第12話 転ばぬ女勇者

「まぁ、初期装備としては贅沢ね。気に入ったわ」


「は、はい……それは何よりです、はぁ」


 私はショーンから武器を買い早速装備して、全身鏡で確認している。

 これが以下の内容だ。



【装備】

〇プラチナ(白金)シリーズ「美桜プロデュース」

頭:なし

体:白金鎖帷子服プラチナチェインメイルVIT+100

右手:白金の手甲プラチナガントレットVIT+25

左手:白金の手甲プラチナガントレットVIT+25

足:白金の足甲プラチナソルレットVIT+30

靴:天空の革靴スカイブーツAGI+50


魔力付与

 なし


その他

・全装備でAGI-50となる。



【装備:武器】

白金の両手剣プラチナソード:ATK+300

《魔力付与》

・1日に1回の戦闘で光属性の魔法効果で剣身から光輝を任意で放ち、その場にいる敵を一時的に錯乱状態にさせる。



【装飾品】

白光の指輪ライトリング

・ATK+50

《魔力付与》

・全ての状態異常を30%の確率で回避する。



 合計の攻撃力:350、防御力:210の強化に成功した。

 また本来なら敏捷力が-50になってしまうけど、『スカイブーツ』の装着でチャラとなっている。

 さらに指輪アイテム『ライトリング』の効果で、毒性や麻痺、混乱などの状態異常も陥りづらくなった。


 そして最も使えるのは『プラチナソード』ね。

 攻撃力の高さもそうだけど、1日に1回の戦闘で相手を錯乱させる効果は魅力的だ。

 私の《タイマー》と相性抜群の武器だと言えるわ。


「正直『白金の鎧プラチナアーマー』も防御力が高くて良かったんだけどね。男性用で胸が圧迫されて無理だったわ……まぁ『白金鎖帷子服プラチナチェインメイル』もコスプレっぽくていい感じね」


「確かに素敵で見事なおっぱい様だったからなぁ……うん」


 感触を思い出しているショーンに、私はキッと凝視した。

 彼は「じょ、冗談です、ははは」と笑って誤魔化している。


「それでミオさん……」


「ミオでいいわ。貴方の方が年上でしょ?」


「じゃあ、ミオ……これだけの装備、本来なら余裕で2千万Gは超える。それをたった40万Gで売ったんだ。だからそのぅ、キミのおっぱい触った件は穏便にしてください」


「わかった、今回は許してあげる。けど一生忘れないからね」


「ええ! ど、どういう意味だよ!? まさか尻の毛まで抜くつもりか!?」


「少し意味が違うわ、『これからもよろしく』って意味よ。残りのお金は目処が立てば、ちゃんと払うから、それまでツケにしておいて」


「ああ、わかった。けどキミ、なんだか雰囲気変わったな……少し物腰が柔らかくなったというか、本当はいい子なのか?」


「受けた恩はしっかり返し、やられた仕打ちは倍以上に返すタイプよ。まぁ、ムカつくことばっかりだったから、少し機嫌が良くなったのは確かね。それより私が女子だってのは、この世界じゃ貴方しか知らないんだから誰にも言っちゃ駄目よ」


