再び相見えよう

「いっ……いやあああああああああッ!!」


 沢村が首を手折られた光景に叫び、眼を背ける。勇者たちの反応は忌避一色であり、外とは違う騒乱に落ちる。


 物言わぬ肉塊と化し崩れ落ちる沢村の姿に、画面の向こうや想像の出来事であった『死』を身近に感じた勇者たちは、叫んだ女子生徒を筆頭にその場にへたり込む。

 逃げ出そうにも、動いた瞬間にその矛先が自分に向くのではないかという恐怖で竦んでしまう。


「あ゛……あぁ」


 ぐりんッ。

 可動域を無視した動きで獲物を探すアイロン伯爵。

 その視界が捉えたのは、沢村の後ろで茫然と事態を見ていた女子生徒。


 氷華だ。


「っ!? ヒョーカッ!」


 突如行われた凶行に時を忘れていたアーシャは、咄嗟に名前を叫ぶ。

 伸ばされたアイロン伯爵の手は氷華の間近に迫り、もうすでに届く距離ではない。


 反応が遅れた氷華は、一瞬の逡巡の末に魔法を選択する。

 氷魔法の発動。それすなわち氷華自身の身体能力を上げる術だ。


 氷華に備わった異能、【銀星の寵姫】。

 氷に覆われた環境での戦闘時、魔力、身体能力上昇。

 自動回避機構、自動迎撃機構付与。


 これらを発動させるためには、周囲を氷魔法で覆うことが絶対条件。

 絶大な効果を発揮するそれは、急展開にはあまりに弱い。

 魔法を発動しなければならない性質上必ず生まれるラグが、この状況では命取りだ。


「日崎ッ!」


「ヒョーカッ!」


 勇者たちとアーシャが必死に叫ぶ眼前で、氷華の首にその手が巻き付く――――寸前。

 ―――伯爵家が、冷気に包まれ、凍結する。


「―――――ッ!」


 突如凍結した床を滑るように移動した氷華は、自動回避機構によって難を逃れる。

 さらに自動迎撃機構によって彼女の周りに浮遊する氷の礫が、すれ違いざまにアイロン伯爵の身体を撃つ。


「うああ゛ああっ……ぐブ……っ」


 力なく呻いたアイロン伯爵は口からゲルのような異物を吐き出し、その場にくずおれた。


「だ、旦那様ぁッ!」


「メタル様!」


 筆頭使用人や侍女が倒れた当主に駆け寄り、その体を抱き起す。先ほどと同じく苦し気に呻く……が、顔に血色が戻り、規則正しく呼吸もできている。

 アーシャはその光景に見覚えがあった。


 悪魔が人間にとり憑く際、自分の魔力を人間の身体に注ぐことがある。

 今、アイロン伯爵が吐き出したそれが、まさに元凶。


「はあぁあっ!」


 考える間もなく剣を抜き放ったアーシャは一息に間合いを詰め、それが動き出す前に半透明のゲルの中に浮かぶ球体の核を穿つ。

 抗うようにぶるぶると震えたゲルは、ほどなくしてその動きを止めた。


 沢村の死から始まった混乱は、唐突に訪れた冷気によって一瞬で終息する。


「さ、沢村が……」


「ま、まじで……死んだのか……?」


「なに驚いてんだよ……それを承知で勇者として生きてくっていったんじゃんか」


「……今日、ご飯食べられないよこれ」


 無惨な沢村の死体に近づく者はいない。

 だが、あまり仲の良くない人間と言えども、クラスメイトという身近な人間の死は彼らに多かれ少なかれ心の機微を生んだ。


「お、王女殿下っ……ご当主様の勇者様への凶行。誠にっ、誠に申し訳なくっ……」


 涙ながらに地に頭を擦りつける勢いで頭を下げる老体の使用人に、アーシャは小さく首を振る。


「頭をお上げください。伯爵の口から飛び出た異物は、悪魔の支配下にあった証。かの凶行も、悪魔による仕業に違いありません。穏当な処置を施せることでしょう」


「ああッ! ありがたく……!」


 感極まった使用人は、数名の使用人と共にアイロン伯爵を奥の部屋に連れていく。

 

 その姿から早々に目を離したアーシャは、外から聞こえる騒音や悲鳴に顔を歪める。

 ちょうど沢村の首が折られた瞬間から聞こえているそれらは、ガギウルを何か得体のしれない者が襲った証拠。

 そしてそれは、悪魔関連である可能性が高い。


 しかし、


「氷魔法……」


 氷華のものではないそれに、アーシャは苦々しく呟く。

 歴史上、その魔法を使う者は多くない。氷華を除き、これを操る人物に該当する者は、一人しかいない。


(屍王……っ!)


