第7話 『プールのお化け』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第7話

『プールのお化け』





 科学では証明できない不思議な怪奇的な存在。彼らは日常生活に潜み、人々の生活を脅かす。




 そんな超常現象に立ち向かう人達がいる。




 ──霊能力者──




 彼らは怪奇現象に立ち向かう存在として知られている。









 真夏の日差しが私達を照らす。




「夏だ! プールだ!! 除霊だぁ!!」




 私はプールへと飛び込んだ。




「あー、涼しい〜」




 私は仰向けで水に浮かび、熱を持った身体を冷やす。




「レイさ〜ん、準備運動しっかりとしてくださいよ〜」




 プールサイドから楓ちゃんが私を呼ぶ。




「もうした〜」




「屈伸しただけじゃないですか! 依頼とはいえ、僕が顧問に掛け合って、昼から使えるようにしてもらったんですよー!! 怪我したら大変ですから!! 早く出てきてください!!」




「はいはい」




 私は渋々プールから出る。プールサイドには白い水着を来たリエと




「あなた、男なのよね?」




 私は楓ちゃんに聞く。




「男ですよ」




 女子用のスクール水着を着こなす楓ちゃん。




「……なんで女子用着てるの?」




 楓ちゃんはモジモジすると、顔を赤らめる。




「師匠にこれを着ろって……」




 プールの端にある屋根付きのベンチで休んでいる黒猫に近づく。




「あんた……」




 そして軽蔑の目でタカヒロさんを睨んだ。すると、黒猫は焦り出す。




「ま、待ってくれ!! 確かに着てみろとは言ったが、冗談だったんだ!! 本気で着てくるとは思ってなんて思わないだろ!! それに俺の嫁はミーちゃんだ。ミーちゃん以外はありえない!!」




