第16話

 ◇◇◇


 ジーと少し不快な音を鳴らしながら、眼前の何十とある液晶モニターは光りを発していた。

 モニターに映るのは涙を浮かべながら逃げ惑うプレイヤーや、勇敢にも化け物に戦いを挑んで敗れていくプレイヤーたち。

 この島の監視カメラは何十台もあるのでいちいち全部の映像に目が回らない。


「はぁ」


 ひとつため息をついて傍らに置いてあったクリームソーダを口にする。


「うわ、アイス溶けてる」


 提供されたときはメロンソーダの上で丸く存在感を放っていたバニラアイスは溶けて形を歪ませ、メロンソーダの緑色に混ざり合い始めていた。


 最初こそ愉快でしかなかったプレイヤーたちの死だったが、次第にプレイヤーたちも状況を呑み込み始め、賢明な者は無理な戦いなどせずに隠れ回っていた。おかげでプレイヤーの減りは滞っていしまっている。


「調子はどうですか?」


 ウィン、と音を立てて扉が開く。そこには初老の男性が立っていて、モニターから響く悲鳴にも顔色一つ変えずにそう尋ねてきた。


「うーん、まぁ、初めてにしてはいい方なんじゃない? 思ったよりもプレイヤーあいつらしぶといから驚いちゃったけど、おかげでゴミの片付けが捗ってるよ」


 少年はクリームソーダをもう一度机に置き直すと、頬杖をついてそう返した。

 このデスゲームの開催には二つの思惑がある。そのうちの一つはプレイヤーたちにも言った、化け物の殲滅。


 少年に、いやこのデスゲームを開催した側の人間にとって化け物はゴミだった。捨てようにも捨てることができない。だからといって殺すには量が増えすぎた不燃ゴミ。いや、正式には燃やせるだろうが、そんなことをしたらこの施設にまでダメージがいってしまう。だからプレイヤーに掃除をしてもらおうと考えたのだ。


 正直なところ、少年たちでさえ化け物の知性や性能は理解しきれていなかった。だが、その少年たちよりもはるかに情報を持っていないプレイヤーは思いのほか健闘し、徐々に化け物の数を減らしてくれていっている。

 これは思わぬ誤算だった。


「嬉しいような、悲しいような」

「おやつにスコーンを持ってきましたよ。休憩と致しましょう。ずっとモニターばかり見ているのはお身体に障りますぞ」


 ううんと唸り声を上げた少年だったが、初老の男性にそう言われて目を輝かせて振り向いた。


「やったー! 僕の好きなジャムは?」

「もちろんご用意しております」


 声を弾ませておやつを受け取るとお手製のジャムにスコーンをつけて口に運ぶ。


「んん、おいしー!」


 幸せそうな表情を浮かべて少年はスコーンを頬張る。そして急にハッとした顔をして、


「そうだ、いいこと考えた!」


 きらきらの笑顔でそう言うと男性になにかを告げ、またスコーンに手を伸ばした。


 ◇◇◇

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