 今にも館を飛び出したい衝動に駆られたアーシャは断腸の思いで踏み止まる。

 戸惑う勇者たちを置いて、自分がこの場を離れるわけにはいかない。離れるにしても、まず……。


「皆様、お立ちください! 無理を言っているのは百も承知ですが、皆様を二の舞にするわけには参りません!」


 へたり込んだ勇者たちに毅然と声をかけたアーシャは、傍にいた侍女に「勇者様方を匿える部屋はありますか?」と質問する。


「え、ええ! こちらです!」


「ありがとうございます。皆様、彼女について避難を!」


 侍女を筆頭に慌てて足を動かし始めた勇者たちに安堵の息を漏らす。


(勇者様とは言え、異界の方々。まだ十全に戦える状態にはありません)


 不気味に凍った館内を眺めながら、アーシャは忸怩たる思いに胸を痛める。

 足下に転がる沢村の死体に祈りながら、痛まし気に目を伏せた。


 侍女が持ってきた布で沢村が隠され、勇者たちの避難が完全に完了する。

 腰に携えた剣の柄を確かめるように握り締めると、息を深く吐いた。


「街へ、行かなくては」


 先ほどよりも激しさを増した音に嫌な予感を覚えながら、アーシャは館の扉を開こうとドアノブに手をかけた。


「――――アーシャ王女。私も、連れて行ってください」


「ヒョーカ……?」


 突然の声に振り返ると、そこには避難したはずの氷華の姿。

 その眼は、いつもの何事にも興味が希薄な無感情ではなく、確かな衝動によって動いてることが分かる熱を湛えていた。


「ひ、日崎! 何してるんだ、戻れ!」


 氷華は自分を追ってきたクラスメイトの川崎の声に反応を示さず、冷徹なまでにアーシャを見据え続ける。

 アーシャも川崎と同様に戻るように促そうとするが、確固たる意志を内包する視線に貫かれ、声にならない声を上げた。


 沈黙。

 こうしてる間にも恐らく犠牲者が出てしまう。 

 迷っている時間はない。


 それに、氷華ならば……。そんな感情に巻かれたアーシャは力強く頷いた。


「危険は冒さないと、お約束ください」


「時と場合に依ります」


「……はぁ……わかりました。ついてきてください、ヒョーカ。カワサキ様は皆様のところへお戻りください」


「えっ!?」


 川崎の声を背後に受けた二人は、館を飛び出す。


 そこに広がる光景に、言葉は出なかった。

 ガギウルの大木を目印に走りながら、豹変した銀世界に呼吸を白く染める。


 そして、


『シ、屍王オオオオオオオオオオッ!!』


 断末魔の如き咆哮が、二人の鼓膜を叩く。


「あれはッ!?」


「……あれが……悪魔」


 ガギウルの大木の隣で身体を膨張させる巨人。それはまごうことなき上級悪魔グレーターデーモンだ。


「まさか……上級悪魔グレーターデーモンだなんて……」


 予想以上に逼迫した事態に足を速めたアーシャの内心は、余裕で横を走り続ける氷華に頼もしさを感じる半面、不安が過る。


(いざとなったら……氷華だけでも……)


