第19話 イヤボーンの本来の使い方

 イーデンちゃんは、アマネ姫のガードに回る。ヴィル姫の守りには、カリスについてもらった。


【アルカナ・フラッシュ】は、最強のマップ兵器である。イーデンちゃんにしか使えず、彼女を象徴する技である。


 聖女の怒りや悲しみの感情を、魔力として放出するのだ。


「そんなすごい武装ですの?」


『このゲーム最大の、バランス破壊武器だよ。またの名を、「イヤボーン」というんだ』


 つまり本来は、マージョリーたんの死を代償にして習得するのである。ようやく通常兵器として使えるのが、レベル四〇になってから。


 私も正直、ここまで素早くレベルアップできるなんて思っていなかった。狙ってはいたが、この速度は想定外だ。ということは。


『シナリオの進行が、早まっている?』


 あまり考えたくない想像が、頭をよぎる。 


海坊主ダゴンがやられただって!? シャクだねぇ! けど、まだこっちにはこれだけの軍勢が!」


 メキラが、剣を振り上げた。


 船より大きいイカのモンスターに乗って、銀髪の少女が現れる。ダルいのか、イカの頭に全体重をかけてのしかかっている。


「なに、姉さん?」


「よく来た、フィゼ。召喚だ! 行け!」


「人使いが荒い」


 姉メキラの指示で、フィゼというダウナー女子が手をかざす。

 空から海から陸から、魔物が大群で押し寄せてきた。

 敵は、サクラダの地点からも出現する。前も後ろも、敵だらけだ。


「増援! テンラ、突撃を!」


 アマネ姫が、鳥型機械のテンラに指示を出す。

 敵陣に向かって、桜色の羽ばたきを食らわせた。マップ兵器だろう。

 翼から放たれた高圧の魔力を浴びて、魔物たちが爆発していく。


 だが、テンラは方向転換を余儀なくされた。


「ダメです。こうも密集していては、魔法が味方に当たってしまいますね」


 モンスターは、まだ大勢現れる。


 中でも、海から現れた大男が異彩を放つ。船を揺らし、メキラさえたたらを踏む。


「標的はこっちじゃないよ海坊主! いうことを聞きな!」


「ムリ。この大入道ギガンテス率いる妖怪軍団は、我々魔族の覇権すら狙っている。じゃあわたし帰るから」


 フィゼは、あくびを噛み殺す。


「アンタ、魔物をコントロールできるだろ? 何帰ろうとしているの?」


「もう起きていられない。わたしは常人の数倍、脳のリソースを割いている。魔物を大量に操ろうとすると、脳波をさらに酷使する。おやすみ」


 まくしたてた後、電池が切れたようにフィゼは眠った。

 イカのモンスターと共に、少女フィゼは海へと沈んでいった。最後に、イーデンちゃんへ視線をちらっと向けて。


「シャクだねぇ。相変わらず、無責任なやつだ。しかし、これでサクラダは終わりさ!」


「そうはいきませんわ!」


「威勢がいいね。アタシはアンタの命をいただくよ!」


 メキラはマージョリーたんに、ターゲットを絞る。


「これで、イーデンさんの技を炸裂させればよろしくて?」


『OKOK。ナイスだよ、マージョリーたん。イーデンちゃん! その魔法の範囲は狭いよ。十分に敵を引き付けてから撃って!』


 私の合図で、イーデンちゃんが意識を集中させた。


「なんだいあの魔力は!? 味方まで消し飛ばす気かい?」


「人の心配より、ご自分の心配をなさったら?」


「それはこっちのセリフだよ!」


 メキラが、両手に持つ大剣をマージョリーたんへ振り下ろす。

 対するマージョリーたんが、ハルバートで剣を軽々と防ぐ。


「やるじゃんか! シャクだね! 人間のくせに!」


「あなた、ドワーフがベースですのね? 先程の女の子は、エルフの血が混じっていたようですが」


 どうやら、彼女たち三姉妹は母親が違うようだ。


「よくわかったね! みんな愛人の子だよ! 本物の娘は死んじまったからさ!」


 そうか。彼女たちは「そう聞かされている」んだね。


「どっちが魔王の娘としてふさわしいか、魔王はあたしらに決めさせているのさ。あのフィゼは魔王の座なんて、興味なさげのようだけど!」


 マージョリーたんが、メキラの一撃に弾き飛ばされる。

 さすがに腕力戦で魔族を相手にすれば、マージョリーたんでも苦戦するか。


「なにを企んでるのか知らないけど、アタシを巻き添えにしようなんてそうはいかないよ」


 盾である私を、メキラがケンカキックで蹴り飛ばす。


「面白い武器じゃないか。こちらの攻撃をインパクトの瞬間で跳ね返すなんてさ」


 あんたの汚い靴の裏を、つけられたくなかったんだい。

 しゃべらないで、心のなかで悪態をつく。


「まあいいさ。その盾を抱きしめながら、おねんねしな!」


 必殺の剣が、マージョリーたんに振り下ろされた。


「【アルカナ・フラッシュ】!」


 同時に、イーデンちゃんの魔法が発動する。


「ごほおお!?」


 イーデンちゃんのアルカナ・フラッシュを背中に浴びて、酷い火傷を負う。


「わたくしのところにも、魔法が迫ってまいりましたわ!」


 マージョリーたんは、避けようとした。


『大丈夫! じっとしてて!』


 青白い光のドームは、私たちをすり抜けていく。マージョリーたんに、傷ひとつつけない。


「なんですの、この暖かい光は?」


『これがアルカナ・フラッシュのチート性能なんだ。名付けて、【敵味方識別魔法】だよ』


 つまり、味方にはノーダメージなのだ。

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