「了解した……けど俺としては、女子のままの方が絶対に美人でウケがいいと思うけどなぁ……もったいねえ」


「勇者である以上、逆に女子の方が不利ってこともあるのよ。特にこの異世界じゃね……周りを見てよくわかったわ」


 特別女性が軽視されている世界じゃないようだけど、どいつも某ラノベばりに頭の悪い連中ばかりなのは確かね(偏見)。

 四人の勇者もあんなのだし、誰も期待なんてできないわ。


 唯一、まともだったのはクレア王女だけね。

 あとは、このショーンかしら。

 彼も単細胞だけど決して悪い人間ではないわ。こうして上質な装備も手に入ったしね。

 おかげで当面の戦闘で困ることはなさそうだ。


 次に揃えるのは……。


「――仲間ね。それが一番の問題だわ」


 ギルドで募集したいけど、私の悪評が広められた現状じゃ絶望的ね。

 国内が駄目なら他国か。


 あるいは……。


「それじゃショーン、色々とありがと。また来るわ」


「ああ、ミオも頑張れよ。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ」


 私はフッと微笑を浮かべ頷いて見せる。

 そのまま店を後にした。



『あれだけぼったくったのに何故か仲良くなりましたね? 彼の人柄もありますが……やっぱり美人は得ですね』


 フェアリーのアイリスが目の前を飛び回りながら皮肉を言ってくる。

 何が言いたいのよ、この駄女神。


「ツケだと言っているでしょ、目処が立てば必ず払うわ。それより金欠よ。またモンスターを狩りに行くわ。今度はもう少し強い奴を相手にするから案内してよね」


『わかりました。けど貴方って本当に女神使いが荒い勇者ですぅ!』


 うっさいわね。

 駄女神でも使えるモノは使うだけよ。



 そして三度目の森に入った。

 今度はアイリスのナビもあり、より深い樹海へと入って行く。

 すると突然、頭上から巨大な何かが降ってきた。


 私は素早く身を躱し、その正体を見極める。


 それは全身が黒い体毛に覆われ頭部に両角が生えた「鬼猿」と異名を持つ、『モノス』という大型猿獣のモンスターだった。

 どうやら巧みに木々を伝って襲ってきたようだ。

 なんでも初級冒険者にとって中ボスの位置にあたる強力なモンスターだとか。


「クッ! 《索敵》スキルがないから不意を突かれやすいわね! とっとと斃してレベルを上げるわよ!」


 私は『プラチナソード』を翳し、長い剣身から光輝を放たせる。

 その効果で、モノスは晦ませて錯乱状態となった。


「続いて――《タイマー》!」


 地面に剣先を突き刺し、ユニークスキルを発動させる。

 連動効果により、モノスの時間を10秒間奪った。


 私は《瞬足》スキルで一気に距離を詰め、斬撃を浴びせていく。

 武器を得て攻撃力が上昇したこともあって、10秒以内でモノスを『魔核石コア』に変えてやった。


「結構、防御力が高いようだけど三撃で斃してやったわ! 《タイマー》で停止させた状態で攻撃すると、クリティカルヒットが発生しやすくなるようね! それに『魔核石コア』も他のモンスターより相当大きいわ! その分お金になりそう、フフフ」


『普通は初級パーティが一丸となって、ようやく斃せるモンスターですよ。本当、美桜さんってどうなっているんですか?』


「……知らないわ。もう少し探索してから戻りましょう」


 それから二時間ほど探索し、出現するモンスターを手あたり次第に葬って行った。

 レベルも上がり、気が付くと「レベル14」となっている。

 望んでいたとおり《索敵》スキルを習得し、《剣術》スキルも身に着けていた。


 果たしてどれほど強くなれば魔王を斃せるかはわからないけど、まだ二日目にしては順調なのは確かだ。



 夕方、再びギルドにて。


「……100万Gになります。あのぅ」


 受付嬢が何か言いたそうに首を傾げてみせる。


「何ですか?」


「いえ、装いが変わったからもあるのでしょうか……。そのぅ、なんと言いましょうか……毅然とした態度といい、私には噂ほどの悪いお人とは思えなくて」


「貴女、名前は?」


「ルナと申しますが、何か?」


「ありがとう、ルナ。これからもよろしくね」


「は、はい」


 私はルナに向けて微笑む。

 報酬金を受け取ると、踵返して颯爽とギルドを出た。



 さぁて、どうしょうか。

 ある程度お金は溜まったけど、まだやるべきことがある。

 どうしても早急に解決しなければならないこと。


「ここは王道テンプレを歩むとするわ」


『美桜さん、それって何ですか?』


「――仲間を獲得しに行くのよ」

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