ep9 詐欺師と救世主


「くっ、うわ! 」


 不良は勢いよく吹き飛び、地面に叩きつけられる。 一体何が起きたのだろうか。


「大丈夫か? 」


「藍斗くん! 良かった…… 」


「詐欺師が、なんでここに…… 」


 彼はふっと笑うと、返答は変わらずこう答えた。


「誤解だっていってんだろ 」


「ご、ゴカイってなに……? 」


 事情を知らないみーちゃんだけが首を傾げていた。

 その時だった、視界の右端から青白い光が飛んでくる。 


 危ない!

 

 声が出なかった。 その瞬間に激しい電流の走る音と光が彼を包み込んだ。 横からボロボロになった不良がお腹を押さえて笑っている。


「この電磁警棒はな、改造品で人を殺すこともできる電流を作れるんだぜ! お前みたいな風紀気取りのアホを殺すためのな! 」


 不良は電流を打つのを止めた。 中から現れた黒い物体。 不良はにやりとしてゆっくりとこっちへ近づいてくる。 体はまだ制御が効かない。


「お前らもこうなりたくなかったらおとなし…… 」


「誰がこうなるって? 」


 黒い塊が拳を握り、勢いよく不良の顔面を殴り飛ばす。 その瞬間に血が吹き出す。


「悪いな、手加減はできないように出来てるんだ 」


 砂が風で舞うように黒いものが吹き飛んで中から藍斗が出てくる。 その顔はさっきとは違う殺気を纏った顔だった。


「があぁ! 顔が痛えぇ! 」


「そりゃあ、鉄でできた砂で殴ったんだからな。 簡単に皮膚は切れるし拳は鉄のように硬い 」


「お前なんなんだよ!! 」


 叫ぶ男の顔は真っ赤に腫れ上がり、もはや人間とは思えない顔になっていた。


「さあな、知る必要はない。 その前にお前は死ぬんだから 」


 そう言うと彼は拳を握り、勢いよく振りつける。 その瞬間今まで感じたことのない突風と莫大なエネルギーの存在を感じた。


 拳は不良には当たらなかった。


 彼の拳は不良の顔の十センチほど離れたところにあった。 その先の地面は大きくえぐれており数十センチほどの穴になっていた。 まるでかのような。

 不良は失神していた。


「悪いな、怖がらせちゃって 」


「い、いえ 」


 彼の表情はさっきの腹立たしいほどの優しい顔に戻っていた。 彼はポケットから包帯と薬を取り出し、手慣れた手付きで不良の顔面を手当していく。 そして壁を、背もたれのようにしてそっと立てかけた。


「俺はいつもやり過ぎてしまう、誰かが傷つけられてるのを見るとまるでもうひとりの自分が出てきたかのようにな 」


「はい、やりすぎだと思います 」


 私がそう言うと藍斗はあぁとうなずいた。 実夕はいつの間にか眠ってしまっていた。


「さぁ、寮に帰ろう 」


 ……はい そういったはずなのに声が出なかった。

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