第25話 気付いたこと
「痛い」
そう言って、私は陽介の手を振り払った。
「ごめん」
そう言って、陽介はバツの悪そうな顔をする。いったい何なのよ!こんな大切な時に!!そう思い、私はあの子に電話をかけようとスマホを見ると、陽介がそれを取り上げた。
「なにすんのよ!」
陽介は私のスマホの電源を切って、テーブルの上に置き、
「ま、座れよ」
そう言って向かいのパイプ椅子に腰かけた。私は向き合うのが嫌で、横を向き足を組んで座った。腹が立っていた。何もかもに。
あの子にも、心晴にも、陽介にも・・・。意味わかんないことしてんじゃないわよ。
「お前さ、あの子にメールしてたけど、返信か電話来たらどうするわけ?」
陽介はいつも以上に優しい声で聴く。何よそのやさしさ・・・気を使ってるのはどういう理由?私がヒートアップしていたことが、滑稽で、惨めだった?そうだよね、私は部外者なのに張り切っちゃって・・・でもそうなるでしょ?私の大切な裕翔に、あんな思いさせてんのよ!あの女を許せないって思うのは当たり前でしょ?
「お前が裕翔の事が好きで好きで仕方がないから、親友として以上の行動に出てしまっていることは十分にわかるけどさ。その気持ちは、迷惑になるかもよ。裕翔の…。」
私は陽介をにらみ付け言った。
「だから何?裕翔が傷ついているのを、横で見てるだけなの?」
「そうだよ」
陽介はパイプ椅子を私の近くにおきなおし、座ると、両手で私の頬を包むようにして自分の方に向かせた。
「見てるしかない。お前の気持ちは、伝わっていないんだから!」
陽介の目は真剣だった。私が知っている陽介とは、まるで違っていて、何だか変な気持ちになった。
「はっきり言う。裕翔はお前の気持ちを知らない。気が付いていない。何でかわかるか?」
「私が言っていないからでしょ」
「それだけじゃない。」
「何よ?」
「お前の事を親友以上に思わないからだよ。お前がアイツのためにと一生懸命になっても、気が付かない。裕翔は双葉にそういう感情がないから!」
分かってる。
分かっているけど、はっきり言われたら辛い。
髪型も服装も、なにもかも裕翔のためにしていた。いつ裕翔が私を見ても、一番いい私を彼の瞳に映せるように。
彼が私の事を親友だとしか思っていなくても、私の事が少しでも裕翔にとって“可愛い人“だと刻まれるように。
だけど、そんなことは無駄だった。あの子と付き合いはじめた裕翔は特に、そうだから、打ちのめされていた。
今回、あの子が出したボロ。真実はまだ分からなくても、もしかしたら、裕翔があの子から離れるキッカケになるのかもしれない。と、心配してるふりをしながら、心の奥では、そんな事を期待していた。
汚い女だ…私は…。
こんな気持ち、裕翔に知られたら、きっと嫌われてしまう。もう、親友にもなれないのかも。
そう思うと、涙が…。
泣くな私。こんなことくらいで泣くな。泣く女は嫌い。泣けばいいと思っているみたいで、弱ければ優しくされると思っているみたいで、嫌いなんだ。
すると、それをジーっと、見つめていた陽介が、ユックリ近づいて…。
突然、私にキスをした。
あまりに急なてんかいで、私は目を見開き、状況が理解できなかった。
いつもの私なら、突き飛ばしているかもしれない。でも、何か不思議な感情と共に気が付いてしまった。
陽介はいつも私の傍にいて、近くにいたのに、はじめて気が付いた。
こんなにまつ毛長かったんだ。
こんなにいい匂いしているんだ。
こんなに優しいキスをするんだ。
私は陽介を見つめながら、彼のキスの意味なんて想像もつかないまま、身を任せていた。
陽介は途中、うっすら目を開けてこちらを見て、少し照れ笑い。そしてまたキスを続けた。
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