第36話 リシュパン城 防衛戦

 敵はフィゼだけではない。ゴットフリート王子の拠点である、クレンデルの兵士まで現れたではないか。


「魔物だけで、攻め込めそう」


 とことんやる気のないフィゼは、城の三方を魔物で取り囲んだ。


「うへえ! 大量の増援だぜ!」


「しかも、相手はテレポートの範囲外。地味に難しい」


 ビリーとシノさんの連携を見ているためか、フィゼは不用意にこちらへ近づこうとはしない。ザコをふっとばして、一気に敵の拠点まで進みたいのだが。


『ゴドウィン、ビリー、シノさんたちは下がって!』


 私は『雷鳴』のみんなに、左翼に広がった魔物の撃退を頼む。あちらのほうが、大ボスクラスが多い。


『アマネ姫も、お願いできますか?』


 大量の敵が相手なら、アマネ姫のテンラが重要な役割を持つ。


「ええ。お手伝いをして参ります」


 テンラに乗って、左翼側へと突撃していった。


『カリス、単身突撃になるけどいける?』


「お安い御用でございます! ダテ殿」


 私の指示で、カリスは右翼側の増援に向かう。


「ダテ殿、我々はどうすれば?」


 ゴットフリートが、私に意見を聞いてきた。


『グレンデル側で、話がわかる人は?』


 魔物だけなら、マップ兵器で蹴散らせる。だが、兵隊の中に説得可能な人がいれば、巻き添えにはできない。


「アイアンサイド将軍なら」


『どの人?』


「中央にて、馬に乗っている男性です」


 いるね。ウルフカットのマッチョ男性が。


『じゃあ、その人以外はやっつけちゃうね』


 魔物に取り囲まれいるので、


『将軍とは、タイマンでお願いします。我々は、人間側にかまけていられないので」


 私たちの武器は強力すぎて、人間相手だと肉体を蒸発させてしまいかねない。省エネモードで戦わないと。


 こんな形の、マップ兵器対策があるとはー。システムの穴をつく作戦は、相手もやってくるのか。


 王子を先行させて、私たちは攻撃に備える。


『いくよ、ゼットさん。セントリーガンモード!』


 私とゼットさんは、塹壕を築いて盾付きのマシンガンとなった。


「これは面妖な。どうやって動かしますの?」


「ヴィル王女様の【ケラウノス】とは違った杖ですね?」


 未知の武器に、マージョリーたんもイーデンちゃんも、戸惑っている。


『マージョリーたん、イーデンちゃん、構えているだけでいいよ。後はこっちで照準を合わせるから』


 二人には、魔力を提供してもらうだけでいい。


 王子相手に突っ込んでくる兵隊を、撃ち抜いていく。殺しているわけではない。銃弾も、単なる水の塊である。ショック魔法を詰め込んだ水の弾を当てて、兵士を気絶させているだけだ。


『ヴィル王女は、王子にバフを撒いて!』


「どういう意味?」


『【肉体強化】、【魔法障壁】、【毒攻撃軽減】、全部王子にかけてあげて!』


「わかったわ! それそれ!」


 ヴィル王女は、【ケラウノス】で王子を撃つ。攻撃したのではない。雷撃に魔力付与の効果を注ぎ込み、撃っているのだ。


 王女から雷を受けたゴットフリート王子は、周りを赤と青のエナジーシールドで守られる。自分も盾を構えて前進しているが、その防御力をヴィル王女がさらに高めたのだ。


「みんながんばってーっ」


 ヴィル王女が、ダンスを始めた。城にいる味方全員に、肉体強化のバフを撒いているのだ。


 これがヴィル姫など【プリンセス】の常設技能、【鼓舞】だ。さらにヴィル王女には【統率】も持たせている。周辺にいる味方の命中率や回避率も、上がっていた。


『押して押して、戦場を押し上げて!』


 兵隊を排除しつつ、ジリジリとフィゼの待機位置まで寄せていく。


 フィゼは、私たちとまともにやり合うつもりはない。ある程度ダメージを与えたら逃げてしまう、いわゆる「撤退ボス」みたいな立ち位置だろう。


 ここらで、なんとか倒しておきたいが。


 私は頭を振る。今は欲をかくのはよそう。


 王子と将軍の、話し合いをさせねば。

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