第3話 姉

 暫く手に入れたスキルを眺めていたら、先生がやってきた。


「どうだ。倒せそうか?」


「先生。はい。一匹倒せました」


「初日で一人で倒せたのか……! それは凄いぞ」


「あはは……ありがとうございます。姉さんから色々しごかれてきたので。ですが一匹が限界ですね」


「ああ。それで十分だろう。ブルースライムのドロップ品が落ちれば、それを売っておこづかいにもできる。まだ暫くカリキュラムがあるから、ほどほどにやってくれ」


「分かりました。分からないことがあったら聞きますので、よろしくお願いします」


 ひとまず、加護とかスキルのことは伝えずにしておく。


 というのも、姉さんが用意してくれた世界のスキル集を読んでいるけど、僕が手に入れたスキルは載っていなかった。


 全部が全部載っているわけではないけど、有名なスキルは大半載っている。


 スキルがどうして重要かというと、自分が手に入れたスキルで、自分のビルド・・・が分かるからだ。


 例えば、最初に〖火魔法〗というスキルを獲得したとする。火魔法は遠距離攻撃で放つ攻撃スキルのため、装備を揃える時、魔力が上昇するものを用意した方が狩りの効率がいい。


 火魔法を得たということは、レベル上昇で上がるステータスも魔力が上がりやすくなるはずだ。


 それくらいレベルによって得られるスキルや上昇するステータスの数値は人それぞれ違う。


 レベルが上がった際のステータスの上昇量だったり、スキルはこれから探索者人生の中で一番重要と言っても過言ではないのだ。


 僕はレベルが1なので、ビルドも何もないが、何故かスキルを手に入れたので、これを使ってみたいと思う。


 少しワクワクしながら今日の授業が終わったので、ステータス画面を呼び出して【帰還】を押してみた。


 入ってきた時と同じ感触が全身を包み、景色が幻想的なものから現実に引き戻された。


 出口は入ったダンジョン入口になるらしく、ダンジョン内でどれだけ離れていても入った場所が一緒なら帰還で集まることもできる。


「本日はお疲れ様。暫くは探索者カリキュラムになる。午前中は探索者の基本知識の授業があり、昼食を食べたらダンジョンで実戦授業をして現地解散の流れだ」


「「「はいっ!」」」


「では解散。お疲れ」


「「「お疲れさまでした!」」」


 現地解散になったので、真っすぐ家に帰る。


 ◆


 都内に立つ大きなマンション。


 ダンジョン産素材で作られたマンションは、外壁も非常に頑丈なので、地震が起きてもぴくりともしない。代わりにかなり高額だが、僕の家はここにある。


 エントランスに入って指紋認証で玄関口を開いて中に入ると、豪華な作りの広間がある。


 そこでは何人かがお茶をしたり、子供達を遊ばせていたりする。


 広間の中心部に並んだエレベーター六台のうち、一つを選ぶと扉が開いたので中に乗る。


 ゆっくり動き始めたエレベーターは静かに、でも超高速に上昇し、三十五階に一瞬でたどり着いた。


 降りた場所から廊下を歩き、三千五百一号室に、玄関口同様手をかざすと扉が開いた。


 中は広々としたリビングがあり、高級ソファーから家具がずらり。


「ただいま~って誰もいないしな」


 靴を脱ぐと、少しだけ体が重く感じる。


 これは学校が貸してくれる制服靴のせいだ。ダンジョン産素材で作った装備品には特殊な効果が付与されており、制服靴は身を軽くしてくれる。脱いだ時に少し体が重くなるのは仕方がない。


 並んだ部屋二つのうち、右手側の扉を開いて中に入る。


 僕の部屋は筋トレグッズから探索者のための本がちらほら、今朝緊張して読んでいた探索者雑誌がベッドの上にそのままになっている。


 手に取った雑誌には、真っ赤なロングヘアで燃えるような赤い目をした若い女性が、両手に炎を燃やしてやっている写真が写っていた。


「最強探索者の一角。セグレス。日本ダンジョン四十六層を突破する偉業を達成」


 名前が日本名じゃないのは、正式に探索者になった者は通り名を決めることができるからだ。


 日本ダンジョンはこの間までは四十六層までしか行けなかった。それを彼女のおかげで四十七層に行けるようになったのだ。


 四十六層のフロアボスを中々倒せずに、次の階層に行けなかったのを考えれば、素晴らしい偉業だ。ダンジョンで上層階に向かうには、フロアボスを倒す必要があるから。


 一度フロアボスを倒した階層は、フロアボスを倒さなくても、魔物を一定数倒せば、次の階層に行けるようになる。


 だが新規階層の場合、一度フロアボスを倒す必要があって、誰かが倒さないと誰も永遠に上層には行けないのだ。


 数年間四十六層が最高層だった日本ダンジョンは、今では四十七層になり、またダンジョンブームが巻き起こっている。


 リビングに戻り、冷蔵庫から食材を出して料理を始める。


 今日は確か戻る日だから、多めに作っておく。


 暫く料理に時間を費やして、テーブルには張り切って作った料理が並んだ。


 少し作りすぎてしまったが……姉さんなら全部食べるだろう。大食いだし。


 その時、玄関が開く音が聞こえると同時に、扉が開いた合図のチャイムが鳴る。


「たっだいま~!」


 元気良い声が聞こえてきて、バタバタと走って入って来たのは――――先程、僕が見ていた雑誌の女性その人だ。


「おかえり。姉さん」


「誠也~! 会いたかったあああ~!」


 真っ先に僕に抱きついてきた姉さん。


 僕もすっかり体が大きくなって、受け止めるようになった。


 僕から言うのもあれだが、姉さんは極度のブラコンだ。もちろん、僕だって姉さんが大好きだし、姉さんは女手一つで僕を育ててくれた優しい人だ。不満は一つもない。


 一つだけあるとするなら――――


「ねえねえ! 誠也! 成長限界・・・・はいくつだったの!? 私と同じくらいで一緒にダンジョンに行けるかな~あ~楽しみだな~」


 一人でマシンガントークをする姉さん。


 彼女の唯一の欠点というなら――――僕に対する期待だ。


 今日という日をずっと楽しみにしていて、上位探索者の条件の一つである成長限界レベル80越え・・を期待していた。


 姉さんに事実を伝えるのは…………正直、レベル1までと言われた時よりもしんどいものがある。


 だって…………姉さん。絶対に――――

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