 そう、悲壮な覚悟を固めた次の瞬間。


『――――――ォォォォオオオオオオオオッ!!』


 ガギウルを囲むように方々から起こった大歓声が、鉄鋼都市を揺らす。


 何事かと視線を上げた二人が見たのは―――――


「――――つ、ぶ、れ、ろッッ!! 覇槌ブラストオオオオオオオオオオオ!!」


 燦然と輝く鈍色の鉄槌。

 何かを叫ぶ悪魔の一切を潰し、破滅させる理外の一撃。


 身体の芯にまで響くような鈍重な破砕音を響かせるその一撃は、明らかな過剰火力。知識のないものであっても、悪魔が耐えられるものではないことは火を見るより明らかだ。


 衝撃の余波で物理的に都市を揺らしたそれは、予想通り巨人を圧砕した。


「……あれは……アイレナ様……?」


 止まりそうになる足を懸命に動かしながら、混乱する脳内で今の光景が反芻される。


「……………………っ」


 そんなアーシャとは違い、氷華が反応するのは今の光景ではない。


 屍王。


 その言葉に眼を見開いて、自ずと足を速めていった。




■     ■     ■     ■





「はぁ……はぁ……っ」


 土煙が冷気に晒され、キラキラと発光する。。

 盛大に埋没した都市の地面の中央で、レナちゃんは肩で息をしていた。


「うわぁ……すっごいな、やっぱり」


「な、なんで……はぁ…んたが引いてんのよ……はぁ……」


「予想以上でさ。やっぱりすごいね、レナちゃん」


「……ったく、調子いいんだから」


 そっけなく返ってくる言葉に確かな喜色が含まれてることに気付かないふりをしながら、ビフロンスの残した素材に目をやる。


 悪魔の素材は、いわば心臓。

 悪魔の身体を構成する魔力の貯蔵庫として存在し、身体が無くなった後も残り続けることから、その強固さは推して知るべしだ。


 だが、ビフロンスの残した素材は……。


「ボロボロだな……継ぎ接ぎだらけだ」


 元はキューブ状のものだったことが窺える外見は、角が削れたり欠けていたりと散々な有様だった。

 

 昔、俺がビフロンスを殺した時、その素材は無くなっていた。

 一緒にいたグラシャラボラスの素材で武具を造っているのに、ビフロンスの素材はどこかに消えていたのだ。


「人為的に復活した……誰が……」


「どうしたのよ……?」


 いつになく真剣な声音だったのか、レナちゃんが息を整えながら怪訝に俺の顔を覗きこんだ。


「いや……なんでもないよ」


 レナちゃんは、飄々と質問を躱す俺に不満そうに頬を膨らせるが、ほどなくして仕方なさげに笑った。


 事態の終息を見せたガギウルを眺めながら、氷魔法を解除する。

 魔力の粒子に変化していく氷は、銀の星のように都市を包む。もう少しすれば街は元通り。壊れたのは仕方ないけど……まあ、それは悪魔のせいだし、倒すの手伝ったってことで。


「それにしても……」


 ガギウルの大木。

 その太い幹に付いた亀裂。その亀裂から漏れる膨大な魔力は、地に還元され、領内の不作すら解決できる濃度だ。


 悪魔が信奉していた苗木。

 前に俺が埋めた時には、ただの魔力の籠った木でしかなかった。

 いくら弄ろうともうんともすんとも言わず、なんの反応も見せはしなかったはずだ。


 明らかに、変容していた。

 当然だ。悪魔の触媒になるようなものを俺が捨てるわけない。仮にそうだったとしたら破壊するか、利用してる。

 今は前の姿に戻り、無害で豊かな魔力に富んだ大木に戻っている。


 謎が多すぎる……。

 俺がいない間にこの世界で起こった異常。その根は、予想以上に深そうだ。


「―――――ねえ! 聞いてる!?」


「あ、ごめん。考え事してた」


「もうっ!」


 腕を振って怒気をアピールしたレナちゃんは、「んっ!」と手を差し出した。

 その手の上には、ビフロンスの素材が乗っていた。


「ほら、受け取りなさいよ!」


「え、なんで?」


「なんでって……こんなの、あんたが倒したみたいなもんでしょ! そこまで図々しくないわよ!」


「剣抜いた功績買ったくせに?」


「あれは交渉っ!」

 

