第7話 ゲイト・ターン・オフ

「おつかれおつかれ! 今回は長かったねぇ」

 ぱちぱちと軽く拍手するのは大王たいよう虎氏こうじは質問をする、というより本題に入るよう促した。

「話って? ドクターさん」

次須田じすだくん、今まで怪獣の掃討作戦頑張ってもらった」

「仕事おしまいですか!?」

「あ、そういうんじゃない。寧ろこれからもよろしくって感じだがな…で、本題だな。最近になって天自てんじの動きがだんだんスローになっているのには気が付いたかい?」

 暫し考えると虎氏は

「……たしかにそんな気が。僕が来るまでのヘリとかの怪獣への攻撃は少なく見えましたね。それが?」

「あぁ、そろそろ研究されてるかもしれない。怪獣が出没するたびに颯爽と現れていた君だが、怪獣が”来た”という情報は元より天自のモノだ。ハッキングしてモニターして最速でアナウンスしているだけ……つまりだ」

 聞きながら手を顎に添えて追加で考えていた虎氏、ひとつ気づいた!

「なにか嘘が流されるとか?」

「ごめーとー…彼らはもしかすれば、デマ情報を流して私たちを呼び寄せようとするかもしれない、だが私たちの判断材料は現地に行くしかない」

 一呼吸置いて大王は座っていた椅子から立ち上がると…

「どうだい? 君は付き合うかい? それに」

「………………」

 虎氏は悩んだ。

 もし自分、アンゼルを呼ぶためだけにアラートを発令する恐れがあるなら、少し出撃を待った方がいい。

 だがもしそれが本当に怪獣が現れた上でなら、被害者は増える一方だろう。迅速に対応せねばならない。

「何日か……だけ時間ください」

 ふむ、と大王は椅子に座ると、

「気にするな、私は今まで通りアナウンスはする。拒否も出撃もその時の気分でいい。ヒーローは犬じゃない」

「……………はい」

 虎氏は深くお辞儀をすると部屋を出た。

「そう、ヒーローは君なんだから」

 白衣のポケットに手を突っ込むと椅子に強く寄り掛かった。

 寝た。


 数日が過ぎた。


 珍しく新しい怪獣の発生はその間見られなかった…まるでヒーローの悩みに合わせるかのように。


 だが平穏も続かない。


 決断の時!


 ヴぃー! ヴぃー! ヴぃー!

{{生かすも殺すもキミシダイだ次須くん、時が来た!}}

「僕はいきますよ……嘘でも! 可能性があるならッ!」

{{りょーかいりょーかい! アンゼル発進どうぞ!}}

INDCT:UN-GELインダクトアンゼル!! いきます!」

 ガンッ! ばっひゅうううううん!

 垂直にはね飛んだ鋼の天使は衝撃を目にした!

「なっ!!!」

 すぐそこをヘリが通ったのだ、よりにもよって自衛隊のだ……

 それは偶然なんかじゃ決してなかった。

 この一瞬で虎氏は理解していた。

「やりやがったか…」


 秘密基地に向けて無数のヴィークルが動き出した。

『作戦開始!』

『作戦開始!!!』

『攻撃班はバラキエルの巣の占拠、他に人間等がいた場合はブリーフィングや作戦通達通り捕縛する。できるだけ施設内のモノは壊すな! しかし、何かあるだろう決して油断するな!』

