第4話 『兄弟』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第4話

『兄弟』





「あー、依頼がない……」




 私はテーブルに両手を伸ばしてだらりとする。




 そんな私を横目にリエは黒猫の水を取り替えていた。

 水を皿に入れると床に置く。




「お水入れましたよ〜」




「にゃ……」




 今はミーちゃんが制御権を持っているらしく。猫らしい返事をして水を飲み始めた。




 ミーちゃんが水を飲むのを確認してから、リエは私の方を向く。




「確かに三日近く依頼ないですからね」




「そうなんだよな〜」




 もう三日も依頼が来ていない。こうも依頼が来ないと暇だ。




 そんな話をしていると水の飲み終えた黒猫が私のダラけているテーブルにジャンプして乗ってきた。




「客が来ないと商売にはならないよな。しかし、依頼を解決してあれだけ請求で良いのか?」




 黒猫はそう言って私に尋ねてきた。




「そうですね。小さなビルって言ってもそこそこの都会ですよ。家賃安くはないですよね」




 リエも疑問に思い質問してきた。そんな二人に私はだらけ切った状態で返答する。




「まぁ、資金はお兄様が援助してくれてるし、私はやりたいことをやってるだけよ」




「お兄様?」




 一人と一匹が首を傾げ、さらに質問しようとした時。

 黒猫が何かを感じ取った。




 毛を逆立たせ、玄関の方を見て警戒する。




「タカヒロさん? どうしたんですか?」




「いや、分からない。だけど、ミーちゃんが……ミーちゃんが怯えてるんだ」




 そう言うと黒猫はそそくさとテーブルから降りて、奥の部屋の隅へと隠れていった。




「え、タカヒロさん? ……いや、ミーちゃんかな、どこ行くんですか〜」




 それを追いかけてリエも奥の部屋へと消えていく。




 そんな中、私は感じていた。まだインターホンも鳴らされておらず、足音も聞こえない。

 だが、私たちのいるこの部屋を目指して、やってきている人がいる。




 私には分かる。私だから分かる。そう、あの人が来たんだ。この気配はある人だ。




 それを感じ取った私はダラけた状態からスッと姿勢を直し、乱れた髪を整える。

 そしてインターホンが鳴らされるのを待った。






 玄関からブザー音が聞こえ、インターホンが鳴らされる。

 私は立ち上がると玄関へと向かう。




 そして扉を開けると、そこには白髪の長髪に黒いスーツを着た男性と、赤い短髪の青年がいた。




「久しぶりだな。寒霧……」




「お兄様……」




 私はお兄様の顔を見つめる。




 なんてお美しい、愛おしのお兄様。私の王子様……。




 私とお兄様が見つめ合っていると、部屋の奥からガラガラと物音が聞こえてくる。おそらくミーちゃんとリエが何かを落としたのだろう。




「ん、誰かいるのか?」




 お兄様が私の隙間から部屋の中を見ようとする。だが、私は手を広げて視界を塞いだ。




「まっ待ってお兄様!!」




「なんだ、俺に見せられないものなのか?」




 お兄様は私に疑いの目を向けてくる。





 確かに見せられないものだ。幽霊と化け猫が追いかけっこしてるところなんて、見せられるはずがない。




 私が視界を塞いでいると、お兄様の連れの青年が「先輩……」とお兄様に向けて小声で呟いた。




 それを聞いたお兄様は青年に「ここで待ってろ」とだけ言うと、私を押して家の中へと入り込んできた。




「ちょっと、お兄様〜!!」




 私はお兄様の腰に捕まって引き止めようとするが、私は引き摺られて止めることができない。

 部屋に入ったお兄様は早速、事務所の中を見渡した。




「確かにさっき物音が聞こえたんだけどな……」




 お兄様がキョロキョロと見渡していると、黒い物体がお兄様の視線を横切った。




「に、にゃ〜」




 野太いおっさんの声で泣く猫。




 どうやら今はミーちゃんではなく、タカヒロさんが身体の制御権を持っているらしい。




 可愛くない猫の鳴き声に、私の表情は凍える。これではバレてしまう。しかし、




「なんだ、猫を飼ったのか?」




「え、ええ、そうなの!!」




 誤魔化せたらしい。




 お兄様は黒猫を抱き抱えると、事務所にあるテーブルに座った。




「お前が働きたいって言うから、許してやったは良いが……俺は心配で心配で……」




「そんな心配しないでよ〜、私だってもう大人よ」




「しかしな〜」




 心配そうに私を見つめるお兄様……。もっともっと私のことを見つめて!!





 その頃、兄は心の中は……。



 来ちゃった〜。可愛すぎる!!

 お前に会うために仕事を早く終わらせて来たんだ!!




