第10話 正体

「……分かっちゃった?」

「分かったって、なにが?」


「私の、正体。」

「心の神様の、正体……?」


最近思った。

桜先生と綺羅が同一人物なら、

桜先生は私の心の神様なんじゃないのか。


綺羅はいつまでも桜先生であり、

桜先生は綺羅である。


転生しただけで、

中身は一切変わってないんだ。


「なんで、気付いちゃったの?」

「え、」

「私、今なにも言っ、」


「私は貴方の心の神様なんだよ……!?」

「貴方の心の中が読めて当然なんだよ!!」


「貴方が生きたいと思ったら、」

「私はもう貴方と一緒に居られないの!」


「貴方が私の存在に気付いてしまったら、」

「もう会えない!」


「そんな、そんなの聞いてない!!」


「私、まだ一緒に居たいと思ってるし!!」

「だから!私と一緒に生きよう!」


「私、生きてないから、!」

「もう死んでるから……!」


「そんなの関係あるわけないじゃん!!」

「まだ知ったなんて言ってないから!」


「……言っても言っていなくても、」

「貴方の心が知った瞬間、」


一瞬戸惑ったようにして、口にする。

「私はこうなる。」


「っえ、」

「見れば分かるでしょ?体が凍っていく。」


「貴方のお母さん、優しい人だった。」

「知ってるんだよ、貴方のお母さん。」


「だって、貴方の心の神様なんだから。」


「心の中にいるから。」


ピシッという音と共に、涙が溢れてきた。

「もう、私は割れる。」


「おかしいよ!こんなの!」

パリッと音がした。亀裂が入り始めた。


「こんなの嫌!」

「大丈夫。」


「貴方は忘れてしまったの?」

桜先生と姿が重なる。


「貴方といられて、幸せだった。」


服装が、髪型が、声が、笑顔が、

桜先生に、綺羅になる。


「き、綺羅…!」

バキッと音がして、左手が崩れ始めた。


でも、血は出ていない。

「え、……っ!」


そうだ。桜先生は、綺羅は、一度亡くなっているんだ。

だから、血だって流れていない。

でも、また亡くなるなんて…


最後の力をふり絞るように、桜先生が、綺羅が喋る。

砕けてしまいそうな亀裂がたくさんあった。

涙のせいで、姿がよく見えない。


「あのね……。」

「もう喋らなくていいから!」

「なんとかして戻す方法を……」


「もう、無理。このまま私は砕けて散る。」

「聞いてほしいこと、聞いておきたい。」


「貴方のためにあの空間を作ったの。」


「広くて綺麗な空間を作りたかった。」

「貴方の心の支えでいたかった。」


「もういいから!」

「やっぱり貴方が一番大切な人だった……」

「笑顔で幸せに貴方と暮らしたかった。」


「また泣きたくないから……」

「幸せの水晶っていう話聞いたことある?」


「ないよ、それよりも!!」

「あのね、」

「水晶を使って幸せを手に入れるの。」


「でも幸せを使ってなにかをすることは、」

「できない。」


「だから、幸せを飲み干してしまったら、」

「もう幸せは出てこない。」


「貴方なりに幸せを取っておいてね。」


「いつでも貴方に会うことができるから。」

「……でもね、私はいつでも助かれる。」


「っえ、じゃあ……」


「でも、貴方の幸せを奪うことになる。」


「別にいい!」

「違う……それだけじゃない」


「私が先に大人になってしまうから。」


「っでも……!」

「だから、もう会えない」


バリッという音で、桜先生の、綺羅の体が崩壊した。


「いつまでも、あなたたちの先生でありますように……」

誰かに投げ出される感覚があった。


私はまた、もう一度死ぬかもしれない。

でも、どうして私は一度死んでいるのに


また生きているのだろうか。

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