こんな感じ

 まだ一週間と少しだけなのに、六条家にきた時のルーティンが板についてきた。


 きたら掃除。

 続いて、夕食の準備。(簡単な物)

 お風呂に水を張る。

 そして、ミサキさんの肩揉みとか、オモチャとして傍にいること。


 だいたいは、こんな感じの流れである。


「はぁ……」


 肩を揉みながら、心ここに在らずの状態だった。

 天井のプロペラ。――シーリングファンがクルクル回るのをボーっと眺める。


「はぁ」

「何よ。鬱陶しいわね」


 ボクの日常は、決して良いものではなかった。

 良い事なんてないし、毎日が苦しくて、つまらない。

 世界が滅びればいいのにな、と何度願ったか分からない。


 なのに、六条家で働くようになってから、変な歯車が回り始めた気がしてならないのだ。


「何でもないです」

「だったら、わざとらしくため息つかないで。言いたいことあるなら、言った方が楽よ。……場合によっては本気で怒るけど」


 釘を刺されつつ、ミサキさんに催促される。


「その、クラスに、優しい子がいたんですけど」

「へえ」

「急に、怖くなっちゃって」

「あなたが痴漢したとか」

「それはないです」

「具体的に何をされたのよ」


 言おうか迷ったが、相当精神的にストレスだったみたいで、小さく前後するミサキさんの頭部に声を発した。


「手を噛まれたり……」


 今のところは、実害はそれだけ。

 他には、豹変した以外は特にない。


「ふーん」


 興味なさげに本を読み始めるミサキさん。

 だが、「こんな感じ?」と片手を掴まれた。


「あぐっ」

「い、った!」


 指を噛まれ、思わず腕を引いた。

 人差し指の第一関節辺りに、歯型がくっきり残っていた。


 どうして、この人はボクに何かある度に、追い込んでくるんだろう。

 傷口に塩を塗るのが、とても好きなようだった。


「きっと、野生児なのよ。むしろ、自分から振り回すつもりで接してみたら?」

「……んー」


 そういえば、明日用事があるか聞かれていたっけ。

 精神的にどうかしてるのを自覚しているが、ボクはボーっとした感じで、「じゃあ、明日休みください」とお願いをした。

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