第13話 繕う

双葉さんと,この前話しかけてきた美少年が目の前にいた.。確か・・・心晴。私と裕翔くんは自然と少し離れた。


「いい感じだね?監督は裕翔とデートなの?なかなかやるじゃん」


呼び名、”監督”はいやだって言ったのに!


「監督って?」


裕翔くんがこちらを見る。私は、頬を赤くして下を向く。説明が難しい。


「あっそっか、監督は違ったね。菜穂」


そう心晴が私を呼び捨てにすると、裕翔くんはあからさまに嫌悪感を出す。


「なに?二人って知り合いなの?」


すると、心晴はにんまりと笑って。


「裕翔には教えないよ。ね、菜穂

二人こそ、どういう関係?」


そう言って、私の顔を覗き込む。裕翔くんは腕で心晴の顔を押して、


「近いよ!近づくな

教えねーよ」


今までに聞いたことない声。重くて、低くて、少し怖かった。

喧嘩になるのかな?

男の子が怒ったり喧嘩する姿なんて見たことないから不安。

私は裕翔くんの方を見れなくて、また、下を向いた。


「えっ?僕は菜穂に聞いたのにな…裕翔には聞いたつもりないけど…」


そう言って裕翔くんの方を真っ直ぐに見た。


「お前ら・・・なんで今日一緒なの?珍しくない?それに、なんでココにいるんだよ」


裕翔くんは双葉さんの方をにらむように見た。

双葉さんも少し困っているのかな?少しだけ返答に迷うようで少しの間をあけ。


「心晴が部活の事で相談があるって言うから、ここで待ち合わせたのよ。まさか、裕翔たちがいるとは思いもしなかった。偶然・・・だからね。」


なんだかいつもと違ってタドタドシイトいうか、弱弱しく聞こえた。双葉さんは、今日の事は知らなかったのかな?てっきり陽介さんと双葉さんには、そういった話をしているのかと思っていた。


顔を上げて、裕翔くんの方をチラッと見る。・・・怒った顔、初めて見た。


「じゃぁな、俺らはもう行くから」


そう言って、私の左手を引いて進もうとしたら、右手を誰かに引っ張られて私は傘から出てしまい雨に濡れながら立ち止まった。私が右を見ると、私の右手を心晴がつかんでいた。

ほぼ同時にそれを裕翔くんも気が付いて、


「何してんだよ!離せよ

お前、何なの?」


強い口調で心晴に言って私の手を強引に引いた。


「お前が離せよ。菜穂が左手痛そうだぞ」


心晴が言う通り、裕翔くんの手は

優しい手ではなく、ぎゆっと掴むように握っていて、少し痛かった。

裕翔くんは心晴に言われ、手を緩めた。


「ごめんね」


こちらを見て小さな声で言って、ゆっくり手を離した。私は首を横にふるけど声は出せなかった。怖かったから。


すると、心晴が私をゆっくり引き寄せて自分の傘に入れた。

ハンカチで髪や頬についた雨の水滴を撫でるように拭いてくれて、それがあまりに自然で、私もされるがままになってしまい…ぼんやりしてしまった。

“ハッ“として裕翔くんの方を見ると、目をそらして不機嫌な表情。

私のせいだ…。

私は心晴の手を掴んで、


「有り難う。私、自分でできるから」


そう言って、自分のハンカチを出し、裕翔くんの傘に戻った。

心晴はキョトンとした顔。

それはとても可愛らしく、ペットショップの仔犬みたいで…つい、本当に、つい見とれてしまった。


また、“ハッ“として裕翔くんを見たら

そんな私の事を見ていて、私と目が会う前に目をそらした。


なぜか後ろめたかった。


いけないところを見られた様なばつの悪い気持ちでいると、


「じゃ、行こうか?双葉。」


さっき私の右手を掴んで引き止めたのに、なんだったの?と、思うくらいあっさり、そう言って背を向けて歩き始めた。

双葉さんも戸惑いながら、裕翔くんを心配そうな顔で見ながら、心晴の後を追うように歩いていった。


何だったんだろう。

心晴は振り返りもしなかった。

右手がまだ暖かかった。


裕翔くんは小さく溜め息のような深呼吸をし、何かをふっ切るように一度上を見て、こちらに目をやると、その時にはさっきまでとは違う、いつもの笑顔で…。


「行こうか」


そう言うから、私も何事もなかった様な振りをして頷いた。


私達は無理のある嘘の笑顔で繕いながら、初めてのデートをはじめた。

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