7模擬戦

「じゃーしゅっぱーつ!」


 鍛冶屋を出て、ギルドのクエスト出発地に戻る。

 アリアさんの掛け声と共に外に出る。これから初めてのクエストが始まる。


「この薬草はどこで採取できるんですか?」


 舗装された道を歩きながら、今回の目的である薬草について聞いてみる。


「んーと、ここから30分くらい歩いた先に森があるんだけど、そこにあるよー!危険なモンスターもいないはずだから安心してー」

「いないはずってことは、いる可能性もあるんですね。アリアさんもしっかり装備を整えてるようだし、王都周辺に危険なモンスターが出ることあるんですか?」


 アリアさんの装備は、白色を基調に上半身はしっかりと固められているが、下は生足が太ももから見えている状態だ。 

 細くもなく太くもない。いい感じの足だ。いや、やらしい意味ではない。


「なんでか最近、モンスターの動きが活発なんだよねー。魔族のせいじゃないかーってギルドは言ってるけどね」

「魔族、ですか。強いんですよね。」

「個体差はあるけど、すごい強いよ。魔力も高いし、大規模な魔法を使うって報告もあるし、何より知能がものすごく高いんだ。」

「戦ったことはあるんですか?|」

「ないよー。もし、戦うことがあったら勝てるかわかんないけどね。」


 やっぱり魔族は強いってのは異世界の常識みたいなもんか。


「遭遇しても、おにーさんは私が守るから安心してねー!」

「ありがたい言葉ですね。ただ男がいつまでも女性の後ろに隠れるわけにはいきませんね。いつか、俺が守る側になれるように強くなりますよ。」

「・・・おにーさんかっこいー!」


 顔を背けながら言っているアリアさんの耳は少し赤くなっている気がした。

 そして、臭いセリフを言った俺は恥ずかしくてめっちゃ赤くなってしまう。


「ま、まぁ、今はアリアさんに色々と教えてもらいたいと思います!」

「とりあえず薬草みつけよー!あの森だよー!」



〜40分後〜


「これで20個っと。」


 特にモンスターなどに遭遇することもなく薬草採取を終える。


「よーし、これであとは薬草を持ってギルドに報告したらクエスト完了〜」

「お疲れ様です。」

「ギルドに戻る前に、おにーさん、私に聞きたいことがあるんでしょー?」

「はい。えと、スキルとかちょっと聞きたいですね。」

「わかったー!どっか広いとこ移動しよっか!」


 森の中を移動する。


「ここでいっか!」

「そうですね。」

「聞きたいことってー?」

「あの、俺のスキルに女神の加護ってあって、どんな効果があるのかわからなくて」

「女神の加護・・・ごめん!私もわかんない!鑑定スキル持ちに聞いた方がいいかも。後で紹介するね!」


 わかんないかー。仕方ない、鑑定スキルってやつに期待するか。ただこれでスキル取得条件を聞かれても困るんだよなぁ。多分このスキルは転生して時に女神がくれたものだろうからな。とりあえずこのスキルは後回しだな。


