奴隷

 ミサキさんは、ミステリアスだ。

 言葉一つ表せば、そう表現するしかない。

 でも、実際はもっと掴みどころがなくて、何を考えているのか、読み取れない時が多々あった。


「水野くん。現代において、奴隷を作る時、どうすればいいと思う?」


 ソファに腰かけ、相変わらず難しい本を読んでいるミサキさん。

 ボクは肩を揉みながら、本の中身を覗き見るけど、小さなアリがビッシリと列を成しているような文字を見た途端、首を傾げてしまった。


「さあ」

「奴隷だと思わせない事なんだって」

「思わせないだけですか?」


 ボクの想像では、足枷を付けて、恐怖を与えれば奴隷なんじゃないか、と思っている。


「飼い主にとって、反抗されるのが一番鬱陶しいからよ。牙を抜けば、何も怖くない。わざと怖がってるふりをしてあげるだけで、ワンちゃんは喜ぶ。でも、いつでも殺せるの」


 やっぱり、意味が分からなかった。


「水野くん。夏休み中に行きたい場所はある?」

「……え、さあ。特に」


 我ながら自主性がなかった。

 自分の事を自分で決められない。

 ミサキさんは窓の外に目を向けて、何やら考え事をしている。


「遊泳禁止の海に行こっか」

「お、怒られるんじゃ……」

「見つかれば怒られるわよ。ありがたい事じゃない」


 なんて言っているが、ミサキさんは皮肉めいた笑みを浮かべていた。


「その前に、……もう一人。奴隷を増やしたいの」

「え?」

「あたしが何もしていなかったと思う?」


 顎を持ち上げ、ミサキさんがボクを見てきた。


「一度ね。人間を弄りたかったの。水野くんは使い勝手がいいから、助手。あの子が来るまで、ゆっくりしていよっか」


 誰か雇うつもりなんだろうか。

 人数が増えるのは、ちょっと嫌だった。

 苦手というか。

 人数を増やす必要なんて、どこにもないのに。


 ボクにはミサキさんの考えてる事が分からない。

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