第6話

「僕達は絶体絶命のピンチだ。泣いていても助かったりはしない。だから、僕達にできることをやろう。いいな?」


 二人は大きな涙をぐっとこらえて、大きく頷いた。


 まだ五歳児。魔物が怖くて、死を前にして怖がるのは当然のことだ。それに打ち勝つんだから、大したものだ。


「よし、リーアは短剣を持っていたね?」


「うん。通常用と予備もある」


「予備も持っていたのか! それならよりいい! ではこれから僕が話すことをよく聞いてくれ。二人の才能は【ノービスEランク】で間違いないな?」


 二人が頷く。


「僕には人の才能を変える力がある。二人とも知っていると思うけど、Eランクの中でも一番のハズレ才能【転職士】だ。知っているね?」


 やはり二人とも頷く。


「そこで僕から一つ提案したい。よく分からなくても聞いてくれ。ノービスは才能の中でも最弱の一つ。その一番の理由は才能によるステータスが一番低いからなんだ。でも、君達には才能はなくても素晴らしい――――適性を持っているんだ。これから君達をEランクの中でも唯一戦えそうな才能に変える。それならその短剣で戦えるようになる。でも、これには君達の覚悟が必要なんだ」


 才能と適性。両方が嚙み合ったとしても、結局戦うのは本人だ。本人の覚悟がなければ、どれだけ強い適性と才能を持ってしても戦えない。


 二人には戦うという心の覚悟をしてもらう。


「不安かもしれない。でもこのままではみんな食われてしまう。なら食われる前にやってやろうじゃねぇか。その手で武器を取って、一緒に戦おう」


 二人はお互いの顔を見つめ合う。そして、お互いに頷いた。


「セシルくん……私、言われたことを破って、みんなを巻き込んで、凄く後悔してるし反省してる。だから……生きるチャンスをください。セシルくんに付いていくよ」


「僕も……! いつも泣いてばかりでリーア姉ばかり頑張らせてしまった……僕も強くなりたい! リーア姉を守りたいんだ!」


「ああ。僕もその想いは一緒だ。僕も戦いたいのは山々だけど、残念ながらこの中で僕が一番弱い。だから二人に力を託すよ」


 伸ばした二人の手を握りしめる。


 さあ、ハズレ才能と罵られた僕の才能【転職士】。君と僕の初陣だ。


 両手に才能の力を込める。説明書もないし、使ったこともないけど、自分の中にある力だから認識できるし、簡単に使うこともできる。


 僕の中から二人の中にが繋がった。


 赤い糸が僕とリーア、ルーンの中に繋がる。


 二人の才能【ノービス】。平民の証。神に見捨てられた平凡。有象無象。


 それを塗り替える・・・・・。神が見捨てたなら、僕は拾い上げる。君達の――――本当の・・・力と見せつけてやれ。



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 名 前:リーア

 才 能:マインウォーカーEランク

 レベル: 1

【適性】

 体:〇 腕:〇 俊:◎ 魔:△ 耐:

 素:△ 久:  器:◎ 精:△ 運:×

【才能】

 体:D 腕:D 俊:D 魔:E 耐:E

 素:E 久:E 器:D 精:E 運:D

---------------------

 名 前:ルーン

 才 能:ファーマーEランク

 レベル: 1

【適性】

 体:  腕:〇 俊:〇 魔:△ 耐:◎

 素:〇 久:  器:〇 精:◎ 運:×

【才能】

 体:D 腕:D 俊:E 魔:E 耐:D

 素:E 久:D 器:D 精:E 運:E

---------------------



 二人の体が赤い光の粒子に包まれて、雰囲気が一変する。


 僕の【鑑定眼】でもリーア達の才能が変わったことを確認できた。


 間違いなく、僕が今まで見てきた人の中でも最強の適性を持つ二人。


 アサシンマスターであるエンバさんでさえ、適性はここまでではなかった。それに比べたらリーア達の適性の高さがいかに異次元なのか分かる。


 でもそれが却って、この状況では助けになった。


 本来なら僕が剣を握って戦いところなんだけど、僕の才能【転職士】は全ての才能がEであり、僕の適性も運以外は全て通用だ。


 適性には全部で五種類あって、空欄が通常で一倍。〇が適性ありで二倍。◎が最高適性で四倍。△がせ適性なしで半分。×は最低適性で九割減になる。


 さらに才能のEとDとCそれぞれの差は単純に一段階ではないので、適性があるかないかで、とんでもない差が広がるのだ。


 同じレベル1でも彼らは、【腕】と書かれた【腕力】に適性があり、それを転職させてDに引き上げることで、僕より数段強くなれる。


 中でもリーアの【俊】と書かれた【俊敏】には最高適性があり、これだけで狼と対等に戦える気がする。


「何だか、胸の奥から凄い力を感じるよ」


「僕も……頑張って戦えそう!」


「僕も戦えたら良かったんだけど、さすがに二人の足手まといになりそう。だから上から援護するね」


「大丈夫。任せておいて」


「僕も頑張る!」


「一緒に生き延びよう。絶対に。絶対に帰ろう!」


 二人は僕に向いて大きく頷いた。そして、短剣を持ったまま、下からこちらを睨みつけていた狼のところに飛び降りた。


 正直にいえば、僕も今すぐに飛び降りて二人の力になりたい。


 でも、それが足を引っ張りかねない現状にとても悔しい。


 なら……今できることをやるのみ!


 枝の上から木の実を投げつけて狼の集中を惑わす。




「私のせいでみんなを巻き込んでしまって……私を信じてくれた人達を裏切ってしまって……だから……ここで貴方に食べられるわけにはいかない。ちゃんと帰って謝りたいから。ルーンくん。行くよ?」




「任せて……!」


 二人が飛び出す。


 当然リーアの方が速くて、狼も一瞬ビクッとなったが、すぐに鋭い前足をリーアに振り下ろす。


 当たるかと思われた時に、リーアの体が一瞬ブレて、狼の脇腹に現れた。


 肉を斬りつける音が響き、狼の体勢が大きく崩れた隙に、今度はルーンが頭部に短剣を差し込んだ。


 二人は阿吽の呼吸で斬って離脱してまた斬ってを交互に行って、僕が援護する必要もなく――――たった数十秒で狼を倒した。




 この時の僕はまだ、適性と才能の掛け算がどれほど恐ろしいものなのか、理解できていなかった。

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