その怪異

 自宅に着くや否や、玄関並びに家中の鍵を閉め、カーテンを閉め、それから自室に入ると自室の鍵さえ閉め、窓のカーテンも言わずもがな閉めて、一切誰も侵入できないようにした。


 荒い息を整えつつ、少しだけ休む。


 それから、勉強机の上のPCのスイッチを入れる。起動にかかるわずかな時間さえもどかしかった。

 ブラウザを立ち上げると、検索窓に文字列を打ち込み、エンターキーを押す。


 表示されたのは、【関係者以外立入禁止 看板 怪異現象】についての検索結果。

 目ぼしいものは1ページ目にはなく、2ページ目へ進む。そこにも該当するものは無くて、ダメ元で3ページ目を開くと、奇跡的に探し求めていたものが見つかった。


 怪異その3 謎の立入禁止看板 と書かれたウェブサイトのタイトルをクリックする。

 シンプルに作られたウェブサイトは、冷たいコンクリートの壁みたいに無機質で。

 それ故に恐ろしく感じられるものがあった。


 そこにまとめられていた記事の内容は――



 どこの誰が関係者とも書かれていない、不審な【関係者以外立入禁止看板】に注意。その先へ踏み込むと、向こう側から呼び声がかかるようになります。


 立ち入った瞬間から、この世界はあなたを【関係者】として認識し、あらゆる方法であなたを向こう側の世界へ引きずり込もうとします。


 万が一、【関係者】と認識されてしまった時の対処方法をお教えしましょう。


 唯一の対策方法は、徹底的に【傍観者】であること。


 どんなに関わりたくなるような事象が起こったのだとしても、決して関わらないこと。

 数日から一週間もその姿勢を貫けば、世界は認識を改め、あなたを【関係者】から除外します。



 まさに自分自身が置かれている状況だった。

 オカルトなんて基本的に信じないけれど、今の状況からして信じざるを得なかった。


 記事の内容を元に、現状を整理する。


 僕を関係者呼ばわりしてくる人たちの異常な様子は、怪異によって引き起こされている「現象」。実際のところは普通の人々であり、実際の彼らの様子とは異なると推定される。


 怪異は一般人を装い、僕を向こう側へと連れて行こうとしている。向こう側がどこのことを指すのかは分からない。記事にも詳細は書いていなかった。

 ただ、どこへだろうと理不尽に連れて行かれるのは勘弁願いたい。それだけだ。


 怪異現象を当分の間無視し続けることができれば、この異常事態は収束する。


 万が一に備え、自室に用意していた非常用食料が役に立つときが来た。

 これからしばらくの間、親が扉をノックしようと、窓を叩く音が聞こえようと、僕は決して関わることはしない。

 警察が家に来ようと、ゴミ出しを頼まれようと、学校から電話がかかってこようと、絶対に出ない。


 一週間耐え抜けば、この不快な現象からはおさらばだ。


 僕は、関係者じゃない。

 関係ない、関係ない、関係ない。

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