第4話 ロジック

 廻天自衛隊本部総合指令室にて

『はい! では始めます』

 若い士官の一人が伸縮式の指し棒でスクリーンの至る所を示し始めた。

『えー、この謎の巨人…仮称バラキエルの情報をできる限り計測、研究、そして纏めました…えー、バラキエルの内部からは熱エネルギーも確認されましたがそれは微々たるものでした…あれは機械もしくは無機物の生命体で間違いは無いでしょうが、あれだけの…この世界上に存在するすべての物質で照らし合わせても、この質量を動かす為には莫大なエネルギーが必要であるはずです。それと、これを見てください』

 手に持っているリモコンのスイッチを押す。かちっ! ……と操作する音だけが静かな指令室に響く。

『遠距離から特殊放射線カメラで撮影した写真です。』

『黒い…』

 司令官はつぶやく

『そうなんです! 内部が真っ黒で…特に胴体は重力場、ブラックホールでも発生しているのかというほどに漆黒で…』

『これでは内部情報は調べようがありませんね?』

 女性士官がお手上げかと言ったような口ぶりで言う

『でも一つ分かったことがあります…おそらくこのバラキエルの内部では、少なくとも時間が止まっているのではと推測しています』

『時が止まっている?』

『と言ってもアニメや漫画の様にではなく…時間のながれだけがぴったりと止まっています。動きはできるのですが、そこにエネルギーの消費は無い。結局のところ未知数摩訶不思議でおしまいですが…一番に考えられるのは例の漆黒。もしかすればここにブラックホールが確かに発生しており、それを何か別の力で押さえつけている…それしか思いつきません』

 以上です、とお辞儀をすると男性士官は自分の席へと戻った。

『もう少し調べないといけないな』』

 司令官と男性士官は二人で独り言ちた。



「熱核融合炉…奴らめいまさら私の流した研究データを使いだしたか、いつでも頭の固い連中だ」

 そう言うとほおづえを付きながら井門 大王いど たいようはホログラムディスプレイを閉じる。丁度のタイミングで一人部屋に入ってくる

「ドクター? フィードバック終了しました」

 それは塩分濾過済みの三重水素水で作ったコーヒーを片手に現れた次須田 虎氏じすだ こうじだった。

「分かった、あ! そうだそうだそうだそうだ!! できたんだよ遂に!」

「なにが…あっ! もしかして!」

「そうだ、飛び道具がね!」

 ニヤリと笑うと再びホログラムディスプレイを起動、つけっぱなしのPCからファイルを選び、片手で虎氏を手招きで呼ぶ…が


 ビーっ! ビーっ! ビーっ!

 突如サイレンが喚く!


「残念! 今は見せられないようだ! ほら行った行った! 直ぐに実物は見せるよ」

「わかりました…不安ですけど。行ってきます」

 虎氏は走った向かうは白き巨躯の天使!

 リフトアップされコクピットへ飛び込む、起動シークエンスをクリアするとカタパルトまで固定ハンガーが水平移動、筒状の出撃台に移動。その巨大な扉がゆっくり閉じると……

「 INDCT:UN-GELインダクトアンゼル! コウジ行きます!!」

 直ぐにロックは解除され、カウントダウン。

 ファーん、ファーん、ファーん、ピーっ!!!

 キヒュウウウううう───────んっ!

 機体から発せられる衝撃波を全て防壁は受け止め、それを押し戻す!

 その反動により高く撃ちあがった天使はさらに加速、あっという間に成層圏に到達すると

「ハイロゥ安定」

{{おーけージジ…一発かましてどーぞ}}

「りょーかい、任務開始!」

 ぱっひゅうう!!

 瞬時に鋼の天使は音速をトリプルスコアで越え、人類の脅威の元へと翔け始めた。そして光の速さで三重水素水のコーヒー飲み忘れたなと後悔した。



 迎撃対象がいるのは随分とまっ平になってしまった八ヶ岳やつがたけ上空だった。

『相変わらず効かないな?』

『はい、そのようで』

 指令室では随分諦めムードが漂う、そして前線でも先の二戦よりはやる気も抜けた攻撃が行われていた。その理由は…無論、どうせ例の天使が助けてくれるだろう…と言った生ぬるいモノでは無かった。誘導だった。

『目標、エルスティードはゆっくり移動開始、ポイントまで3秒。2、1。セット!』

『撃て!』

『て──────ッ!!!』


 きっ!!


 衛星軌道に位置する強襲静止衛星タケミカヅチ、それから四本のタングステンと色々の最高の超合金の槍が射出。重力に引かれ進むは一直線! 計算しつくされた軌道でそれは浮遊する怪獣、エルスティードへと落ちた。赤熱する槍は質量の3割を削りながらも轟音を立て討つべき脅威へと突き刺さる。

 が、

『ちぃ! 浅いな…』

 続けて二本、三本目が降ったが、二本目は少し刺さったが直ぐに外れるほどにそれは浅く、三本目は空中で超高音の干渉音と共に弾けて大地を砕く。

『天文学的予算うんぬんな槍がこうも簡単に……』

 指令室の中でもその手の兵器を開発している部の代表が頭を抱えながらそう言った。その時だった、

 やはり空から降臨するのは……


「あっぶねぇよ…」

 黄金の槍を片手で持ってゆっくりと怪獣の前へ降下する巨躯の天使、


 バラキエル!!!!

 あらゆる戦士がそう希望の堕天使の名を呼んだ。

『あの槍は!』

 そして指令室の誰かが叫んだ、

 キュコーン! 答えるかのようにそう一言くと、槍をおもむろに構え直すと、

「パニッシュ!」

 キィ───────ッ!!!

 パッヒュウン!

 蒼い稲光を輝かせ怪獣に投げつける、その槍はいとも容易く怪獣を貫く…そう思われた。

 クォオオオン!! やはり高音の干渉音と共にブレてズレる………。

 一瞬この戦場ぶたいの役者は唖然としたが…

「磁場フィールドか…それも鉄以外の金属さえ干渉するほどの強力な!」

 正体を掴んだ虎氏、すると。

{{おーい、天使くん新しい武器よ~♪ジジジジジジ}}

 と一声振り向くと音速で飛来する物体があった。

「あれが!」

 直ぐに理解した虎氏、アンゼルは飛び上がると手を伸ばす。体の周囲を優雅に一周してそれは金属の手元に収まる。

「拳銃……、こういう相手って! 近接武器じゃ! ないのかよっ!」

 とセーフティを滑らかに解除し、ハイロゥとリンク。

 狙いを定め!

 一閃

 ぱっぐぅぅぅん!!

 でたらめにエネルギーを放出し消し飛ばすハンドバスターとは違い、その異形の拳銃”アーティニータ”は余剰で発生し続ける莫大なエネルギーをかき集め、チャージなしで放出する! 

 ハンドバスターよりは減衰されたはずの飛び道具だが、磁場のバリアを砕くのには十分だった。


『目標、エルスティード沈黙』

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