第38話 魔王の試合

 アリスがファフニールを圧倒してから数日が経過した。俺とアリスの試合をアリスの城にある闘技場で行うと魔界中で呼びかけた結果、闘技場内にある観客席は一杯になる。


 魔族だけではなくその中には確かに俺と同じ種族である人間もいた。本当に人間でも魔族と仲の良い奴はいるんだな、と思いつつもこれだけの人数を呼んだアリスを恨みたくなる。


「おいアリス。なんだこの観客の数は」


「魔王誕生の瞬間なのだ。これだけ人が集まるのは当然の事だろう?」


 ファフニールも観客席の一番前列に座っている。ファフニールはアリスに圧倒されて以降、魔王の座を退いたらしい。ファフニールの横には親し気に会話をする狼の姿をした魔族が居る。恐らくあの魔族も魔王候補の一人だったのだろう。


「だがこれで戦ってどうやって二人が魔王だって証明するんだ?」


「やってみれば分かる」


 いや、やってみても分からないと思うのですが。そう思っていると闘技場内にザザッとマイクの入る音が聞こえる。


『えー、ただいまよりアリスフォードVSライトの試合を始めます。会場に居る皆様には事前にお伝えしました通りこの二人が今代の魔王様となります。しかと目に焼き付けるように』


 こんな上から目線のアナウンス聞いたことねえ。ていうかこの声、グレイルだよな? どこから喋ってるんだ?


 ピーッという音が鳴り響き、突然ステージの端っこから透明な膜のようなものが張り巡らされていき、やがてステージを取り囲む透明なドームが出来上がる。


「これは我が城の誇る結界じゃ。観客席に被害がいかぬように一応しておかなくてはな」


「なるほどね」


 相手はアリス。つまり俺が今まで戦った中で一番強い相手だ。そんな相手と戦うのだから当然観客席に飛ばないように気を付けながら戦うのは無理な話だ。だからこその結界。これで思う存分やれるってことだな。


「この結界は本来であれば壊れるわけがないのだが、それでも一応攻撃を当てぬように注意しておいてくれ」


「どうしてだ?」


「お主なら容易に壊しそうでならないからな。まあ何個でも作り出せるからあくまで注意くらいなものじゃ」


「俺はアリス程強力な技を使えるわけでもないから壊すことはないと思うけどな。まあ分かった。一応気を付けておく」


 そう言うと俺は腰に差しているアルムを取り出す。その瞬間、少し観客席の方がざわつく。


「何だあのアルム? 刃が無いぞ」


「あんなのでどうやって戦うって言うんだ?」


 そんな声が俺の耳まで届いてくる。そういやそんなことを言われた時代もあったな。


 気にせず俺は収納から魔王シリーズ『魔王カイザー・ウラヌス』の宝玉を取り出す。攻撃力のあるアリスと戦うのであれば俺が出せる瞬間最強威力のこいつで戦うのが無難だ。


「よし行くぞ!」


「うむ! 妾もだ!」


 鬼神へと変貌したアリスがこちらに金棒を構える。


 そして両者同時にステージ中央に向かって走り出す。片方は金色の刃を携えて、もう片方は絶大な破壊力を持った金棒を携えて。その勝負が始まるのはまさに一瞬の出来事であった。


 ステージ中央でアリスのアルムと俺のアルムが交差した瞬間、ものすごい衝撃波が発生する。その刹那二人を中心とした大きな地震が会場全体を襲う。


「うわ! なんだこの地震!」


「び、ビックリしたぁ」


 観客からそんな言葉が聞こえてくるが今の俺に力を制御する余裕はない。一振り、二振りと剣と金棒を交差させていく。そのたびに巨大地震が会場中を襲う。


「流石はライトじゃ。妾の一撃をくらってもなお倒れぬとは」


「いや全然きついけどな」


 正直、打ち合うたびに掌の皮がむけそうになるほどに痛みが走る。やはりアリスに対して真っ向からの勝負は俺に不利だ。ならば。


「王の息吹」


 全てを穿つ金色のブレスを至近距離で放つ。しかし、それもすさまじい反射神経によってアリスの金棒に阻まれてしまう。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ」


 勢いよく襲い掛かる金色のブレスは金棒を盾にしたアリスの身体を徐々に押し出していく。その隙をついて俺が斬りかかろうとすると、前方から見たことのある漆黒の闇が生み出される。アリスの持つユニークスキル『暗黒魔法』である。


 暗黒がすべてを飲みつくさんと迫りくる。こいつの厄介なところは実体がないから物理攻撃が一切効かないことだ。


 俺は魔王カイザー・ウラヌスの宝玉を取り外し、魔王ソルの宝玉を装着する。その瞬間、金色に光り輝いていた刃が明るい赤色の刃へと変貌する。


「王の破壊」


 小さな太陽が暗黒魔法へと打ち出され、絶大な衝撃を生み出す。その衝撃波はやはり会場全体を揺るがすほどの巨大な地震を生み出す。


「うわあああ!!!! 逃げろー!!!!」


「誰か! 早くあの二人の戦いを止めてくれ! こっちが死んじまう!」


「いや無理だろあんなの!」


 なんか悲鳴のような物が聞こえるが気のせいか? 


「フフッ、やるなライト」


「お前こそな。まさかそのブレスを止められるとは思わなかった」


 俺の中では最強の威力を持つ「王の息吹」。それを物理的に止めるなんて一体どういうことだよ。


「妾の持つスキル『受け流し』のお陰じゃ。このスキルは実体のないものもとらえて逸らすことができる。その代わり、結界には穴が空いてしまったがな」


 見ると上空に巨大な穴がぶちぬかれているのが見える。まさか一撃で壊れるなんて思わなかった。


「さてとじゃあそろそろ本気を……」


『えー、えーお二人ともお待ちいただいてもよろしいでしょうか!?』


 あったまってきたことだしそろそろ本格的に始めようかと思った矢先に焦った声でそんなアナウンスが聞こえてくる。


「どうしたグレイル? まだ試合は始まったばかりだぞ?」


『そ、そうなのですが周囲を見ていただけますと分かりますように甚大な被害が出ております。このままではお二人の試合でゾルドレインが滅んでしまいますの何卒』


 そう言われて周囲を見ると確かにさっきよりも観客の数が減ったように感じる。それに所々壊れているような。


「もしかして結界、意味なかった?」


「みたいだな」


 そうして魔王を証明するはずの試合はものの10分程度で終わりを告げるのであった。

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