目隠し

 ボクは何も着ていない状態で、段ボールの前に立っていた。


「こんなところかしら」

「あの、……何をするつもりなんです?」


 段ボールの中に牛河さんを詰め込んだボクら。

 牛河さんは、膝を抱える姿勢で収納されていた。

 手足は結束バンドで固定されているため、起きても抵抗はできないだろう。


「イタズラ」


 さっきまで包丁を持ち歩いていた牛河さん。

 彼女を捕獲して、イタズラをしようだなんて並の神経では、到底不可能だ。


「この子、水野くんが大好きなんだって」

「……そう、なんですか」


 本人からそれとなく言われたことはある。

 でも、告白なんて甘いものではなかった。

 ボクは牛河さんから乱暴にされた記憶しかないし、怒らせたら後が怖そうで、ハラハラしていた。


「今日から、この子監禁するから」


 しれっと、とんでもない事を口走った。


「へ?」

「監禁よ。たぶん、あたしが世話をすると暴れそう。だから、水野くんが世話をするの」


 話が見えず、ボクは牛河さんとミサキさんを交互に見た。


「お、親とか、心配しますよ」

「大丈夫よ」

「どうして?」

「この子、片親だから。……親御さんは、若い男の所に遊びに行って、家には帰ってきてないんだって」


 まるで見てきたかのように喋るミサキさん。

 どうして、そんな事を知っているのだろう。

 不思議で仕方なかったが、黙っていると、ミサキさんが自分から教えてくれる。


「興信所に依頼したの。こいつの事を探ってくれって」


 ボクが知らない間に、ミサキさんは探偵を雇ったようだ。


「う……」


 話していると、牛河さんが気だるげに頭を傾ける。


「……ど、……ろぼぉ」

「くすっ。泥棒?」

「水野くんを……返して……」


 牛河さんが悔しげに言うと、ミサキさんは笑った。

 それは、それは楽しそうに口角をつり上げ、段ボールの中から見上げる牛河さんへ小馬鹿にした笑みを向けるのだ。


 ドS過ぎるよ。


 素直にボクは思った。


「いーやーだ」

「……ふ、くっ。ころ、殺して、やる」

「あははははっ! ば~っかじゃない?」


 ゴソゴソと暴れる牛河さんは、縛られた両手を無理やり振って、うめき声を上げた。


 息を荒げる茶色の髪を掴むと、無理やり持ち上げ、ミサキさんが言った。


「そんなに返してほしい?」

「……っ」

「返してほしいなら、あたしのペットになりなさいよ」

「……死ね」

「じゃあ、今日は水野くんと――」


 ギリっと髪の毛を掴む手に力を込め、顔を近づけていく。


「――セックス。しちゃうから」


 牛河さんが大きく目を見開き、鼻息を荒くして睨みつける。


「あなたの前でしてあげる。この子は、あたしのペットだもの。どう? 素敵でしょ?」

「……何が、望みなのよ」

「だから、ペットになりなさいってば。あなたが、もしも逆らうなら、容赦なくこの子を犯す。それと、……知り合いの男色家に紹介しようかしら」


 牛河さんは黙って睨んでいたが、大きく開かれた目玉がギョロっとボクの方へ向く。――ボクは怖くて、何も言えなかった。


 だって、牛河さんは、一段と見たこともない表情をしていたし、別人だったのだ。


「警察に、言うから」

「どうぞ。でも、忘れないでね。不法侵入したのは、あなたよ」


 頭に血が上り過ぎて、たぶん思考が回っていないんだろう。

 牛河さんはいい様に言い包められていく。


「どうするの? 言う事聞いてくれる?」

「……聞く訳、……ないでしょ」

「あ、そ」


 断られたというのに、ミサキさんは楽しそうだった。

 予め、テーブルの上に放り投げていたアイマスク。

 それを手に取り、箱の中へ手を突っ込む。


「な、何をす――」

「ゲームしましょう。当てたら、帰っていいわよ」


 アイマスクで目を塞ぎ、外れないように髪の毛をマスクの紐に括りつける。


「さて、と」


 冷蔵庫に向かい、ミサキさんは何やら準備を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る