第40話 動向
「神の使いが加勢し始めた?」
「はい。どうやら西の方に攻め入っていたアストゥールの軍に加勢したようで、劇的な強さを見せております。今のところジキルが善戦してはおりますが時間の問題かと」
今、俺とアリスは魔王のためにあしらわれた二つの玉座へとそれぞれ腰かけてグレイルからの話を聞いている。ジキルというのは元魔王候補のうちの一人で、俺達が魔王になったことにより魔族側の四天王、通称『魔天』として任命した。
『魔天』のメンバーは槍使いのファフニールを筆頭に磁力使いのジキル、死神のダグローズ、そして拳聖のリューズの四人だ。順に広大な国のゾルドレインの北、西、東、南を治めている。
アストゥール王国及びその連合国はゾルドレインの西側に位置しているためそこが守備の要となるのだ。
「神の使いが現れたのであれば戦力的にファフニールを送らねば不味いか?」
「いや、その必要はない」
アリスの意見を俺が止める。同郷の失態は俺が拭う気でいたからである。
「俺が出る。奴等の中に知っている奴がいるからな」
「魔王自らがか?」
「俺が討ち取られてもアリスが居れば問題はない。てことで俺が出向くよ」
「フフッ、ライトが葬られる? そんな相手は居らんだろ」
そうして俺は玉座の間を後にするのであった。
♢
「私の名は四人いる魔王様の側近、魔天が一人ジキルである。これ以上の暴挙は私が許さない」
「ああ? 暴挙だぁ? てめえら魔族が人間を襲ってんだろ?」
「鷺山さんの言うとおりだ! 自分たちがやり返されたからっていきなり被害者面するなんてだせえぜ!」
ジキルの言葉に鷺山が噛みつく。その隣には鷺山のいつもの子分が二人ついている。
「俺の神力は今、2540万だ。魔天だぁ? 魔王でもねえ奴が俺様に勝てるとでも思ってんのか?」
「やってみなければ分からないだろう」
その瞬間、ジキルは手のひら大の一つの黒いボックスを取り出す。ブウンッという音がしてそのボックスが宙に浮いた瞬間、地面から出てきた黒い粉がジキルの周囲に漂い始める。それはジキルの力によって吸い上げられた砂鉄であった。
「マグネットガン」
ジキルの前に集まった砂鉄がくっつき始め、それが無数に打ち出されていく。その一つ一つが岩をも砕くほどに強力な一撃で、それが磁力による精密な操作によって鷺山へと集弾される。
「いきなり攻撃かよ! やっぱ魔族って感じだなぁ、おい!」
無数に打ち出された砂鉄の弾をその瞬発力で華麗に避けていく。しかし、鷺山の子分たちにそれを避ける能力はない。無残にも打ち出された砂鉄の弾で体を貫かれ、子分の二人はその場へと蹲ってしまう。
「うわあああ! いってえええ!」
「さ、鷺山さん! た、助けてください!」
「うるせえ! 何でもかんでも俺に頼るんじゃねえ! 自分で何とかしやがれ!」
「そ、そんなぁ」
そんな鷺山の姿を子分たちは見たことが無かった。いつもならば仕方ねえなと言いながら自分たちの事を助けてくれていたのだ。それで子分たちの命も救われ、鷺山の自尊心も満たされる。
しかし今回ばかりは鷺山も助ける余裕がなかった。なぜなら相手が強すぎたから。最初は余裕ぶっていた鷺山もジキルがアルムを取り出した瞬間に纏った気配で相手が格上であることを悟ったのである。
「ちっ、楯にも使えねえのかよ」
体を撃ち抜かれて地に伏している自身のクラスメートたちを見てそう愚痴をこぼす。
「そいつらはお前の仲間じゃないのか? いやに早く見限るんだな」
「うるせえ! おめえが殺したんだろうがよ!」
「私はあくまで襲ってきた相手に反撃をしているのみ。命を奪っておいて反撃されないなんてそんな話があるわけがないだろう?」
次々と生み出される砂鉄の弾は徐々に集中力が切れていく鷺山の身体を掠めていく。その度に鷺山の全身に激痛が走るのであった。
「おいおい、神力2000万もありゃあ魔王以外なら倒せんじゃねえのかよ。話が違え」
鷺山がリズワールから聞かされていた話では神力5000万以上に値する伝説級のアルムを持つ魔族など魔王しかいないと聞いていた。なのに目の前の存在は魔王ではないのに明らかに伝説級程のアルムを使っているのだ。
「それはいつの時代の話だ? 魔天のアルムはすべて伝説級以上だぞ?」
「は? そんなの勝てるわけ」
その時、ジキルの言葉に油断した鷺山のふくらはぎに砂鉄の弾が当たる。身体強化Ⅳを持っている彼の足は岩よりも強靭なため、貫かれはしないがそれによって鷺山の体勢が崩れる。
「や、やべ」
「大丈夫か亮太!」
その時、遠くの方から眩い程の光の斬撃が飛んできて鷺山へ襲い掛かってきた砂鉄の弾がすべて消し飛ぶ。
「これが噂の勇者の力か」
そこにはユニークスキル『勇者』の力を纏った翡翠流星の姿があるのであった。
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