第8話 カッコ悪い俺

今日は心が落ち着かない。

その理由は、子供じみたもので、恥ずかしくて誰にも言えないでいた。


部活が終わってから何度か菜穂ちゃんにメールした。が、返信どころか既読もない。


いつもの事だ。


そう言い聞かせながら平常心をよそおう。


夕飯は母のお得意のオムライスと、オニオンスープだった。いつもなら即完食するのだが、なかなか進まず、


「珍しい、食うのおそっ!」


弟のその声で回りを見ると、家族は既に食事を終えて半分以上残った俺のオムライスを見ていた。


「お熱でもあるの?」


母が俺の額に手を当てる。俺は鬱陶しそうにそれを避ける。

弟はそれを見て、


「まだ反抗期かよ!だせーぞモテ男」


と、茶化すから、ムッとして


「お前にやる」


と、皿を弟の前に置き、席を立った。


中学生の癖に妙にませていて、やたら俺に絡んでくる。小さな頃は、俺の後ろにピッタリついて回って、泣きべそだったのに、お前こそ反抗期かよ!


と、イライラを弟の言動へ八つ当たりする。


部屋に戻り、ベッドに転がったり、動画を見ても、時間が過ぎるのが遅く感じる。何度もスマホの画面を見てしまう。


我慢できない!

会いに行こう!


そう思い立ったのは、20時を過ぎてからだった。


菜穂ちゃんの迷惑なんて今は考えてあげられない。会いたい。会ってちゃんと落ち着きたかった。


でも、この気持ちを真っ直ぐに伝えたら、彼女は俺を嫌いになるかもしれないな。俺だったら即嫌いになる。


ダサいし、情けないし、バカらしい事だ。


だって、ただ

俺以外の男と話してるのを見かけて、それで胸が苦しいなんて、言えるわけないよ。


俺には女友達がいる。双葉もそうだけど、それ以外にだって、話しかけられれば話すし、仲もよくする。

嫌いなわけでもないのに、異性だからといって避けるのは、なんだか自意識過剰の自惚れやに思うからだ。


だけど、俺は菜穂ちゃんへの気持ちと、その他の女友達との関係は全く別だって自信を持って言える。


でも、菜穂ちゃんはどうだろう?


あんな風に話している姿を見たら、心配になってしまう。


心晴の事はよく知っている。


腐れ縁でダンスチームのメンバーで、付き合いも長いからよく知っているが、掴めないところもある。


心晴は俺に、いや、俺たちに、本当のアイツを見せていない気もする。


仲間だからといって全て知らせる事を望んだりしないけど、たまに、みんなでワイワイやってる時にでも、どこか心ここにあらずのような顔で、覚めた視線をおくっている様な瞬間がある。


そんな心晴が、菜穂ちゃんの横にいた。


何を思い何を話しているのかは分からなかったけど、なんだかいい雰囲気に見えてしまったのは、俺の嫉妬心からなのかもしれない。


カッコ悪い。


だから、この気持ちはおさえて

彼女にばれないように、頭を冷やして会う。会いに行く。


走って彼女の家へ向かった。

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