第34話 ダンジョンからの解放
新鮮な空気、風が運んでくる草木の香り、そして何よりも日光がさす綺麗な青空。
「くーっ! やっと出られたー!!!!」
久しぶりにダンジョンの外へと出ることができた俺、葛西ライトは全身で外の世界を味わおうと、思い切り伸びをする。
「大げさな奴じゃな」
「大げさなんかじゃねえ! ダンジョンの中じゃいつまでたっても陰鬱とした空気が続くわ、至る所に魔物が居て心は休まらないわで散々だったんだよ! ああ、心が浄化されそうだ」
「あ、ああ。そうか」
俺の余りの喜び具合に若干アリスが引いているのが分かる。だがこればかりは譲れない。長寿である魔族にはわからないかもしれないが、俺にとってダンジョンにいた期間というのは膨大な時間だったのだ。そりゃあもう喜びも爆発しますよ。
「それでライトはこれからどうするつもりじゃ?」
「うん? ああ、そう言えば何も考えていなかったな」
前までは俺をダンジョンの奥へと置き去りにしていったリズワールや鷺山に対して恨みが募るあまり、強くなって奴等の目の前に現れ、罪を償わせようとか見返そうとか思っていたけどな。ただそのためにわざわざこちらから出向くのも癪だ。
「もしよかったら魔界に来ないか? ライトが居てくれれば神の使い相手でも安心できる」
「俺に魔族側についてほしいってことか? 俺は良いけど他の魔族は受け入れないんじゃないか? 人間が味方になるのって結構リスクあるだろ?」
「大丈夫だぞ。魔族の味方となっている人間の国家は複数存在するし奴等も実力者であれば歓迎するはずだ」
「え? 人間全体が魔族の敵になっているわけじゃないのか?」
「そりゃそうじゃろう。まあ魔族の味方となっている人間は数少ないがな」
知らなかった。もともとは仲が良かったってのは聞いていたがまさか魔族の味方になっている人間の国家があるなんて知らなかった。
「じゃあお言葉に甘えて俺も魔界に行こうかな」
「おおっ! 助かるぞライト!」
そう言ってアリスが俺に飛びついてくる。いきなり飛びつかれた俺は少し体勢を崩しながらも持ちこたえる。アリスにはそんな気はないのだろうが、鼓動が早くなるのを感じる。
「それでは向かうぞ! 魔界へと!」
パッと離れたアリスが元気よくそう言うのを俺は黙ってうなずくのであった。
♢
「そういえばアリスは魔王から何をもらったんだ?」
魔界までの道のりで暇だった俺は初代魔王を倒した際にもらえた特典について問うてみる。
「あのスキルじゃ。初代魔王様が使っておられた『分身』」
「うわぁ……考えただけで嫌になる組み合わせだな」
鬼神モードになったアリスが複数現れるとかどんな悪夢だよ。こればっかりは敵方に同情してしまうな。
「ライトは何をもらったのだ?」
「俺もスキルだな『ステータス偽装』って奴を貰った」
「ステータス偽装? それは何ができるスキルなのじゃ?」
「文字通り鑑定した時に見えるステータスの情報が偽装できるスキルさ」
「強いのか?」
「いやまあ戦闘力的に言えば皆無だろうな。ただ、鑑定にかけられたとき、俺が異世界人だとバレると何かと不具合が生じそうだったから貰っておいた」
「ふーん、そうなのか」
アリスからすれば何でももらえるあの状況で自分を強化するスキルを貰わなかったのが不思議なのだろう。まあ何だろう。特に他に欲しいものが思い浮かばなかったからそれにしたってだけなんだがな。
「それで魔王って称号は隠しながら生きていこうかなと思っているんだが」
「ダメじゃ。今代の魔王は妾とライトの二人。それ以外は認めん」
「ですよねー」
正直アリス一人だけで務まりそうな魔王の座。そしてクラスメートたちの標的である魔王の座。いずれ俺の前にあいつらが現れることがあるのだろうか? そうなれば少しは意趣返しもできるかもしれない。
「それでここから魔界までどれくらいかかるんだ?」
「な~に、魔王の試練から魔界までの距離は短い。せいぜい三日程度であろう」
「三日だと!?」
おいおい、この世界は俺からどれだけ時間を奪えば気が済むんだよ。そう心の中でぼやきながらアリスの後をついていくのであった。
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