「茶化すな!」と打てば響く反応をしてくれるレナちゃんを弄りながら、俺は首を振った。


「とどめ刺したのはレナちゃんなんだし、実際倒したのはレナちゃんなんだから。レナちゃんのだよ、それ」


「で、でもっ」


「あ、じゃあこうしよう。どうせうちのやつらが多かれ少なかれ街壊してると思うから、そのお詫びってことで。上級悪魔グレーターデーモンの素材ってめっちゃ高く売れるからさ、修繕費にしたってお釣り来ると思うよ」


「あ、ああ言えばこう言うわね、あんた……」


 渋々素材を受け取ったレナちゃんは、今もなお続く歓声に戸惑うように街を見渡す。


「ね、ねぇ……あんた、この街にはあとどのくらいいるの?」


「ん? ああ、もう行くよ」


「ぁ……は?」


 何言ってんのコイツ、みたいな顔で俺を見るレナちゃん。

 すると、


「王ぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」


 空から降ってきたニドが、バッ!っと傍で静観していたニヴルを睨む。


「まったく、油断も隙もないのだ! 点数稼ぎに注力しおってからに!」


「遅かったですね、駄竜。点数稼ぎ大いに結構。屍王の役に立つことこそ我が本懐です」


「ぐぬぬ……っ」


 悔し気に唸るニドの後ろから、ガルムを背負ったグルバが槌を片手に姿を現す。


「王! お疲れ~!」


「相も変わらず無茶苦茶するのぅ、若よ」


「二人もお疲れ」


 互いを労い合う俺達の姿に、レナちゃんは心細そうに声を震わせる。


「も、もう行っちゃうの?」


 その表情には、これからへの不安や、自分に掛かる責務への怯えが見て取れる。


 でも残念だけど、ここからは俺の領分じゃない。この街が求めてるのは俺じゃない。


「嬢よ」


「……は、はいっ」


 どう伝えようか迷っていると、グルバがレナちゃんへ視線を合わせるように屈んだ。

 優し気な雰囲気にわずかに緊張しながら、レナちゃんはグルバの言葉を待っている。


「……この歓声が聞こえるか?」


 グルバが示すのは、今も街の方々から聞こえてくる歓喜の声々。

 レナちゃんが頷くと、グルバは鼻を鳴らす。


「人間とは、先導者を求める生き物。そしてそれは、強き者でなくてはならない。そうでなければ、人は簡単に意見を変え、裏切るものだ。ガギウルはその象徴にワシを置いた。だが―――――今、それは誰に変わったのか」


 喉を鳴らしたレナちゃんは、燃えるようなグルバの瞳に目を合わせる。


「鍛冶神として祀り上げられ金をせびるだけだったワシか、勇敢に立ち向かい上級悪魔グレーターデーモンを討滅せしめた、領主の娘たる嬢か。……考えるまでもあるまい」


 止むことの無い歓声を注がれるのは、アイレナ・ウィル・アイロン、ただ一人。

 

 重荷かもしれない、重責に違いないだろう。

 だが、自分の家を救おうと俺から剣を抜いた功績を買った時点で、彼女が目指した場所はここに違いない。


 功績や実績には、相応の期待と責務が圧し掛かる。

 彼女が歩く道は、一歩踏み外せば奈落の道。


 俺なんかにはわからない、貴族や領主の覇道なのだろう。


「案ずるな。グリフィルの御旗を掲げた馬車がガギウルに来ているそうだ。王族も乗っているであろう。そして、嬢の雄姿はこの街の誰もが見ている。きっと、その全てが力になるはずだ」


 最後にレナちゃんの鈍色の髪を撫でつけたグルバは、槌を担いで俺の横に立つ。


「レナちゃん。これ、返すね」


 俺が手渡したグルバの剣を受け取ったレナちゃんは、やはり重そうに、それでも大切そうにそれを握りしめる。


「同じようなこと言ったけどさ、もう一回言っとくよ。俺達のお膳立ては確かにあった。でも、そうでなくても、きっと君は同じようにあの悪魔に立ち向かったと思うよ。ただその前に、君の努力が俺を見つけただけ。君の異能でビフロンスを倒したのも事実だし、君の行動が結果を伴って住民に届いたのも、れっきとした事実だ。無駄に卑下されると、俺の見る目を卑下されたみたいでちょっと気分良くない」