『陽動班も動きます! いいですね!』

『準備出来次第攻撃を許可する。タイミングはそちらで』

『はい、ではすぐにでも行けます』

『任せると言っている!』

『は! こちらも作戦開始!!』

『作戦開始!』

『ウォーム了解!! ウォーム出撃!』


 ばらばらばらばらばらばらばら………………

 多数の大型ヘリが吊り下げるもの、それは

「ヒト型ロボット兵器!」

{{ここで使うのかよ!}}

「何か知ってるんです?」

{{あぁ、昔教えた技術のジジが、小型核融合炉の設計提供をしたんだ。ジジジ...多分あれの原動力はそれだ!}}

「核ってことか?」

{{まぁそういうことだ、あの融合炉ジジ放射能汚染とかのリスクは少なくできてるが、ジジジ……ジジとまずい!}}

「とりあえず壊さずに倒せと?」

{{……まぁそういうことだ! これ以上ジジ話せん! あいつら入ってきジジジガガ…}}

 マイクの奥でじゃこっ! と音がすると、

{{まぁサヨウナラだ! またあおうぜべいべー!}}

「………………。」

 それ以降コールしてもつながらなかった。

「また会おう…か」

 天使はゆっくりと、巨人のもとへ降り立った。

 同時に相手の大型の決戦兵器も遂に母なる大地へ足をつける。

 巨人は目を開ける。

 シュコォーン…!

 二体の巨人が相対する。

「サーマル情報だと融合炉の前に丈夫なコクピットがある…可哀想に、生贄だよこれじゃあ」


『奴らは死刑囚だ、この為だけに引き抜いて置いた死刑囚…知っても知らなくても、天使は果たしてソレを潰せるかな?』

 兵器開発部の男がしたり顔でメガネを上げる

『趣味の悪いこと…』

 司令室の女性幹部はボソッとそう言うと

『上手く行きますかね?』

『まぁわからん。だが話は聞けるだろう交信を始めるぞ』


『えぇ…こちら廻天自衛隊司令官、石井 修関いしい しゅうせきだ。今まで我が日本国を護ってくれて有難う。だが、貴公はあまりにも未知で危険すぎた。故に情報の開示と投降を求める。』


「……。ソレは出来ない。」

 特製変声装置を通った抑揚だけが残った様な声が司令官に直接送られる。

『では貴公を攻撃する』


 ばらばらばらばらばら、追従していたヘリがぶら下げていた金の槍"タケミカヅチ"と打突用の盾"トリフネ"を受け取ると、

 くぉーん!

 唸るかの如く、ウォームと呼ばれた同じくらいの体躯を持つ巨大人型ロボットは俄に天使の羽を折り潰すために襲いかかった。

 どこか古臭いモデリングのそのロボットは左腕に装備したトリフネで殴り掛かる。

 てっきり槍からだと思っていた虎氏は、以外にも素早く力強い動きも含めて対応が遅れた。

 がううん!

「なぁあっ!」

 咄嗟に出した右前腕の装甲で押さえる、直ぐにウォームは槍を突き刺さんとそのまま振りかぶる!

「頼むッ!」

 ぼごぉッ…ひぃぃぃぃぃん!!

 山を吹っ飛ばして格納庫から剣であるヒューズが飛び上がる。それを左手で掴み、ブレードを展開。時代劇の十手のように細く長いタケミカヅチを挟み、その刺突を逃がす。

 直後、ウォームはまだ動く。

 カメラアイを突如閉じる、同時に近くを飛んでたヘリがトリフネに向かって射撃!

 ばばばばばばばっ!

 ブロック状にくっつけられた爆発反応装甲リアクティブアーマーが点火!

 生まれた炎は容赦無く接していた天使の右腕を焼いた。

「ぐっ!」

全く熱くもないのに虎氏はそううめいた。

爆発の衝撃で取っ組み合い状態がハズれ、煤で右腕が黒く沈んだ巨躯の天使はよろける。

その隙を見逃さずにウォームは姿勢を低くし回し蹴りを決める。

「がぁっ…!」

派手に姿勢が崩れ始める。反重力による復帰を試みるも間に合わない。

「せめて羽だけはッ!!」

ごぉぉぉぉん!!!

上手く羽の損傷は回避出来たようだ…だが、撒き上がった土埃越しに聳える黒鉄クロガネの巨人。

己を示すかのように仁王立ちしたそれは、ゆっくりとその閉じていたカメラアイを再び開き、輝かせる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る