3戦闘

「10匹以上はずるいっ!無理だろ!」


 急いで岩陰に隠れ、頭の中でどうすればこの不利な状況を打開できるか考える。

 まずゴブリンの数は正確には13。右に8、左に5。武器は持っていなさそうだが、さっきみたいに石などを投げてくるし、よく見ると手の爪が鋭利になっている。この数が一気に襲ってきたら怪我では済まないし、普通に死ぬ自信がある。

 岩陰から少し顔を出しながら考えていると、


「いやいやいや、石持って近づいてきてるやん・・・・」


 ふぅ・・・

 覚悟を決めろ。

 剣の柄を握る。剣を振ったことなんて無いし、生きてる生物を切ったこともあるはずがない。逃げる選択肢もあるが、絶対逃げれるとは限らない。

 なら、今、やるしかないだろ。本気で妥協せず人生を送ると決めたのだから。

 

「来いやぁっ!」


 岩陰から飛び出し、剣を構える。

 それに対して、数匹のゴブリンが持っていた石を投げつけてくる。


「全部避けたらぁ!!」


 避ける。

 そして、避けつつも接近してくるゴブリンに注意を怠らない。 

 

「「ギィギャー!!」」

 

 2匹が襲い掛かってくる。

 

「こうして、こうっ!」


 ぐしゃっと嫌な音と感触が五感に響く。

 同じ方向からの攻撃に対して俺は、攻撃を回避しつつ剣を横に薙ぎ払った。 

 深く考えず剣を振り払ったが、運よく2匹の首辺りを同時に切ることに成功した。ラッキー!!


「残り11匹か。これならいけr」


 頭に衝撃が走る。恐らく投げられた石が頭に当たったのだろう。それもそうか、全部の石を避けるだけでもキツいのに、剣なんて振ったら隙だらけになる。それに身体能力が上がっているとはいえ、俺の動きは素人だ。

 さて、2匹倒すことが出来たが、いきなりダメージをくらってしまった。

 ゴブリンは2匹やられたことが影響してるのか、距離を詰めるのをストップした。

 俺も周りを警戒しつつ距離を取る。


「痛ぅ〜・・・・」


 頭の触り傷を確認する。血は出ているが致命傷ではない。止血したいが今はゴブリンを倒さなければ。ゴブリンは距離こそ詰めてこなくなったが、11匹全部が石を投げてくる。


「「「「ギュギャーー」」」」

  

 叫びながらながらほぼ同時に投げてくる。  


「いっやっ!無っ理っ!!!!」


 まるで散弾のように飛んできた。

 ギリギリで避けれた、ほんとにギリギリで。石が当たったところの壁は抉れていた。今は避けれたが次はわからない。いや、無理ゲーだろ・・・

 どんどん出口から遠ざかってしまう。

 どうする、引くべきか、いや、追ってくる可能性もあるし、どうしたらいいんだ・・・・・・・必死に頭をぶん回して考える。そして自分の中で何かが吹っ切れた。


「ふぅ、考えるのはやめだ。」


 さっき覚悟を決めた。はずだった。しかし、なんとかなるだろう、急に覚醒とかするだろう、と甘い考えや油断、そして、しないと決めた『妥協』があった。

 死んでしまうかもしれない、そんな考えは『妥協』だろ。


「本気で立ち向かう、妥協せずにな」

 

 ゆっくりと立ち上がり、剣を強く握る。そして岩陰から出てゴブリンの方を見る。11匹がまるで笑っているように見えた。 

 しかし怖くは無かった。 


「行くぞ。殺してやるよ」


 不思議と笑っている自分がいた。

 ほんとの意味で転生できた気分だ。


「っ!!!!」


 勢いよくゴブリンに向かってダッシュする。


「「ギィーー!」」


 石がさっきのように投げられる。

 石はずっと頭目掛けて投げられていた。つまり範囲が大きくても腰から上を狙われている。だったら、横以外に避けながら、活路を見出すなら”下”だ。


「ここだっ!」

 

 投げられた石の下ギリギリをスライディングするように回避する。

 さらに加速しながら間合いを詰める。


「まっず!右!から!!!」 


 次の石が投げられる前に俺の攻撃が先に当たる。


「3匹目!!」


 右側にいたゴブリンに俺の下からの切り上げが決まる。


「次ぃ!!!」


 次に攻撃するために左に目を向けた瞬間


「「ギャーーー!」」

「やっっべ!!!」


 近くにいた2匹が引っ掻くように飛びかかってくる。さらにその奥にいたゴブリンはすでに石を投げようとしているのが見えた。2匹の攻撃は避けることができるが、石は当たるだろう。 