 この兄弟、兄バカと妹バカのシスブラ兄弟だった。






「それでお兄様はなんでここに?」




 私が聞くとお兄様はビクッと肩を上がらせた。




「ま、仕事でな……」




 お兄様はそう言って目を逸らす。




 まさか、お兄様……。




 私はお兄様に疑いの目を向ける。




「お兄様……まさか、仕事を抜け出して…………」




 私に会いに……。っと言おうとしたが、そこまで言うのは恥ずかしかったからやめた。




 お兄様は首を振って否定する。




 いつも冷静で首をこんな高速に振ることがないお兄様が、首をこんな速度で振っているところを見て、私は可愛いと見惚れる。




「そんなことより、仕事は順調か?」




 妹に会うために仕事を早く終わらせてきたなんて、いなかった兄は話を変えた。




「はい、楽しくやってますよ!」




 私はそう言ってお兄様に笑顔で返した。




 依頼は少ない。だが、楽しくできているのは事実だ。




 今では友達もできたわけだし…………。




 私が答えたところで、黒猫がお兄様の腕から降りた。




「あ、タカヒロさん……」




「にゃ?」




 黒猫はかわいい猫の声で鳴いた。今はミーちゃんらしい。すごくややこしい。




「タカヒロ……?」




 その名前を聞いたお兄様の顔が険しくなる。




「いや、その……」




「猫の名前か? それとも……」




 お兄様はスーツの中に手を入れると、そこから銃を取り出してテーブルの下に銃口を向けた。




「ここにいる幽霊についてか……?」




 テーブルの下には銃口を向けられて怯えた表情のリエがいた。




「お兄様……!?」




「俺が気づかないとでも思ったか……。出て来い、隠れてる幽霊、そして猫もな……」




 それを言われてリエはテーブルから出てくると、目の前を通っていた黒猫を捕まえて、お兄様の前に立った。




 お兄様は動くリエにずっと銃口を向けている。




 幽霊には銃は効かないが、これが普通の銃ではないことにリエはなんとなく気づいたらしく。お兄様の言うことを素直に聞く。




「…………」




 緊張感が部屋を包む。




「お兄様……彼女達は悪い幽霊じゃないの……」




 お兄様は引き金に指をかける。











「分かってるよ。お前が楽しいって言ったんだ。俺はお前を信じるよ」




 そう言って銃を上に向け、撃つのをやめた。




 緊張感が抜けたのか、リエは崩れ落ちるように床に座った。黒猫も解放されてリエから離れていく。




「俺だって仕事柄、多くの幽霊には会ってる。無造作に除霊はしないさ」




 お兄様は銃をスーツの中にしまった。




 私も安心してホッとする。




 お兄様は私とは違い霊感があり、それを見込まれてFBIの調査官になった。

 霊能力を使用して犯人を追い、未解決事件を解決している。




 安心したら喉が乾いた私は、飲み物を用意しようと台所に向かう。




「お兄様も何か飲む?」




「ああ、頼む」




 私がお茶の用意をしていると、お兄様の携帯が鳴った。




 お兄様は電話に出ると、仕事の話のようで厳しい口調でしばらく話した後。




「すまん、仕事が入った。お茶は今度もらうよ」




 そう言うと立ち上がって、スーツを整える。




「お前が問題なく生活できてるようで良かった。また来るよ……」




 お兄様はそう言うと出て行く。玄関の外には青年が待っていた。




「先輩、連絡来ました?」




「ああ、早速向かうぞ」




 私は玄関まで追いかける。




「お兄様…………頑張ってくださいね!」




 私は笑顔で出迎える。それを聞いたお兄様はスーツの中から一枚の紙を取り出すと、それを私に向けて投げた。




 私がそれを受け取ると、それは四つ折りにされており中は見れないようになっている。




「困ったときはそれを開け。助けになるはずだ」




 お兄様はそう言って夕焼けの中に消えて行った。









 お兄様達が帰り、事務所はいつも通りの日常に戻った。




「お兄さん、帰っちゃいましたね。……見つかるなんて思ってなかったから、びっくりしましたよ」




 リエは嬉しそうに私の元へと駆け寄ってきた。




「そうね……」




 お兄様が帰り、私の心は穴が空いたように苦しい。

 私はティーカップを持って、窓の側に立つと、夕焼けを見つめて黄昏る。




「おい、ミーちゃんのご飯はまだか?」




 黒猫がご飯の催促を求める。それに返事をして、リエはキャットフードを取りに台所に向かった。




 私はカップに入った紅茶を一口飲む。そして再び窓の外を見たら、




「…………」




 窓に人が張り付いていた。




「師匠〜!!」








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