分! それまでに決着付かなくてもドッカンするから!」と付け足した。ゼンゼンマンの仮面にも残り時間が表示される。
それでも二人は動こうとしない。やはり動けなかった。そもそもいきなり殺し合えと言われて拒否権もなくこんな状況になっているのだ。頭が追いつくはずがない。
が、一秒一秒と時間が過ぎていく内に少しずつ首輪の熱が上がっていくのを感じ、ミツグはゼンゼンマンの言う爆破が決してハッタリではないと察し始めた。意を決し、銃を握り直して構える。
対する譲木花梨は泣きじゃくったままなにもしない。
このまま彼女を撃ってしまえば、それだけで終わる。
ジリジリと熱くなっていく首に焦りを感じながら、ミツグは照準を合わせる。
これは正当防衛で、無理矢理やらされているだけなんだ。自分が、みんなが助かるには彼女を撃つしかない。
そう思って、引き金を引いた。
「げっ」
ミツグの決意もむなしく、思いっきり外れた。
「キミら一応素人なんだからもっと近寄らないと当たらないんじゃない? あ、弾は無限に撃てるから安心してよ。一発撃つとチャージに何秒かかかっちゃうけど」
小馬鹿にしたようなゼンゼンマンの口調にいらだちを感じつつも、ミツグは突進しながら銃を撃つ。
二発目は相手が反射的にしゃがんで回避された。
それでもひるんでいる場合ではない。しゃがんだ事により動けなくなった相手に向かってさらに突進し、手を伸ばせば届くくらいまで近づくと三発目を撃つために引き金に力を込める。
閃光。
そしてわき起こる焦げ臭い匂い。
ミツグの胸部には大きな穴が開いていた。血も臓物も見当たらないぽっかりとした空白。
ミツグの銃からは何も発射されていなかった。撃ったのは、ギリギリのところで引き金を引いた譲木の方だった。
涙と鼻水と汗でベトベトになった顔で、彼女は起死回生の一撃を放ったのだ。
「勝者・譲木花梨さん!」
試合終了を告げるゼンゼンマンの声と共に、最後のゲームとやらの映像はぷっつりと切れた。
「……なんだよこれ」
底冷えするような声でモニターから目を離したミツグがゼンゼンマンの方を見た。
「あ、解説いる? これは結果論なんだけ」
「どうせオレが死ぬオチで終わるんだろこれって思ったら案の定じゃねえか!」
映像のオレ、完全に動きがアホっぽいと頭を抱えるミツグ。もうゼンゼンマンに楯突く気力は失っていた。
「てかオレが死ぬとこばっかり見せて何がしたいんだよ。勝ってるとこ全然ないし」
そこまで言ってミツグははっとした。
この理不尽に繰り返されたデスゲームは生存勝利した物からゲームから抜ける事が出来る。
そしてゼンゼンマンは今見た映像を「最後」と言った。
つまりそれは。
「そう、キミは全部のゲームで死んだんだよ!」
「軽くおさらいしよう」
ゼンゼンマンはひとまずミツグが落ち着くのを待ってから、まるで小学生に勉強を教える家庭教師のような口調で説明し始めた。
「ミツグ君のクラス、
「その馬鹿にしているような物言いをやめろ。ドロドロのドクロのやつだろ」
「ブブー、それは二番目のゲームでーす。最初は鍵探しでした-」
「めっちゃむかつくな!」
「間違えたのはそっちなのに」
仮面に「Misplaced anger」と文字が表示される。
「……気を取り直して、鍵探しの話に戻すよ。身体に毒が回りきる前にたった一本の使い切りの鍵を探すゲーム。さて、このゲームで生き残れるのは最大何人でしょう?」
「普通に一人だろ」
「はい、正解ー。それじゃ、三番目飛ばして四番目にやったサバイバルゲーム。あれ、確実に死ぬのは何人?」
ルールは指定されたターゲットを撃ち抜いて時間いっぱい生き残れば勝ち、だったはずだ。
「半分は確実に死ぬだろ。かといって半分まるごと生き残る保証もないけど」
「じゃ、ひみつおには何人生き残る?」
「てめえで十六人中八人って言っただろ。結局生き残ったの七人だったけど。くそっ、思い出してもどっちのゲームもとりわけムカつくな」
「それじゃテストは?」
「一位とビリ以外は生き残り。ここへ来て確実に生き残る奴の方が多くなったな」
「そう、その通りなんだよミツグ君!」
仮面「Exactly!」と文字が現れる。
「これらのゲーム、一部を除いて生存率が後の方ほど上がるんだよ! しかもテストなんて九分の七という破格の確率だよ!」
ゼンゼンマンはくねくねと踊っている。そしてピタリと止まるとミツグの方を見た。
「にもかかわらず、だ」
口元がニヤリと弧を描く。
「キミはこれだけゲームをやって全部死んだ。これは一種の才能だよ」
才能。十代半ばの少年少女ならば誰もが欲しがるような代物。
だが、死ぬ才能などあっても喜ぶ奴などいない。当然の如くミツグは否定した。
「少なくともテストのやつはペンを落とさなかったら死なずに済んだかもしれないだろ」
「うん、まあそうだね」
「鍵のやつだって階段から落ちなければもう少しまともにやれてただろうし、人狼ゲームもどきのやつだって出席番号のせいだし、サバイバルだってキリオが裏切らなければだし、鬼ごっこは完全にてめえの調整ミスじゃねーか」
「……うん、まあそうだね」
「つまり何が言いたいかって、たまたま運が悪かっただけでオレの落ち度じゃねえ!」
「その運の悪さこそがキミの才能だって言ったら?」
ゼンゼンマンが斬り捨てるかのように言った。
いつものような小馬鹿にするような言い方ではなく、極めて冷静で、冷徹で、残酷なくらいに現実な。
その雰囲気に気圧されてミツグが反論してこないのを見て、ゼンゼンマンは話を続ける。
「キミは死の危機に直面すると、そこに引きずり込まれるかのように死に向かってしまう。キミの意志とは関係なく。まるで「死」という概念に愛されているかのように、勝手に飲み込まれちゃうんだ。今までそれに気付かなかったのは直接死に繋がるような危機を経験したことが無かっただけなんだね」
そして今度はいつになく真剣な口調で、ミツグに改めて向き直った。
「だからその才能を、その力をワタシに貸してほしい」
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