「了解です。自分でも調べてみますね。」

「うん!あと聞きたいことは?」

「魔法についてですね。スキルに風と闇魔法があるんですが、使い方がわからなくて。」

「うう・・・ごめんおにーさん。魔法もあんまり教えられないかもぉ。私、ちょっと特殊なんだぁ。」

「と言いますと?」

「私の属性、雷なんだけどね。今のところ雷属性は私一人しか確認されてないんだぁ」


 雷。かっけぇなおい。


「それに雷と言っても、雷の攻撃魔法とかはないんだぁ。今後使えるかもだけどね」

「え、そーなんですか」

「雷魔法はね、身体強化に近いかな。完全に私自身のバフ魔法しか使えないんだぁ。」

「なるほど」

「基本は、スキル欄に魔法名が出て、魔力が足りるなら使えるはずだよ。ただ、闇魔法って聞いたことないんだよねぇ。私みたいにおにーさんだけしかいないのかもね!」

「え、マジっすか」


 まさかのレアスキルかこれ。


「ギルドに聞いた方がいいと思うんだけどさ、あんまりいろんな人に言わない方がいいかも。」

「色々と面倒くさそうですからね。」

「うん。私の時は、いろんな偉い人に質問ばっかりされたし、本当に面倒だった。」

「とりあえずは、アリアさん以外に言うつもりはないです。ギルドには気が向いたら言います。」

「できる範囲で力になるからね!」

「頼らせてもらいます。」


 闇魔法か。どんなものになるか知らんが、魔法がでた時が楽しみだな。


「頼らせてもらうついでに、もう一つお願いがあるんですけど。」

「私にできることなら!」


 ”差”を確かめたい。


「一回だけ模擬戦お願いできますか」


Sランクに敵うわけはないし、俺が弱いのは知ってる。でも一回戦ってみたい。


「私と?」

「はい」

「怪我まだ完全に治ってないでしょ?」

「大丈夫ですよ。」

「・・・えーと、うん、いいよー」


 あっさりだな。


「ありがとうございます。」

「ただし、私は攻撃寸止めするからね!おにーさんは本気できていいよ。多分当たらないから!こう見えてもSランクだからね!」


 アリアさんは腰に下げていた剣を鞘のまま構える。


「少しくらい雷魔法見せてくれてもいいんですよ。」

「使わせてみてよ、おにーさん!」


 アリアさんと距離10mくらい空け、向かい合う。


「ふーーー・・・」


 腰の刀の柄を握る。


「一番いい顔してるよおにーさん。」


 どうしてか、笑顔になってしまう。


「いきますよ。」


 柄を握りながら、アリアさんに向かってダッシュする。ゴブリンの時と同じようにスピードに任せた攻撃をする。


「おっっと!」


 右脇腹を狙った抜刀は簡単に避けられる。


「その刀だっけ、様になってるね」


 避けられた刀を返すように左から切り上げる。


「よっと!」


 左の攻撃も避けられ、少し間合いを空ける。


「全然当たらないもんですね。」

「Lvの差もあるけど、やっぱり技術が足りないね。こればっかりは実戦とかで磨くしかないかな。」

「まだまだいきますよ。」

「こっちからも攻撃するからねー。さっき寸止めって言ったけど、当たっちゃったらごめん!」


 納刀し、構えようとした瞬間


「え」


 一瞬で目の前から消えたようなスピードで左にまわられる。


「っぶね!」


 咄嗟に右に飛び、ギリで頭への攻撃を避ける。


「よく反応できたね。スキルかなんか?」

「素の反応ですよ。反射神経と動体視力には自信があるんですよ。」


 まだ心臓がバクバクいってるわ。瞬で終わるところだった。せっかくSランクと戦えるんだ。もっとやりてぇ


「そっちから来ないなら、こっちから行くよ〜!」


 さっきより速い!


「ほい!」


 右手を狙った攻撃。


「これも避けるか〜」


 自分でもわからないけど、なぜか避けれた。頭で考える前に体が動いた感じ。

 ただ、たまたま避けれただけだ。次はわからない。それに避けてるだけじゃだめだ。

 だったら。


「カウンター狙い?」


 そうカウンター狙いだ。


 腰を軽く落とし、刀の柄を軽く握る。

 全身の脱力。


 アリアの方を見る。

 間合いに入ったら斬る。そのくらいの気持ちだ。


「殺気が籠もっててこわーい。でもいいね!特別にちょっとだけ雷魔法見せてあげる」


 アリアさんの全身が雷に覆われたようになる。


迅雷ジンライ


 かっこよ!!!


「これが一番最初に使えた雷魔法だよー。」


 いやーめっちゃかっこいい・・・

 いやいやいやいやぁ、ゾクゾクするねぇ・・・


「あはは、またいい顔になったね!」

「なんか自然に笑っちゃうんだよね」

「わからなくもないなー!まぁ、とりあえず」


「行くよ?」


 来るっ!


 わー

 消えたような動きとかじゃなく、消えてんだろこれ。 



「はい、一本」


 鞘つきの剣が頭にコツンと当たる。


「」


 何も言えずその場に座る。


「おにーさん、よく反応できたね」


 そう、俺は抜刀していた。

 しかしその抜刀は空を切っていた。


「雷が一瞬見えた気がしたんですけど、ダメでした。」

「違うよ。おにーさんはあのスピードに確かに反応して斬ってきたんだよ。ただ私がそれを避けただけ。迅雷のスピードに初見で反応できた人なんてほぼいないし、すごいよ!」

「はは、いつか捉えてみせますよ。」

「まだまだ上の魔法もあるし、私より強い人もいるから頑張ろうね!」

 

 ここから、もっと強くならんとなぁ。


「よし、帰ろうかおにーさん」


 座っている俺に、手を伸ばしてくるアリアさん。


「そうですね。」


 手を握り立ち上がる。


「行こっか」


 アリアさと共に森を出ようときた道を戻ろうとする。

 瞬間、視界の端から何かが光る。


「アr」


 名前を呼ぼうとすると、俺の前で何かが爆発した。


「なん、だこれ」


 土煙が晴れていく。

 すると目の前でアリアさんが剣を光った方に向けていた。


「おにーさん、ちょっとまずいことになるかも」

「え?」

「多分魔族かもしれない」


 すると森の奥から、何かが出てきた。


「よく防いだな、人間。さすがはSランクといったところか。」


 はい、魔族。疑いようのない魔族。

 羽根に角、尻尾もある。全身真っ黒。The魔族って感じ。


「ここで死ねSランク。」


序盤に魔族って。

さて、今魔族戦が始まるってことね。



続く



 



 

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