 タカヒロさんはそんな言い訳を続ける。




「レイさん? どうしたんですか?」




 楓ちゃんが私達の元へとやってくる。




「いや、この変態が……」




「ああああぁぁぁぁ!!!!」




 私が言おうとすると、黒猫が大声を出してそれを阻止した。

 そんな様子を見ていた楓ちゃんは不思議な顔をしながらも、




「準備運動始めますよ。早く来てくださいね」




 私にそう言ってきた。




 まぁ、この変態のことを言っても、楓ちゃんには効果はなさそうだし……諦めよ。




 私は諦めてリエの元へと向かう。私がいなくなった後、楓ちゃんは黒猫に話しかける。




「その〜師匠…………に、似合ってますか?」




 黒猫は楓ちゃんの姿を見て、その質問について答えようとする。だが、




「ん、ミーちゃん、どうしたの……もしかして嫉妬……あ、ちょ、ミーちゃん、やめてーーー!!」




「師匠!? 師匠ォォォォォ!!」




「ギャァァァァァァ!!」




 タカヒロさんの悲鳴がプールに響き渡った。









 準備運動を終え、私達はプールの中に入る。




「それで今回の依頼ってどんな内容なんですか?」




 水に浸かっていると、髪が濡れて水着以外は、幽霊感の増したリエが私に聞いてきた。




「今回の依頼はこのプールに取り憑いてるっていう幽霊の除霊ね」




「プールにですか?」




 リエはプールを見渡す。




「幽霊の気配はないですけど」




 すると楓ちゃんが泳いできて、近くに来ると説明をした。




「僕、水泳部でこのプールよく使ってるんですけど、幽霊には会ったことないんですよ」




「え、じゃあ、誰の依頼なんですか?」




 リエの疑問に私が答えた。




「水泳部の顧問から依頼よ」




 今いるのは楓ちゃんの通う男子校。楓ちゃんがバイトしていることを聞いた顧問の先生が、楓ちゃんに頼んで依頼をしてきたのだ。




「どんな幽霊なんですか?」




 リエが聞くと、楓ちゃんが答える。




「顧問の話では部活中に、水面に女性の顔が浮かび上がるらしいよ。でも、部活中って、私そんな気配感じたことないんだよね」




「霊力を感じないですか……」




 それを聞いたリエは考えるが、私は考えるリエに水をかけた。




「な、何するんですか!?」




「幽霊がいないならいないで、顧問の勘違いってことでしょ、それなら遊んだ後に除霊したって伝えて、終わりよ!!」




 そう、依頼があっても全てが幽霊の仕業とは限らない。依頼人の勘違いということもある。




「それなら良いんですけど……」




 リエはなんだか気になることがあるようだが、結局遊んで時間が過ぎていく。






 夕日がプールサイドを照らす。





「いや〜、遊んだ遊んだ〜」




 私はプールサイドに上がり、タオルで身体を拭いていた。




「結局、幽霊でなかったですね」




「そうね。ま、退治したってことで報告しましょ」




 私は隣で髪の毛を拭いていた楓ちゃんにそう返す。




「ねぇ、リエ、ご飯何食べるー?」




 私は振り返り、リエの方を向く。リエはタオルを頭に被っただけで拭くことはなく、プールサイドに座ってしゃがみ込んでいた。




「リエ? どうした?」




「リエちゃん?」




 私達がリエに近づくと、リエはプールを見つめて震えていた。




「もしかしたら……可能性はあった…………でも、やっぱり…………」




「リエ、大丈夫?」




 私はリエの肩を掴むと、こちらを向かせる。




「ごめんなさい……私が、私がもっと早く……気づいていたら…………」




 リエの様子は怯えているようだった。




 何に怯えているのかはわからない。でも、このままにできなかった私は、リエを抱きしめる。

 そして耳元で安心させるため。




「大丈夫、大丈夫だから、何があったのか話して……」




 リエは震えながらも答えてくれた。




「悪霊です……まだ生まれたばかりだから、気配は小さかったですが…………このプールにいる人の生命力を少しずつ吸って、成長してたんです…………」




 すると、隣にいた楓ちゃんがプールを指差す。




「あ、あれって…………!?」




 私はリエを抱きしめながらプールを見る。すると、25メートルあるプール。その中央に大きく女性の顔が浮かび上がっていた。




「あれが……悪霊……。…………除霊しないと……」




 私がそう呟いて立ち上がろうとした時、リエが私を掴んで止めた。




「ダメ……悪霊は、私達とは次元が違う……逃げないと…………」




 水面に浮かぶ女性の顔がニヤリと笑う。

 すると、プールにある水が渦を巻き始める。




 その渦は一度飲み込まれれば、出ることができなそうな勢いで回転している。

 そしてその渦は強くなると、浮かび上がり水柱となった。




「……これはヤバそうね」




 私はリエを抱き上げると、隣にいる楓ちゃんに、




「逃げるよ!!」




 そう言ってプールの出口に向かって走り出した。




 全力で走る私達。しかし、リエを抱き抱えていることもあり、早く走れずに出口が遠く感じる。




 プールから不気味な女性の笑い声が響いてくる。




 走りながら私はプールの方を振り合えると、水柱が蛇のようにウネリ、横向きになると私達の方を向かって襲いかかってきていた。