「そんなに買ってもらえるようなこと……した覚えないんだけど……」


「それでいい。君がした努力の一端が、俺に引っ掛かった。そんなんでいいんだよ。俺達ヘルヘイムもそんな感じで集まった奴らだからさ」


 ガギウルの大木の根元に集まった俺達は、レナちゃんと対面する形で立ち会う。


 二日も経たない出会いと別れだというのに、レナちゃんは今にも泣きそうに俺を見た。


「ニヴル」


「はっ」


 短く返事をしたニヴルが魔力を発露させた。

 もうすぐ転移テレポートが発動する。


 まあ、少し安心させてあげるか。


「君のお父さん、話を聞いた感じ多分ビフロンスに操られてただけだと思うからさ。もうすぐちゃんと目を覚ますんじゃないかな」


「そ、そうなのっ?」


「ああ、だからそんな泣きそうな顔しないで」


「う、うっさいわね!」


 涙を拭いながら声を荒げるレナちゃんに、なぜかグルバが笑う。


「朗報だ、嬢よ。我らが王はこう見えてかなりの世話焼きなのでな、当分はガギウルのことが頭から離れないだろうよ。危機になったら何かと理由を付けて寄ろうとするだろう……のう、若よ?」


「しねえよ、そこまでお人好しじゃない」


 俺がそう言うと、俺以外の全員が含み笑いをしやがった。

 もういいよ、それで……。


「屍王、そろそろ」


 ニヴルの言葉で、タイムリミットを悟る。


 じゃあ、別れの挨拶だな。


「レナちゃん。俺達の名前は自分から口にしないで欲しい。ヘルヘイムって何かと話題だから、悪印象を持つ奴も多いだろうから……塩梅は君に任せるけど」


「……今回のことで自然と広まるでしょうから、それに任せるわ。わざわざ言及しない……これでいい?」


「流石」


 俺の言葉に「ふん」と嬉しそうに鼻を鳴らしたレナちゃん。

 あとは時勢に任せよう。


 んじゃ、ちらほらと目を集めているであろうこの場所で、『屍王』を演じるとしますか……。


 三日は起き上がれないなぁ、多分。

 でも、気づく奴は必ずいるし、宣伝大事だしな。




「―――――ガギウルの英雄、アイレナ・ウィル・アイロン……鉄色の少女よ。鉄鋼の街を救いし鉄の乙女よ。屍王と肩を並べた勇傑として、我らの記憶に刻まれた。此度のえにしを楔とし、再び相見あいまみえよう。――――――またね、レナちゃん。強くなったら、今度は一緒に旅でもしよう」


 

 俺達を包む光が強くなると、周りから音が消える。

 見送るレナちゃんの口が小さく動く。


 あ、確実に「ばか」って言ったな。


 確かにばかだよ! 

 急にこんな尊大な喋り方しだしていろいろ言うのはそりゃばかだよ!


 やめようやめようとするのに、俺に眠る厨二心が「カッコいい!」と叫ぶのだ。

 広まるのは嫌だけどやりたい! 

 そんな矛盾を孕んだ自傷行為にも等しい。


 だったら振り切って言ってしまうのだ。



「――――ヘルヘイム、帰還する」


『はっ』



 最後に見たレナちゃんの顔は、涙ながらの見惚れるほどの笑顔だった。





■     ■     ■     ■






 ガギウルの大木の根元。

 灰色の衣の一団が、光に包まれている。


 アーシャが目にしたのは、涙を流すアイレナの姿と、いつか見た出で立ち。


 間違うはずがない。


「――――屍王ッ!!」


 アーシャの叫びが届く直前、その姿は消えていた。


 残ったのは、所々が崩れた街と、泣き続ける少女。


 アーシャは悔し気に拳を握り、氷華を振り返る。


「ヒ、ヒョーカ?」


 普段感情の起伏が少ない氷華の顔は、混乱と驚愕に濡れていた。




「――――に、兄さん…………?」



 その呟きは、鉄の街に冷たく落ちた。





――――――――――――――――――――――


 次回、少しの小話を挟んでプロローグ的なの終了になります


 ここまで拙作に目を通していただきありがとうございました。

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