第27話 魔王喰らい

 最後のボス部屋の中に入っていく。いつもとは装いが異なり、部屋の中は煌びやかな装飾がなされている。ちょうど俺が召喚された時に見た玉座の間のような見た目だ。


 そして奥には一つの巨大な椅子が置いてあり、そこに誰かが一人肘をつきながら座ってこちらを睥睨している。


 あいつがボスか。そう思って身構えると、突如として頭の中に声が響き渡ってくる。


『よくぞ来た。我が子供たちよ』


「何だこの声? あいつの声か?」


 横に居るアリスに聞いてみるも返答はない。代わりにアリスは部屋の奥の椅子に座っている人型のボスの姿を見て固まっていた。


「もしやあのお姿は……」


「知ってるのか?」


「ああ。知っているとも。かつてバラバラであった魔族をその圧倒的な実力とカリスマ性で束ね上げたと伝えられる初代魔王ベルゼ・イゴール。奴の顔がその肖像画にすごく似ておる」


「本当か?」


 人間よりも圧倒的に長生きな魔族の初代魔王。アリス曰く、数年前に隠居した魔王は九十九代目だと聞いている。もし本当にあれが初代魔王なのだとすると一人の魔王が二百年近く魔王の座についていたとすれば約二千年間もの間生き続けているという事だ。


 どんだけ長生きなんだよ。


『ふむ。魔王ベルゼ・イゴールか。久しくその名で呼ばれたな。半分当たりで半分外れだな。残念ながら今の我は本体ではない。我の本体である魔王ベルゼ・イゴールはこの魔王の試練を作った後に分身体を置いて命を落とした。その分身体というのが我だ』


「なるほど、道理で顔が似ているわけじゃな」


 流石に初代魔王本人が生きているわけもないか。ただ、分身体がまだ残っているという事だけでも凄いことだ。スキルなのかはたまた魔力なのか分からないが、それが今でも褪せることなく力を持ち続けているというのは本体の力がとんでもなかった証拠だ。


「それで? 最後のボスはアンタが相手なのか?」


『そうであるが。今から君たちが相手をするのは私ではない』


 そう言うと初代魔王の分身体がスッと手を上にあげ、パチンと大きく指を鳴らしたかと思うと気が付けば俺達は元居た玉座の間みたいなところから荘厳な神殿のような場所へと移動していた。


「あいつは」


「魔王喰らいじゃな」


 ダンジョンの中で何度か遭遇したヘル・フェンリル。魔王の分身体の代わりにそいつが神殿の中に居た。ただ今まで見た奴は黒かったのに対してこいつはどういう訳か白い。そして頭には装飾品が付いており、どことなく神聖な雰囲気を纏っている。


「鑑定」


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 名前:フェンリル

 種族名:神狼

 称号:魔王の飼い犬

 レベル:9999

 スキル一覧

 ユニークスキル:『聖なる焔』

 常時発動スキル:『身体強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『状態異常無効』

 魔法スキル:『全魔法lv.EX』

 特殊スキル:『パーフェクトヒール』『俊足』

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 名前がヘル・フェンリルからフェンリルへと変わり、獄炎がユニークスキル『聖なる焔』へと変わっている。見た目はヘル・フェンリルでも中身は全然違うな。


 それにここからレベルがカンストしているのが当たり前になってきている。パーフェクトヒール持ちのレベルカンストかよ。出会いたくなかったぜ。


「これが前哨戦って訳か。仕方ない」


 腰に差していたアルムをスウッと取り出す。魔王カイザー・ウラヌスの剣、通称魔王カイザーの剣。取り出すや否やその黄金の輝きで神殿内を照らす。


「アリス、下がっててくれ。俺がやる」


「うむ、任せた」


 こいつはさっさと仕留めなければ後々面倒になる。パーフェクトヒールでずるずると延長戦にもつれ込まれれば魔王の分身体との戦いに支障をきたすからな。アリスには少し力を温存してもらいたい。


 スウッと黄金に光り輝く剣を構え、俺の出せるありったけに力を振り絞って剣を振る。その瞬間、黄金に光る斬撃がフェンリルの方へと飛んでいく。


 俺の魔王シリーズの宝玉はどれもその存在自体が凄まじい強さを持っており、スキルを使わずとも剣を振るだけでこのような斬撃を繰り出すことができる。まさに神話級の上、終焉級である。


 斬撃を生み出しながらフェンリルのもとへと近づいていく。フェンリルもその斬撃を避けながらすさまじい速さでこちらへと近づいてくる。


 そして目の前へと迎合した瞬間、俺の剣とフェンリルの聖なる焔を纏った爪がぶつかり合う。衝撃波を伴いながら激しいせめぎ合いを繰り広げる。


 そんな中、俺は空いている左手に光を蓄え始める。


「王の息吹」


 俺の手から放たれたすべてを貫通する光がフェンリルの身体を貫き、一瞬怯みが見え、攻撃の勢いが弱まるのを感じる。


「うおおおおお!!!!」


 力が弱まった瞬間、俺は剣を握る力に加えてスキル『剛力』と『貫通』を併用し、フェンリルの右半身を斬り飛ばすことに成功する。


 右半身を斬り飛ばされたフェンリルが痛みに体をのけぞらせた瞬間、俺はもう一つの魔王シリーズ、『魔王ソル』の宝玉を取り出し、剣を構える。


「王の破壊!」


 剣を振り切った瞬間、魔王ソルの剣は目の前の景色がすべて消し飛ぶほどの力を放ち、それがフェンリルを襲う。『王の破壊』に飲み込まれたフェンリルはそのまま抵抗することもなく、その姿を消し飛ばされるのであった。



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 アルム名:魔王ソルの剣

 等級:終焉級

 ユニークスキル:『王の破壊』

 常時発動スキル:『身体強化EX』『魔法無効』『物理防御Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『状態異常無効』『凍結無効』

 魔法スキル:『熱魔法lv.EX』

 特殊スキル:『バリア』『超剛力』『コピー』


 魔王ソルの宝玉による祝福を受けた剣。効果を一つ選び、剣の持ち主または持ち主が認めた他者へと付与することができる。ただしその場合、他の効果は消失し宝玉は壊れてしまう。

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『王の破壊』:直径10メートルほどの小さな太陽を生み出し広範囲に渡って絶大な威力を発する能力。

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