知らん人来たる

 娘も小学生になると「遊ぶ約束」をするようになる。とはいえそこはまだ2年生、「放課後にあそぼ」くらいの雑な約束を互いに交わしてしまう…ようだ。


 僕は在宅でひとり仕事をしていることも多い。重要な会議なんかでなければ、ピンポンが鳴れば玄関に出る。んで、そこには知らない男性や女性が立っていることも多い。配達や回覧板なら良い。100歩譲って営業や宗教勧誘でも良いのだ。困るのは子どもだ。


 「娘ちゃんと遊ぶ約束をしたんです」

そう言って家に入ってこようとするわけである。8歳の女性が。「いや今日娘は学童に行ってて僕1人で仕事してるんです」


そんな断り方では子供に通じないぞ!


「いえ!約束したんで!待ってます!」

強引に僕の脇の下から我が家に入ろうとするキッズ!

ダメに決まってんだろ!

素早く体を動かしてブロック!


「いえダメです僕は仕事してます。一旦家にお帰り下さい」

体で押し出すようにしてドアを閉める!


 まあだいたいそんな感じでなんとかなっているが、一度はトイレに行こうと廊下に出たら勝手に入り込んだ9歳女性が出てきた僕を見るでもなく一心に持参した土の入った水槽を見つめておりギョッとしたことがある。鍵を閉め忘れたのだ。


「どうかされましたか?」

恐る恐る聞く。

「ヤマトトカゲです。家の駐車場に居て、捕まえて育てています」


ちげえよ、お前なんで人んちに上がり込んでんだよ。


「なるほどトカゲ…僕も昔捕まえていました」


つい調子を合わせてしまう。難しいことだが、彼女らに悪い印象を持たれてしまうと娘の学校生活に支障が出るかもしれないし、近所付き合いもあるのだ。

 一方で「あの家にウチの娘が行ったらあの家のお父さんがすごいベタベタしてきたんですって!!ペド野郎かしら!」


となるのもヤバすぎる。

水槽の中には土と枯葉、そして大きなトカゲがいた。尻尾が切れている。


「尻尾、切れちゃってるね」

「私が切りました」

お前かよ!怖いよ!


「ああそう……ところで娘は今いなくて……」


「そうですか」

 そう答えてさっさと帰っていく少女。なんだったんだ。

「うちの駐車場にはトカゲたくさんいるけど、くる?」素敵な笑みだ。


「いえ、行きたいけど、いま仕事中でして」


そんな日もあった。「娘の父親」という存在にならなければ体験しなかったことだろう。変な感じだ。

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