「うおわぁ!?」




 私は変な声を出して、リエを守るように身構える。




 しかし、水柱は私達の背中の寸前で壁にぶつかったように弾けて止まった。




 私達の周りを透明な球体が包む。




「これは……」




 それはまるで漫画に出てきそうな不思議な力。




「はぁはぁ……」




 リエを見ると、リエは右手を突き出して息を荒げていた。




「もしかして……リエ…………あなたが……」




「私も伊達に何百年も、幽霊やってたわけじゃないんです……」




 リエが不思議な力を使い、水柱から守ってくれたらしい。しかし、力を使うにつれてリエの身体が薄くなっていく。




「リエ……!?」




「やっぱり、依代が弱いです…………もう、限界」




 リエがそう言うとバリアの力が弱まる。そして水柱はバリアを突き破り、私達の元へと向かってきた。




 私はリエを庇いながら大きく横にジャンプして、水柱を避けた。

 水柱はプールサイドにぶつかり、水滴を辺りに散らばらせる。




 私とリエは地面を転がる。




「リエ、大丈夫!?」




「はい……」




 一度避けた水柱だが、すぐに形を取り戻すと、転んでいる私達目掛けてもう一度襲い掛かってきた。




「レイさん、私は良いです。逃げてください」




「そんな……」




 水柱は向かってくる。だが、リエを見捨てることができなかった私は、リエを守るように抱きついた。




 もう避けられない。私はリエの冷たい身体を力強く包み込む。

 リエも力のない手で私にしがみつく。







 プールの入り口の方から、ビート板が超スピードで飛んできた。

 そして水柱をビート板が貫いて、水柱は弾けた。




 水柱は私達に届くことはなく、水滴に戻る。そして雨のように降り注いだ。




「レイさん、リエちゃん!!」




「楓ちゃん!!」




 プールの入り口にビート板を持った楓ちゃんが立っていた。




「今助けます!!」




 楓ちゃんはビート板を次々と投げて、水柱を破壊していく。

 弾丸のように飛んでいくビート板。流石の悪霊もこの超人的身体能力には敵わないようだ。

 水柱はすぐに再生するが、ビート板ですぐに破壊されていく。




 今のうちだと、私はリエを連れて急いで楓ちゃんのいる入り口まで向かう。

 そして到着することができたのだが……。




「あ、ビート板無くなっちゃいました……」




 楓ちゃんの手元にビート板が無くなった。ビート板が無くなったことで、水柱は再生を始める。




「ふふふ……ふふふふふふ…………」





 そして不気味な笑い声がプールサイドを包み込む。




 他に投げるものはない。リエはもう力が使えない。私は何もできない!!




「どうしたら良いのよォォォ!!」




 再生を完了した水柱は、私達に狙いを定める。




 私は入り口のところに置きっぱなしにしていたバックに駆け寄ると、何かないか中を広げて確かめる。




 だが、入っているのは化粧品やメモ帳。役に立ちそうなものはない。




「レイさん!!」




 水柱が向かってくる。焦った私はバックの中から一枚の紙を取り出した。

 その紙は自ら寄ってきて、この場で使われるために近づいてきたように、私のでの中に入る。




 だが、この時の私は焦っていたため、そんなことに気づくことはなく。ただ夢中で。




 その紙を投げていた。




 四つ折りにされた紙。私の手から離れた紙は、自らの意思で動いたように開かれる。

 そして中には狼の模様が描かれていた。




 紙から光が発せられる。その光に私は目を瞑った。そして開いた時、そこには煙のようなもので出来た狼がいた。




 その狼は光の速さで動くと、水柱を噛みちぎる。水柱を破壊した狼は大きく飛び上がると、プールの頭上に飛んだ。




 水面に映る女性の顔。狼はその悪霊に目掛けて、急降下した。




 狼が水面にぶつかると、水しぶきと光が当たりを包んだ。




 女性の悲鳴と狼の遠吠え。悪霊と共に狼は姿を消していた。









「終わったのか?」




 静かになったプールに、黒猫が戻ってきた。状況についていけずに固まっていた私達は、その声を聞いて我に帰った。




「タカヒロさん、どこ行ってたんですか?」




「…………」




「もしかして逃げてたんですか?」




「…………」




 黒猫は答えない。しかし、




「今回は許しますよ……」




 これだけの危険な状況だ。逃げ出したくもなるだろう。




「皆さん、無事ですか?」




 楓ちゃんが心配そうに私達の方にやってくる。




「ええ、なんとかね」




 あの時咄嗟に投げた紙。あれは以前お兄様に会ったときに渡された紙。

 あの紙が狼になって悪霊から私達を守ってくれた。




 しかし、悪霊と共にあの紙も消えてしまった。




「リエも大丈夫?」




 私はプールサイドにいるリエの方を見る。リエは横になってぐっすりと眠っていた。

 薄くなっていた身体も元に戻っている。




「疲れたのかな。報告は明日にしましょ、今日は帰るよ!」




 私は寝ているリエを背負うと、事務所に帰った。






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