第6話 後ろめたさ(上)

お風呂から上がると

裕翔くんからメールと着信があった。

電話は滅多にしないから、緊張する。

しかも、今日は変な感じだったから…。


変だった

変だったのはわたしの方か。


裕翔くん以外の男子から急に話しかけられて、その姿を見られていたことに気がついて、バツが悪くなってしまい、そそくさと帰ったりしたから気まずいのかも。


そうこう悩んでいたら、また着信。


どうしよう。

私はその驚きと動揺からスマホを床に落としてしまった。

慌てて手に取った時、指が画面に触れてしまい

出てしまった。


「もしもし」


心を整えて声を出す。


「もしもし、菜穂ちゃん

今、大丈夫?」


いつもの声。怒ってない。

どうして裕翔くんが怒るなんて思っているんだろう?

他の男子と話していたから?話していただけなのに?

彼はそんなに子供ではない。

裕翔くんは私とは違って、女の子の友達だっているし、友達に性別のラインを引かない人だ。

私の過剰な思い込みは、もしかしたら少しだけ、今日話した彼(心晴)がかわいくてドキッとさせられたから、勝手に浮気心の様なものをもってしまったからかもしれない。所の時、彼(心晴)の子猫の様な柔らかそうな笑顔が頭に浮かぶ。ダメダメダメダメ!!私、頭の中で浮気してる・・・。


「少しなら」


でもやはり、電話自体苦手な私は、テンションがダダ下がる。


「そっか…少しか」


少しがっかりした声。申し訳ない気持ちになる。


「じゃさ、手短に言うね

今、家の前にあるんだけど少し出てこれない?」


家の前?

私は驚いて、窓から外を見る。すると、彼がこちらを見上げていた。


えっ?そんな急な訪問で、めっちゃ笑顔で門の前に立てるなんて・・・私は若干慌てる。


私は急いで部屋着を脱ぎ、ワンピースを簡単着て濡れた髪を拭きながら玄関へ、その時


「菜穂、どうしたの?」


ママが私が慌てている姿を見て、こえをかけてきた。

パパもリビングからこちらを見ている。

ゲームをしている手を止めて、弟も身を反らしてまでこちらを見ている。


どうしよう。


「あの…友達がノート貸してくれるって、持ってきてくれてて」


「あっ、そうなの

じゃ上がってもらったら」


困る…どうしよう…

汗が止まらない


その顔を見てママは私の肩に引っ掛かったタオルを取って

顔の回りの汗を拭いてくれて、小さくため息、私は目をそらす。


「行ってらっしゃい。でも、遅くならないでね。心配になるから。」


何か気が付いたのかな?感のいい人だから…。

昔からそうだった。

普段はうるさいくらいに厳しい母親だけど、友達から嫌われた時も、勝手に恋した相手にひそかに失恋した時も・・・ママはいつだって言葉多くはないけども、私の気持ちを私以上に知っていて、何か言葉をくれたり静かに寄り添ってくれる人だった。


だからこそ、目を合わすことができなかった。

知られることが怖かった。


「有り難う、行ってきます」


そう言って、私はスマホだけ持って玄関を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る