第7話 死にたくて

しばらくすると、目が覚めた。

ゾッとした。

もしかして、死ねてなかった……?


水の中のように透き通った光があった。

こんな景色を見るのは初めてだった。


綺麗という言葉だけで思い出す。

「桜先生」という人を。


私が12歳の時にホームに落ちて亡くなった。

優しくて笑顔が綺麗な女の先生だった。


唯一の、優しい先生だった。


「こんにちは」

「誰……?」


「あなたの心の神様だよ」

「神様なんて信じない」


「どうして?」

「私の願いを聞いてくれない。」


「そう?私は聞くけど。」

「ついていけば分かるよ」

「ついていけば……?」


「この階段、登って」

「綺麗でしょ?この階段」

「まぁ、綺麗かも……」


「さ、このドア、開けてみて」


ここはどこなんだろう。

天国でも、地獄でもない。


「よし、手当てするよ」

「悪いよ、大丈夫」


「外に出るんだったら手当しないと」

「あ、でも、大丈夫。」


「お腹空いてる?」

「ちょうどお昼の時間だし、食べなよ」


結局、手当てもしてもらったし、

お昼ご飯も食べさせてもらった。

「……外出てもいい?」

「あ、ちょっと待って」


「テレビを見ればわかるよ」

『――12才の中学生が行方不明になっています。見かけた方はすぐ警察に通報―――』


「ね?結構問題になってんのよ」

「だから、普通に外には出られないね。」


変装用の帽子と眼鏡を貸してもらった。

「久しぶりだね、外に出るの」

「ちなみに、ここは2030年だからね」


「……え?」

「一回死ぬと、時の流れが速くなるんだ」

「それに、面倒なことになるし」


「……面倒って、なにが?」

「ここに来るとき、階段で来たでしょ?」

「その階段が消えて、帰り道がなくなる」


「だから、気を付けてね」

「今日はそろそろ帰るか~」


♢2日目の朝♢

「ね、外行かない?」

「いいけど……。」


「じゃ、さっそく行こうか!」

「やっぱりこの階段綺麗だよね」


「ここの階段が?」

「うん」


「これね、私が作ったんだ!」

「すごいね」


「この階段、硝子なんだよ。」

「気持ちが揺らいで変わった瞬間に崩れる。」


「ほら、話している間に、外に着いたよ!」

「ほんとだ!」


「外、綺麗だね」

「カフェ寄る?」


「いいの?」

「うん」 


「それと、聞いてほしいことがあるんだ」


「2名様でよろしいでしょうか」

「はい」

「個室でお願いします」

「分かりました」

「お席こちらです」


「あのね、相談があって……。」

「うん、どうしたの?」

「私、……。」


「もともと呪ってるらしくて。」

「電車もそうだけど、私が人身事故を起こしてるらしいんだよね」


「え、大丈夫なの?」

「うん、私は大丈夫。」


今更、思ってしまう。

星は、幸せなのだろうか。


私が星を壊したんじゃないかって思った。

寂しそうな、涙の溜まった目が、見えた気がした。


「え、ちょっと!!」

「泣かないでよ、……!」

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