第5話 春の焼け跡



みんな、生まれた時の記憶、ある?


俺はあるんだよね。


小3の春。


え?遅いって?しゃーないしゃーない。

俺が生まれたの、その瞬間だから。


あのね、春休み暇でしょーってんで母親にお小遣いをもらって本屋に行ったのね。

もう、めんどいし手前にあるやつ取って帰ろーと思ってたわけ。


でも、急にビリビリビリーって来た。

落雷かと思ったけどそうじゃなかったんだよ。


ポップっつーの?

あれに描かれてたイラストにびびびっと来たんだよね~。

で、その瞬間に「あ、俺いま生まれたな」って思ったの。

ずっと焼きついて離れない、鮮烈すぎる記憶。


それからずっと追いかけてたんだよ。

なにを?トーマさんを。

8つ上のトーマさんを、当時本屋でバイトしてた16歳のトーマさんを、俺はずーっと追いかけてたわけ。


もちろんSNSのアカウントも知ってるしデザイナーの名義もアカウントも知ってるし翻訳家をやってることも知ってるしトラウマの原因も知ってる。


だから、殺してあげようと思ったんだよね。


誰をって、そりゃトーマさんを殺したやつでしょ。

トーマさんを殺したんだから自分が殺されたって文句は言えないし。


トーマさんを?殺すわけないないないない。

ありえんでしょ。トーマさんだぜ?ないに決まってるだろ。


不安を殺して、トーマさんを取り戻すんだよ。


だからさ、まったくおんなじことをし返してやろうと思って。


トーマさんがされたことを相手にそっくりそのまま返して、その後普通に殺す。


面白いのがここからでさ、相手普通にイベントとか出てんのね。

行動範囲とか割れてんのね。大体の情報を特定できてんのね。

わかった?そうだよな、後は殺すだけだよな。


あれだけ自己顕示欲と承認欲求と怠惰さを持ち合わせた人間、そういねぇよ。

ある意味扱いやすいけど。


トーマさんの精神状態を管理しつつ、相手には最高のタイミングで最悪の事態に陥ってもらうんで、今は束の間の幸福感というぬるま湯に浸かっててもらおっか。


俺はトーマさんが元気になってくれればそれでいいんだ。

推しが元気だとみんな嬉しいじゃん?そうだよな?

だから俺はトーマさんを管理するんだ。


あの人いまホントに危険な状態だから。


聞いてほしくないなら訊かないよ。

言いたくないなら言わなくていいよ。

でも俺はトーマさんのこと誰よりわかってるつもりだから。

一生全力で寄りかかったっていいんだよ。



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