 加速する戦闘に合わせて、思考も加速していく。俺は動きを決める。


「当たれ!!」


 俺は飛びかかってきた2匹を剣の鞘で受け、投げられてきた石の方向に合わせて吹き飛ばす。


「ナイスコントロール。これで4・5匹目。」

「ギ!ギギ!」


 ゴブリン達も焦ったのか、陣形のようなものを組み出した。 


「厄介だな」


 俺と対面する形で、前に5匹、後ろに3匹。

 後ろの3匹は、すでに石を持っているようだ。しかも、前の5匹に隠れるように位置しているから投げられるタイミングが分かりにくい。 

 少し考えていると、いきなり前の5匹のうち3匹だけ飛び出してきた。


「「「ギャギャギャ」」」」

「ぐっ・・・キツ!」


 3匹に囲まれるように攻撃され、少しずつ押され始める。

 一瞬の隙を見て、左のゴブリンの腹目掛け、蹴りを入れる。その勢いのまま剣を滑らせ、残りの2匹を回転切りの要領で仕留める。そして、倒れていた1匹のゴブリンにトドメの一撃を入れる。


「はぁはぁはぁ」


 肩で息をする。心臓の鼓動がうるさい。


「これで、はぁはぁ、6・7・8匹目。あと5匹。」


 残り5匹。

 この5匹、さっきの戦闘の途中で時間差攻撃、もしくは石を投げてくると思っていたが、全く動きが無かった。

 5匹で陣形は組んでいるから戦わないなんて事はないだろう。


「来ないならこっちからいくぞ」


 5匹、正確には前の2匹に向かって走り出す。

 後ろの3匹が石を投げてくる。

 しかし


「石は当たらねぇぞ!」


 元々石はギリギリ避けれるスピードだった。それに加え、投げる瞬間もフォームも見えるし10匹以上に同時に投げられたさっきに比べたら避けるの簡単だ。

 さぁ、クライマックスだ!


「叩っ切る!」


 石を避けつつ、前3匹を間合いに捉えた。


「くらえっ!」


 先ほどやったように、スピードの乗った回転切りをする。しかし避けられる。


「くっ!これならどうだ!?」


 回転した勢いを使い、下から切り上げる。しかしまた避けられる。


「グギャギャギャ」

「おいおい、はぁはぁ、全然当たらん。はぁはぁ」

「ギィッ!」

「あっぶね!!はぁはぁはぁ」


 石には反応できるが、このままじゃジリ貧だな。そもそも攻撃が当たらん。恐らくさっきまでの俺の動きを見て学習したのだろう。多分。

 それに俺はどんどん体力を失っている。もっといえば剣をちゃんと使いこなせていないことも当たらない原因かな。勢いだけで勝てないみたいだな。

 ゴブリンってこんなに頭いいのか。こりゃやべーな


「くそっ!」


 一定の距離を保ちつつ、攻撃してくるゴブリン。

 間合いを詰めようとすると石が飛んでくる。

 回避した後にはまた一定の距離に戻っている。


「くっそ!はぁはぁ・・・やっべ!?」


 一瞬油断した。


「ぃって〜ー・・・」


 直撃じゃないにしろ、頭に石が当たった。少しだけ下を見てしまった。

 次の瞬間


「「「ギィー!!!!!」」」


 3匹一斉に攻撃してきた。

 この一瞬を待っていたのだろう。


「やばい・・・い、意識が、と、」


 吹き飛ばされた。

 剣もどこに行ったかわからない。ゴブリンが近づいてくるのがわかった。手には俺の剣が握られていた。

 あぁ、殺されるのか。

 せっかく本気でやってみたんだけどな。 


 おい俺!

 まだ動けるだろ!ふざけんな!

 自由に生きるんだろ!

 まだ・・・まだいけるだろぉ・・・ 

 クソクソクソ・・・


「くそぉ・・・」

 

 すぐ横にゴブリンが来た。

 悔しさと怒りの感情も虚しく、薄れていく意識の中、俺の剣が首目掛けて振り下ろされる。

 その刹那


 ビッ 


 死んだと思った。

 だが痛みもなく、ゴブリンの気配が消えていた。代わりに人間の女性と男性の声が聞こえる。


「おにーさん、大丈夫?」

「意識はまだあるようです。しかし、見たことないない顔ですね。この辺の方ではないかもしれません。とりあえずギルドに運びましょう。色々聞きたいこともありますし」

「はーい」


 そこまでの会話は聞こえたが、そこで完全に意識が飛んでしまった。




続く

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