第8話 『黒』級の冒険者

 ここは何処だろう。

 

 あの後、何があったんだっけ......確か無我夢中で走って、気がついたら森の中に居たんだっけ?。

 

 でもなんで牢屋みたいな所に居るんだろう?。

 

 

 目の前には鉄格子、手首と足首には拘束具が付けられてる。

 

 薄暗くて周りが見えないけど女の人が啜り泣く声がまわりから聞こえてくる。

 

 思い出さないと......霞む意識を無理やり起こして前後の記憶を思い出す。

 

 確かあの時は。

 

 そうだ、何処かの森の中で立ち止まったんだ。

 

 それで......。

 

『へへへ、悪いが恨むなよ』

 

 後ろから声が聞こえて殴られたんだ。

 

 それで気を失って......。

 

「目が覚めたか? 『荷物持ち』」

 

 考えすぎてたのか目の前に現れた男の人に気付かなかった。

 

 薄暗くて顔は見えにくいけど、その声は聞き間違え事は無い。

 

 獅子宮殿に入る前に所属していたギルド『蒼き血ブルーブラッドの雫ティアーズ』のリーダー『バルバロイ』だ。

 

 冒険者として一流と扱われる銀級であり、ロメロとジュリアも同じギルドだ。

 

 ......なんで歯が少し欠けてるんだろう?。

 

「へへへ、少し想定外だったが上手くいって良かったぜ」

 

 どう言う事?。

 

 いつもと同じ、欲望に濁った目でボクを見る。

 

 バルバロイは拘束されているボクを見て笑い口を軽く説明してくれた。

 

「お前さんは初めから狙われてたんだよ、お貴族様にな」

 

 どうして貴族の人に......心当たりが無さすぎて他人の事を聞かされたような気になってくる。

 

 そんな事はお構いなしにバルバロイの話は続く。

 

「本当はあの時に回収するつもりだったんだがな......まぁ良いさ、あの『獅子宮殿』がお前如きを探すわけねぇからな」

 

 何を言っているの?。

 

「あ? まだ気づいてねぇのかよ。 テメェはもう詰んでんだよ」

 

「お前みたいな足手纏いが『獅子宮殿』の仲間になれたと本気で思ってんのか?」

 

 バルバロイの笑い声が響く。

 

 気にしないように蓋をしていた醜い部分。

 

 あれだけ良くしてもらったにも関わらず信じきれない、最低な心を覗かれたみたいで怖い。

 

「あの『冒険王』になんて言われた? キミに期待してる? キミが必要だ? 頑張れよ? いやアイツならこう言いそうだな」

 

 励めよロディ。

 

「もしかして俺がお前をスカウトした時の言葉を忘れたのかよ! 『ロディの力が必要だ!』同じような事を言われて信じてんのかよ、ギャハハ!」

 

 心が絶望に染まる。

 

 レオスさんはそんな人じゃ無い! 耳を貸すな!。

 

 心の何処かで叫ぶ声が聞こえるけれど、それ以上にバルバロイに言い当てられて心が軋む。

 

「あぁ可哀想だなぁロディ。だが、ここの主は本気でお前を必要としてるみたいだぜ?」

 

 バルバロイの言葉が入ってこない。

 

 ただ言葉の意味だけが入り込んでくる。

 

「お前のギフトがクソだろうが、あの人は気にしない。従順にしてさえいれば長い間、可愛がられるだろうぜ」

 

 目の前にバルバロイの手が差し出される。

 

 その掌には一粒の錠剤。

 

「あの人に会う前にコレを飲んどきな、辛い事は全部忘れられるぜ」

 

 辛い事......忘れた方が楽なのかな?。

 

 その錠剤に手が伸びる。

 

「そうだ、それが1番楽な道だ」

 

 あれを飲めば嫌なことを忘れられる。

 

『何してんだよノロマ!』

『使えねぇゴミかよ』

『ほら食べなさいよ! キャハハゴミ食べてるわよ!』

 

 忘れた方が楽だよね。

 

 もう疲れた、ボクはただ仲間に入れて欲しかっただけなのになんでこんな思いしないといけないんだろう。

 

 笑うバルバロイから錠剤を手に取って、それを口に中へ。

 

 『ロディ、ようこそ獅子宮殿へ!』

 

 入れずに捨てた。

 

 やっぱり忘れたく無い! あの時間は本物だったんだよ!。

 

 錠剤を捨てられたバルバロイは呆然とし、直ぐに憤怒の表情に変わる。

 

「テメェ! 調子に乗るんじゃ」

 

 バルバロイが鉄格子を叩きボクを脅そうとした瞬間だった。

 

 地面が揺れて、爆発したような衝撃が伝わる。

 

「なっなんだ! 何が起きてるんだよ!」

 

 天井を見る。

 

 さっきの揺れでヒビが入ったのかな?。

 

 揺れが大きくなっていき、ヒビもドンドン大きくなっていく。

 

 そして。

 

「おっドンピシャ」

 

 ボクの英雄が来てくれた。

 

 /////////

「止まれ! 動けば」

 

 何か言ったか?。

 

「ひぃ、いっいえ......なんでもありません」

 

 そうか、お勤めご苦労様。今日は遅いから帰った方が良いんじゃないか?......巻き込まれたくないだろう?。

 

 悲鳴をあげて逃げ出す門番。

 

 それを尻目に目の前の煌びやかな屋敷を見上げる。

 

 ティアリーズ男爵、この王都でもあまり良い噂を聞かない分かりやすい悪徳貴族だ。

 

 噂は噂と冒険者である俺とは関わりのない分野だと放置していたが、こんな事になるなら早々に切除しておけば良かったと後悔している。

 

 眼前の無駄に重厚な扉の前へ立ち腕を軽く回して準備運動を行い。

 

 それじゃあ、お邪魔しまーす!。

 

 扉を殴り壊した。

 

 近隣の方々には騒音に耳を塞いでもらい、俺は気にせずに屋敷の中へ入る。

 

 広い広間に豪華な調度品、中央の階段からは数多くの部屋の扉が見える。

 

「なっなんだ!」

 

 先程までお楽しみ中だったのか当主のサモヘド・ティアーズが泡を食ったように部屋から転がり出てきた。

 

 それに続いて当主の部屋から一緒に出てきた半裸の屈強な男達。

 

 ナニをしていたか想像もしたくは無いが......まさか銀級の冒険者を懐柔しているとは頭が痛い。

 

「おっお前は『冒険王』!」

 

 俺の顔に見覚えがあるのか慌てるが、直ぐに不敵に笑いながら口を開く。

 

「いっいかに黒級冒険者だろうと一塊の冒険者にすぎない貴様が貴族である私にこんな事をして許されるとでも」

 

 思ってるよ。

 

「は?」

 

 俺が何を言っているのか理解できないサモヘドを前に俺は両手を広げて懇切丁寧に説明してやる。

 

 当たり前だろ? 『黒』級である俺は国王にとある事を許されてるんだ。

 

 国益を損なわない範囲での自由権の行使をな。

 

 身に覚えがあるだろ?。

 

 気に入った女性冒険者の誘拐、監禁に強姦。

 

 スラムで流通している薬の入手に投与。

 

 調べれば調べるほど、罪状が膨れ上がってくのはある意味、面白かったよ。

 

 ......て事で、テメェ等が権力を使って好き勝手してたように。

 

 黒の権利を使って潰してやるよ。

 

 反論があるなら相手になるからご自由にって奴だな。

 

 覚悟しろよ?。

 

 ロディに手を出した事を後悔させてやるよ。

 

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