日記

 牛河さんの部屋は、青を基調きちょうとした内装だった。

 窓際にベッドが置いてあり、壁側にテレビが置いてある。

 テレビの横には本棚。


 真ん中には小さな円卓があり、机がない事から、ここで勉強などをしているみたいだった。


 ――すっげぇ。


 ボクは素直に感動した。

 柄がクマのぬいぐるみだったり、ファンシーでありながら、それを目立たせないように色合いなどが気遣われていた。


 部屋は本当に良い匂いがしたし、ベッドの位置がとても理想的だった。

 窓を開ければ、駐車場が見える。

 駐車場の向こう側には、灯台。つまり、海があるのだ。


「ここって、夏とか冷房いらないでしょ」

「全然いらない」


 牛河さんが笑いながら言った。

 ベッドに膝を突いて窓を開けると、少し開けただけで風が入ってくる。

 海から程よく離れているから、潮のにおいが濃すぎず、ふんわりとしていた。


「適当に座って」

「う、うん」


 緊張しながら、ベッドに腰を下ろす。


「あ、……そ、そこ座るんだ」

「え?」

「ううん。何でもない」


 何か悪い事しちゃったかな。

 床に座り直そうとしたら、牛河さんに止められたので、お言葉に甘えてベッドの上で寛ぐ。


 ここに座ったのは、日当たりが良いからだ。

 景色が何となく気にいってしまい、少しだけ楽しくなった。


「飲み物持ってくるね」

「あ、お気遣いなく」


 牛河さんは部屋を出て、階段を下りる。

 残されたボクは、特に何もすることがなく、あちこちに目を配った。


「……ん? なんだろ」


 ふと、本棚に目が向いた。

 棚の中に、『観察日記』というタイトルの本があった。

 普通ならタイトルだけで気になったりしない。


 ただ、観察日記の下に、『みずのくん』と文字が書かれていて、妙に気になった。


 部屋の扉を見て、耳を澄ませる。

 階段を上がってくる気配はないし、見るなら今の内か。

 失礼だろうけど、どうしても気になってしまった。


「すぐに戻せば平気だよね」


 日記を手に取り、中を開く。

 そこには、があった。


「……?」


 写っているのは、ボクだ。

 これは分かっているけど、その先が処理できずに固まってしまう。


『ずっと舐めたい』

『ずっとかじりたい』

『耳と唇が好き』

『お腹を舐めたい』

『太ももをかじりたい』


 ボクはすぐに日記を戻した。

 意味が分からなくて、反応に困った。


 しかも、写真は物だった。

 シャワーを浴びている最中の写真もあった。

 寝ている時の物もあった。


 何で、そんな写真を牛河さんが持っているのか、本当に意味が分からなかった。


 トン……トン……トン……。


 階段を上がってくる音がして、慌ててベッドに戻る。


「麦茶しかなかったけど、いいかな?」

「……う……うん」

「どしたの?」

「え、何でもない」


 笑いながら、返事するのが精いっぱいだった。

 麦茶をテーブルに置く牛河さんを眺め、先ほど見た日記の内容を脳内で照らし合わせる。


 ボクには牛河さんが、どういう気持ちであれを書いていたのか、全く分からなかった。

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