第40話 インテリジェンス・アイテムの涙

「わたしは魔王の娘です、ビリーさん。ここにいてはいけないんです」


「いいや、イーデン。お前が魔族だろうが、天使だろうが、人間だろうが関係ないね。お前はお前だろ」


 本来、ビリーはこのシナリオにおいてイーデンちゃんを追い詰める側の人間だ。このイベントを経て、イーデンちゃんは今度こそ孤立する。で、たった一人の戦場へ赴くのだ。


「気になっていたのは、ダテ氏がケフェスの存在を知っていたことだ。そうだよな、ダテよ」


『うん。ケフェスは最後まで、イーデンちゃんのライバルとして立ちはだかる存在なんだ』


「だが、キミはそれを隠していた。イーデンをかばうために。ケフェスが姿を表すことで、とうとう彼女の素性を明かした。はじめから明かしていたらば、我々は彼女を疑い、関係は悪くなっていただろう。賢明な判断だ」


『スパイとして、イーデンちゃんを送り込んだって可能性もあるよ』


 ゴドウィンはそう言ってくれるが、私はそう言い返す。


『第一、私はポッと出のインテリジェンス・アイテムだよ? しゃべるコト以外の特徴なんてない』


「自分を卑下するな。我々は何度も、キミに窮地を救ってもらった。それは揺るぎない」


『信用させるためとか、思わなかったの?』


「それなら、はじめから我々と離したりはしない。自分の重要性をアピールするため、べったりとくっつくはずだ」


『それは!』


 単に、私が攻略を優先したに過ぎない。マージョリーたんをイーデンちゃんごと守るためには、雷鳴の戦闘スタイルに合わせていられないからだ。


「孤児のみんな、オレが帰ってくるたびに、イーデンの話をしてくれるんだ。今日は一緒に飯を食ったとか、絵や畑仕事を教えてくれたとか。みんな手を土まみれにして、笑ってたぜ。オレたちがどれだけ魔物を殺しても、させてあげられなかった笑顔だ。そんなヤツが、スパイだとか思えねえ」


『子どもを手なづけていたかも』


「ムリだよ。イーデンには。なあシノ?」


 ビリーだけではない。シノさんもうなずく。


「ワタシたちは仲間。それでいい」


「じゃあ、わたしはここにいていいんですか?」


「そう。仲間を失う訳にはいかない」


 涙ぐむイーデンちゃんを、マージョリーたんが抱きしめる。


「よかったです。大事な妹を、わたくしは死なせずに済んだのですわね?」


「わたしが、マージョリーさんの妹?」


「ええ。ここに、魔王の娘なんていません。ここにいるのは、わたくしの妹イーデン」


「ありがとう……マージョリー、姉さん」


 マージョリーたんとイーデンちゃんの体温が、私にまで伝わってきた。


「あら、ダテさん、泣いていらっしゃるの?」


『私が?』


「だってほら、指に水が」


 マージョリーたんの右薬指には、指輪状態の私が収まっている。そこから、水が漏れていた。


『やっば! 湿気が』


「ごまかさなくても、よろしくて。わたくしたちのために、涙を流してくださったのですね?」


 あうう。尊い。尊すぎて死ぬ。


『よし、じゃあ今後の作戦を説明します!』


 まずは近隣の村まで、グレーデン城下町の住民を避難させる。


 その間には、ケフェスが守る砦が。


 そこを叩き、『雷鳴』たちで住民をそちらへ誘導する。


「ケフェスの相手は、わたくしとイーデンさんでいきますわ」


 マージョリーたんが、ケフェス打倒に志願してくれた。


「あたしも、そっちに回るわ。あの娘には煮え湯を飲まされているから。サポートでもいいから、参加させてちょうだい」


『いいよ。ではアマネはゴットフリート王子の方へ』


「承知しました」と、アマネ姫は承諾してくれる。


「あたしたちだけで、大丈夫かしら?」


『やるしかないよ。最悪、雷鳴とゴットフリート王子の手を借りて、挟み撃ちにしちゃおう』


「オッケー」


 だが、そうならないようにするのが、私たちの役目だ。 


『最後に、カリスとシノさん。城の奪還までに、グレーデン王の警備に当たって。またゲミュートが来るかもしれないし。ただシノさんは、ムリをしないで』


「承知!」と、カリスがひざまずく。


「了解」と、シノさんもベッドから半身を起こした。


「ゼットさん、大丈夫ですか? さっきから一言も」


『ずびばぜん。ぢゃんどぎいでいまじだので』


 一番泣いていたのは、ゼットさんのようである。

 

(第四章 完)

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