ep7 妹とビル裏

 その瞬間雪和が何かに撃ち出されたかのように走り出す。 その顔は焦りでいっぱいになっていた。 さっきまで俺たちを殺そうとしていた目はどこにもなかった。


――――お兄ちゃんは行かないの?


 また聞こえてきた。 さっき陽菜って言っていた声。 その声を聞くと何処か懐かしく、そして苦しかった。


「あぁ、いかなきゃな 」


 そうつぶやくと俺は雪和の跡を追いかけて走り出した。


 




 お兄ちゃんは私の言葉に反応したように飛び出して行ってしまった。 助けるのはいいけど女の子一人置いていくのはどうかと思うよ。

 

 ――――さーやちゃん、怪我してない?


  「ええ、それよりも能力がエラー起こしたみたいね。 あなたの声が聞こえてるらしいわ 」


 ――――あたしの事思い出しちゃったのかな、こんなこと初めて。


「さあね。 でも私もそろそろ限界が来ていたのよ。 あの時からずっと彼をから 」


 ――――なんとしてでも3年間は隠し通してほしいね、思い出しちゃったらきっとさーやちゃんを傷つけちゃうから。


「私は…… あいつに二度とあんな思いをしてほしくないから 」


 さーやちゃんは、座ったままお兄ちゃんの走っていった方向を見つめていた。 私はその横にちょこんと座る。




 追いかけたものの、雪和を見失ってしまったみたいだ。 たしかこのビル裏に入っていったような気がしたんだが…… ビル裏は少し狭くて人二人通れて限界ってところだ。

 後ろからガサガサと音がして振り向くと大柄な大学生くらいの歳の男が立っていた。


「にーちゃん、こんなところで迷子か? 」


 ニタニタと笑うその顔は嫌悪感を漂わせていた。 黙って顔をギロリと睨みつけた。


「なんだ、その態度は。 黙っているつもりならサンドバックにしちまうぜええ! 」


 ものすごいスピードで岩とも思える拳が飛んでくる。 だが、所詮能力も込められていないただの拳。


「悪いが急いでいるんだ 」


 飛んできた腕を掴んで同じ力の向いている方向へ投げる。 その時に相手の脛を思い切り蹴る。 バランスを崩した男は顔から地面に突っ込んだ。


「こ、こんのやろう! 絶対殺してやる、ってどこいきやがった?! 」


 残念だったな、時すでに遅し俺は能力を使って屋根の上だ。 結構高いビルだったから屋上に間に合うか心配だったが、杞憂だったようだ。 

 屋上であれば声が聞こえてもわかるだろうと高を括っていたが、思ったより何も見えない。 下に降りたらまた他の不良に絡まれる心配もある。


「さてどうやって探すかな 」


――――……けて 助けて!

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